第二十八話 ツートップ
《ゴーーール! 土煙が立ち昇ったのは黄色です!》
強烈な墜落音に紛れ、急襲した3機にソルティが囲まれる。
ソルティ機は落雷じみた急落をし、地表にキスの寸止めをして振り払いに臨む。
『私がフォローします!』
『来んなクロワ! お前は揺れずにチームの芯でいなきゃダメだろーが!』
クロワがわずかに陣形を崩しかけたのを、ソルティが制する。
背水の陣で無数の被弾をしながらも飛翔し、地表の芝生も波打たせていく。
ふいに空から急襲するグレネードの雨。
吹き荒れる焦げた匂いと共に、大地に大輪を咲かせた。
『補助輪代わりだ』
『ナック! ちったぁ優しくエスコートしろよ!』
爆炎と轟音で、視覚と聴覚の双方へのブラインド。
瞬時に判断して即応できるのが磁石コンビの強みだ。
傷ついた紺色の大鷲が、相棒の助けを得て再び翼を羽ばたかせる。
エクリプスが体勢を立て直したのと同時、キャメルとウェハーが動く。
しかし、2機を相手取り、一切の崩れを見せない敵エースのメリー。
夢幻と呼ばれる所以のフェイント操縦が冴え、ベテラン勢が翻弄されていた。
『相変わらず動きが読めない! いい加減捕まって!』
『あ~ら、キャメル。プロミネンスの頃より威勢がいいじゃない。もっと遊びましょ?』
激しいチェイスとビームの応酬。
不規則な軌道を描くかに見えて、マイクロミサイルポッドを撒くタイミングも、位置も、計算され尽くしている。
クロワ機の射線が通らず、クロワは焦れているのか、背後に忍び寄る敵にすら気づいていない。
「クロワさん! 自分のことに集中!」
『クッ!』
警告が間に合い、即興の格闘で火花を散らしつつ応戦するクロワ。
救援に向かおうにも敵2機が並走していて不用意には動けず、MCが多いチームは厄介だと痛感する。
奥歯を噛みしめていると、焦燥を引き裂く機影が視界に割りこむ。
『待たせたなクロワ! こっちに寄越しやがれ!』
『ハウらせんなよ暴言王! すっこんでな!』
ソルティが乱戦へ持ちこみ、敵と縺れ合いながら至近距離でグレネードを全弾叩きこんだ。
あれでは自身も被弾を避けられない。
常軌を逸した行動に会場は大盛りあがりとなる。
《怒濤のスパーク地獄だーーー! 灼熱のビーチラインが空に描かれるーーー!》
二つの飛翔体は捻じれ、逆竜巻の様相で落下していきそのまま墜落した。
敵味方が唖然とする中、ノイズ割れの音声が響く。
『残り4つだ! お前らならできる! 日食で全部飲みこんでやれ!』
傲岸不遜で自分勝手なソルティが、献身で以って勝てと示した。
操縦桿を掴む手にも力が入る。
反省は後だ。今やるべきことはただ一つ。
思いが伝播したのは僕だけじゃない。
『師匠! 仇は取ってみせます!』
『終わったらレアなステーキを奢ってやる。続け、チーザ』
両チームのチェイスが速度を上げる。
魂を貫く戦乙女たちの槍と、太陽を刈る死神の大鎌が無数に切り結ぶ。
空をも焦がす熱を大渦が描き始めた。
『日陰者同士、よろしくやりましょ!』
『夜とは違い、エクリプスは常に太陽が空にある』
『ポエマーかよ死神! 大人しくヴァルハラへ沈め!』
ナックが敵2機を相手に一歩も引かず、敵キーパーからの引き剥がしにかかる。
挙動指示で指揮権を移譲されたチーザが、グレネードでいくつもの通行止め区画を作りだす。
それはバージンロードそのもの。
僕が夢幻に必ず勝つと信じ、メリー機と一対一の状況を作りあげた。
『ハーちゃん! デートの時間だよ!』
「夢見がちなキーパーをマリッジレッドな感じにしてやりますよ!」
『ハッ、大層なお膳立て。朝はまだだから子供は寝てな!』
強化人間であることを活かした夢幻のフェイントは、無茶なG負荷での予測の裏切り。
挙動から動きを予想するほどに、錯覚も相まって早く動くように見えるだけ。
対策はシンプルでいい。
メリー機に対し、速攻をしかける。
カメラが至近に捉える鉄騎。小刻みなスラスターマズルが何度も視界を横切る。
それらを無視し、ソルティ仕込みの勝手で一方的な攻撃を組み立てていく。
『ちょっと! お作法がなってないんじゃないの!?』
『残念ながら暴言王は! 僕の教師ですよ!』
『可愛くないガキね!』
流れてきた爆炎の残り香に紛れ、距離を取ろうとするメリー。
逃がすまいと直線最短距離で追い縋ったが、黒煙で迷子となった拳は空を切る。
『甘いね! 二度寝の時間だよ!』
好機と見たのか、メリーがマイクロミサイルをばら撒く。
夢幻の逆襲に見えた瞬間、一つ残らず撃ち落とされ、誘爆に巻きこまれた銀のメリー機が紅く染まる。
『な!?』
『物忘れが酷いですね!』
背後をふり返らなくても分かる。
エクリプス自慢の最強射手からの援護射撃だ。
一転して優勢に立ち、空のダンスは一方的なリードの流れに。
上下のフェイントも、ツイストでの天地逆さまの曲芸も苦し紛れ。
全てを見切り、敵の動きが形を成す前にひたすらラッシュで機先を制し続ける。
『どれだけ連続でするのさ! これだから若い子は!』
