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競技セブンスカイズ〜7機vs7機! 撃墜を狙い合う人型装甲機兵《モービルギア》たちが翔け抜ける未来への切符〜  作者: 元毛玉
第二部 新しい風

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第三十話 ミラージュ・シー

 メリーは隣のテーブルから椅子を移動させ、ナックの隣に陣取った。


「ナックさん、やっとAリーグに上がってきてくれて嬉しい」

「昨日は勝たせてもらった。だが、バルキリーも以前より実力をつけたな。バックスの彼女は81隊だろう? 見違えた」

「嬉しいです。ナックさんにそんなふうに褒められるなんて、本人も絶対喜ぶ」


 この人は一体誰だろう。

 そう思ってしまうほどの豹変ぶりで、いつものゴリラは鳴りを潜め、目にはハートマークが浮かんで見えるほど。

 僕のナックに近づかないで欲しい。胸がムカムカする。


「そんなに近くに座る必要ありますか? 大体、同席するのなら、一言あるべきだと僕は思いますけど?」

「あら、マリンと違って随分と奥手なのね」


 僕が抗議をしても、二人は思い出話に花を咲かせていく。


「マリンは昔から積極的だったからな。ハーベストも似ているところはある」

「でも、若いし、経験不足よね? 私ならナックさんを満足させられるわ」

「マリンの友人を恋愛対象(おんな)としては見れないな。メリーなら他に良い男が見つかるだろう。マリンみたいにな」


 メリーは懐かしそうに目を細め、テーブルに頬杖をついた。


「ウェハーさんを掴まえたマリンは凄いよ。男を見る目は確かだったね」

「俺もそう思う。あれだけ献身的な男はそういない。マリンに比べ、俺の見る目は足りていなかった」


 ナックも海を眺め、懐かしむような表情を見せる。

 さっきからマリンの話ばかりで、僕が割って入る余地がない。


「メリーさんは別チームなのに、やたらうちのメンバーのマリンさんに詳しいんですね。対戦経験が多いとか?」

「私? 私はマリンとタッグを組んでいたからね。誰よりもマリンのことは詳しいはずさ。とは言っても、ウェハーさんの方が夜は詳しいかも知れないね」


 メリーが僕に向けてウインクをする。ナックも僕に視線を向けた。


「ハーベストはミラージュ・シーという言葉を聞いたことがないのか?」


 僕はムッとしてつい強めに返してしまう。


「それくらい僕でも知っています。戦時中の防衛戦で伝説となったコンビですよ」

「それがメリーとマリンだ」

「嘘!?」


 数々の逸話が残るミラージュ・シー。

 強化兵士のコンビという情報以外は伏せられているが、たった2機で援軍が到着するまでの防衛を成し遂げた。


 政府が削除するので碌な映像は残っていないけど、僕も見たことがある。

 先日の夢幻のフェイント。


 どこかで見たことがあると思っていたら、かのミラージュ・シーの映像だったといまさら気づいた。

 夢幻のフェイントとタッグを組み、敵を機能不全に陥らせた機影を思いだす。


「なら、あの敵の連携を崩壊させる動きの人がマリンさんですか?」

「そうだ。大海と呼ばれるマリンの十八番だな」

「うふふ。まだ幼いハーベストちゃんに、あんな動きは無理よ」


 メリーがからかうような笑みを浮かべる。


「マリンはあの能力のせいで、心を病むほどに辛い日々と向き合ってきたのよ」


 喋りながらメリーの表情は沈む。


「だからアンタには超えられない。私に勝ったくらいでマリンに並んだ気にならないで頂戴」

「どんな能力かは知りませんが、心を強く持っていれば病むことなんてないかと」


 反論をすると、メリーは視線を落とした。

 代わりにナックが口を挟む。


「そういえば、ウェハーと出会ってからだったな。マリンの口癖は」


 ナックは再び海に視線を戻し、メリーも表情を綻ばせ、海を見た。


 ──「いつでもポジティブに」


 ナックとメリーの言葉が重なる。


「それってチーザさんの口癖ですよね?」

「元々はマリンの口癖だ」


 そう返すナックの笑みも柔らかかった。

 僕が言葉を失っていると、店内のカウンターの方から騒がしい声が聞こえだす。

 数名のお客がこちらへ駆け寄ってきた。


「メリー選手にハーベスト選手ですよね! 昨日の試合、凄かったです!」

「私も会場に観にいきました! サインください!」


 長居をしてしまったせいか、僕らに気づいたお客が増え始めている。

 サインに応えつつナックを盗み見ると「そろそろ出るか」と一人で席をたった。


「……ずるいなぁ」

「え? 何か言いましたかハーベスト選手?」

「いえ、何でもないですよ。次の方どうぞ」


 ナックは頑なにメディアへの露出を避けているので、素顔を知っているファンは少ない。

 サインを終える頃には、いつの間にかナックは消えていた。



 ───────────────────



 翌日。

 雑誌の取材で、ソルティやキャメルと共に撮影スタジオへ訪れていた。

 スタッフの人たちへ挨拶をすませ、控室に入る。

 僕が撮影スケジュールを確認していると、キャメルのウォームホワイトの瞳が覗きこんできた。


「ハーベスト、どうしたの? 何か浮かない顔ね」

「昨日、色々ありまして……コインランドリーにいれていた洗濯物も回収を忘れてしまって」

「そう。忘れ物で晒されていたのはハーベストのだったのね」


 今朝、恥ずかしい思いをしながら受け取りにいった。もう二度とごめんだ。


「ハーベストがそんなつまらないミスをするなんて珍しい」

「もう忘れましょう。ところで今日の衣装はこれ……本気なんですか?」


 かなり際どい水着。

 男性紙向けのグラビア撮影だと聞いてはいたけど、着たこともない面積の水着に多少物怖じしてしまう。

 どうして水着が必要なのか分からないけど、これも仕事と割りきる。

 隣のキャメルも苦笑い。


「アカトのためとわかっていても、ちょっと恥ずかしいね。あたいは若くないし」

「ですよね」


 先に意見を聞けて良かった。

 何も知らなかったら、「これが都会の標準なのか」と勘違いして着た可能性すらあるから。


 既に着替えとヘアメイクを終えたソルティが、タオルをふり回す。

 普段と違い、女性らしい内巻きミディアムにしているのに言動で台無しだ。


「この程度で恥ずかしいとか言ってんじゃねーぞ! アカトの野郎のためにも体張れや、オラァ!」


 ビキニ水着を着たソルティの腹部には、古傷が見える。

 戦争でついた傷だろうか。あまり語ってくれないので僕は知らないことが多い。


「ソルティさんは恥ずかしいという言葉が無縁な存在ですしね。ところで……」


 古傷の話題を振ろうとしたら、控室の扉がノックされる。


「ハーちゃんたちはもう着替えた? ウチ、先にスタジオいってるね」


 チーザの声が聞こえ、パタパタとした足音が遠のいていく。

 僕とキャメルは覚悟を決め、頷きあった。


 大慌てで着替えとメイクを終え、撮影スタジオへ入る。

 そこでは、パレオワンピースを身に纏ったチーザの撮影が行われていた。


「チーザ選手、もう少し腕で胸元を隠す感じで……」

「こうですか?」

「そう、そうです! ありがとうございます!」


 普段はボサボサショートなのに、梳かされてスッキリしたボブヘアーになっているチーザは、どこからどうみても女の子にしか見えない。


 チーザの背景(バック)には花すら見える気がする。


 パレオで腰回りから下は誤魔化しているし、カメラマンも読者受けを狙ってか、胸元を隠させる仕草ばかりをオーダーしている。


「さすが彼女にしたい男性選手No.1のチーザさんですね」

「それ、本人に言ったらダメ」

「その辺は僕だって分かってますから」


 チーザは女の子と間違われるのが嫌で、普段は髪をわざとボサボサにしている。

 今みたく髪を整えていた頃は、毎週のように男性から告白されていたそうだ。


 気持ちは分かる。僕も男だったなら、告白しにいっていると思うから。

 続けて、チーザの隣にソルティも参加し、二人の撮影となっていった。


「ソルティ選手いいですね~。中性的な容姿から一転して、今日は素晴らしい美貌です! 少し前屈みになって胸を盛り上げて頂けますか?」

「オラ、こういうのが男は好きなんだろ? ほれほれ!」


 ソルティは下品なまでのサービスをしている。

 僕らエクリプスが目立つことで、アカトが逃げやすくするためとはいえ、正直やりすぎにも思えてしまう。


「ソルティさんの水着はほとんど紐じゃないですか。僕には絶対に無理です」

「あたいだってあそこまでのは無理」


 チラリとキャメルの大人の体を見てしまい、僕には溜め息しか出てこなかった。



※詳しく知りたい人向けの情報です。読み飛ばしても本編に影響はありません。


───用語説明・補足解説:

・彼女にしたい男性選手ランキング

 なぜかファンが勝手に始めているランキング。

 チーザは2位にダブルスコアをつけての圧倒的1位に君臨している。


◆チーザのイメージイラスト(普段)

挿絵(By みてみん)


◆チーザのイメージイラスト(メイク&髪を整えたとき)

挿絵(By みてみん)

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i1071624
― 新着の感想 ―
チーザのイメージイラスト可愛いですね。 僕も誰かにイラストを描いてもらえるように頑張ります。
 戦争を経験しているか否か、強化兵士であるかどうかも含めて、下の世代にはやっぱり分からない(届かない)ところがあるような気がします……。  それからチーザは【彼女にしたい男性選手No.1】……男の娘…
 お邪魔しています。  戦いの場面以外でもそれぞれが見せる顔は、個性がありますね。とっても一人一人の雰囲気が伝わってきます。  この撮影会は、仲間を助けるために引き受けたのかな。アカトのことが気にな…
感想一覧
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