『一晩中でもいけますよ!』
激しい殴打戦のせいか、少し耳鳴りもする。けれどここでもたついていたら、後でソルティに何を言われるか分かった物ではない。
チーザの指揮が飛び、周囲の戦闘も激しさを増す中での一騎打ち。
チーザや皆が、僕の勝利を信じて託してくれている。
必勝の覚悟を心に灯し、愛機の両脚のパワースラスターを起動させる。
灼けた翼で鈍い動きの敵へ最速タックルをブチ当て、空中前転からの踵落としも叩きこんだ。
『アイドルも賞味期限切れですよ!』
『総員、キャリブレです!』
───────────────────
試合はソルティの1失点のみで、敵全機撃墜の勝利を収めた。
夢幻との直接対決を制した余熱が、いまだ興奮のうねりとなって会場のあちこちに残っている。
鳴りやまない「ライジングサン」のコールに応えるため、単独のウイニングフライトで空を舞った。それを当然と扱うチームの期待に応えられたことが誇らしい。
拳を握りしめ、小さくガッツポーズする。
誘導灯が点灯したのでゲート近くに降り、一度観客席の方に手をふる。
愛機が大地に降り立ち、強めの衝撃が脚部から伝わってシートを揺らす。
包みこむような喝采を浴びながら連絡路へ足を進めた。
ハンガーに格納を済ませ、ピットカバーを開けると遠くから声がかかる。
「ハーちゃん、インタビューだって! 急いで!」
チーザのやや上擦った声を聞き、緊張しているのが伝わってきた。
「いくの待ってください! 僕もすぐいきますから!」
チーザは指揮官として初の勝利者インタビューだ。
経験者である僕がリードしてあげるべきだろう。
大急ぎでモービルギアからキャットウォークへ出て、網目の鉄の足場の階段を駆け降りる。
不安そうに身を縮こまらせていたチーザの元へ辿りつき、笑みを浮かべる。
「僕がリードしてあげますから、ドンと任せてください」
宣言して胸を叩くと、チーザの顔にも笑みが戻った。
互いに一つずつ頷き、二人で記者用の通路を歩く。
視線は前に向けたまま、チーザが不安を吐露した。
「ハーちゃんは凄いよ。経験豊富だし、ウチ……上手くできるか自信ないよ」
「いいえ大丈夫です。あれだけ僕を上手く動かしたんですから。メディアを転がすなんて楽勝ですよ」
土壇場では肝が据わっているチーザ。
ナックが無難で堅実な指揮とすれば、チーザは野心的でセオリーに囚われない。
空間能力に長け、胆力もある斬新なセンスが光る。
求めてくる水準が高いので大変だけど、やりがいもあった。
でも、チーザ指揮も敵に研究されるだろう。
これからは追われる立場だと気を引き締め直す。
今日の指揮を思い返しつつプレスルームへ着いた。
「チーザ選手、ハーベスト選手、こちらへどうぞ」
案内された途端、一斉にカメラフラッシュが始まる。
多少耳障りに感じるシャッター音を聞き流し、質問への応対を進めていく。
冗談も交えてインタビューに答えていたら、記者たちの人垣の向こうが一層騒がしくなった。
カメラの海を割り、現れたのは夢幻。
鋭い目付きで睨んでくる彼女を後押しするカメラフラッシュ。
どうしてか急遽、僕との対談がセッティングされてしまった。
空気を読まない司会者がマイクを差し向けてくる。
「キーパー四天王と呼ばれるお二人の対談ですが、女性同士ということもありますし、お互いに意識されることはありますか?」
「常に意識してるさ。今回遅れをとったけど、次は簡単に夜明けにさせないよ」
「僕は特に考えたことはないですね。四天王って他に誰がいるんですか?」
単に好奇心で尋ねたら、メリーからは目を剥かれるし、チーザからは「ハーちゃんハーちゃん空気読んで」と袖を掴まれ、思っていたよりも爆弾発言をしてしまったらしい。
メリーが緋色の髪をかき上げ、右手を差しだしてきた。
「言うねぇライジングサン。さすがは暴言王の一番弟子と言ったところ?」
「一番弟子ではないですよ。ソルティさんと同類みたいに言われるのは心外です」
「いーや、同類よ同類。それよりもさっさと握手を受けなよ?」
あからさまな罠と思われる手を取る訳がない。
なのにチーザが先に握手をしてしまい、僕も場の流れ的に握手をしなければならなくなった。
「痛いです! アイドル選手はさっさと引退してアームレスラーにでもなったらどうですか!?」
「あぁん? 誰がゴリライドルだって?」
ソルティが良くメリーのことをそう呼んでいるけど、僕が言ったわけじゃない。
とんだとばっちりだと思う。
「ファンにあり得ない夢をふりまくアイドルだから夢幻なんですね」
「……あぁん?」
手の骨が折れそうな勢いで握られ、うかつな煽りは避けるべきだと猛省した。
解放される直前、耳元で「ナックさんに会わせろ」と小声でささやかれたけど、感情が迷子な笑顔だけしておく。
開け閉めをして右手の無事に安堵すると、離れた位置の記者と目が合った。
「ハーベスト選手! プロミネンスのBリーグ落ちについてご意見をください!」





