↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、幽霊  作者: 夜唏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/6

幽霊と出会い(中編)

『まだ波長が合ってないからノイズとか途切れとかあるだろうけど、問題なさそうね』

「すごい!本当にこれが幽霊のミサさんの声なんですね!ちょっとホラー映画の音みたいですけど……。これ、警察に応用できませんかね?」

「やめろやめろ、そんなもん警察で使えるわけねぇだろ」

 純粋に興奮する朝倉くんに多田が呆れ気味に返す。


『ふふふ、私もそんなに暇じゃないのよ。でもまあ、暇な時ならちょっと手助けしてあげてもいいけどね』

「ありがとうございます!いやぁ、幽霊とのコミュニケーションなんて、すごいことしてるなぁ。僕、初めてです!」

『ほんと、朝倉くんって純粋でかわいいわね。まるで子犬みたいよ』

「褒められてるんですか、それ?」

 朝倉くんが、ちょっと納得していないように笑った。

 

「……それで、被害者の幽霊に会えるって話ですが……詳しくお話し聞かせて貰えますか?」

 へにゃ~とした笑い顔から一転して鋭い真剣な目つきに変わった朝倉くん――すごく刑事っぽい!

 

『詳しくって言われてもねぇ……』

「幽霊同士ってそんな簡単に会えるのか?」

 多田が口を挟んでくる。

 

『そうね、場所がわかっていれば……でも、成仏し終えてると、こっちからは会いに行けないわね』

「でもよ朝倉、被害者から犯人を聞き出したとして、警察は幽霊なんて絶対信じねぇだろ。その先どうするんだよ?」

「それは……犯人が分かれば、その証拠を僕が見つけてみせます!絶対に!」

『きゃー!刑事さん、かっこいい!』

「へへっ。こうなったら絶対犯人のこと聞きたいです」

『あーでも、教えてくれるかどうかはそれはその幽霊次第なのよね……。死を受け入れてない子に声かけても無視されるし、嘘をつく子だっているのよ』

「幽霊が嘘をつくんですか?……はぁ、幽霊も人間と変わらないんですね」

『そう、なーんにも変わらないわ。幽霊ってね、死んでるってだけで、性格や本質はその人のままなのよ』

 

 そう言うと、ふたりの眉が少しだけ下がった。

 もう、仕方ないわね——。

『でも、話を聞くだけならタダよ。行きましょ』


◇


 私たちは葬儀会場にやってきた。

 そこにはすでに幾人かの人々が集まっているのだが、様子がおかしい。

 カメラやマイクを持ち、ガヤガヤと煩い集団が喪服を着た人を取り囲んでいる――それは異様な雰囲気だった。

 

 そっか、殺人事件の被害者だものね……マスコミが来ていても不思議ではないけれど……。

 家族や親しい人たちが、故人を悼むために集まっているのに、他人が一体なにをしているのだと、私はつい睨んでしまう。

「そう怖い顔してやるなよ」


 横目で私を見る多田がぼそりと呟く。

「あいつらも仕事なんだ」

『だからって葬儀まで来る?』

「仕事だからな」

 私は宙に浮かびながら、じとーっと多田を見下げた。

 

『仕事なら何してもいいってわけじゃないでしょうに』

「ごもっとも」

 多田は苦笑するだけだった。

 反論しないあたりが余計にずるい。

 居心地が悪い。

 

『……会場の中、見てくるわ』

 そう言って私は逃げるように空高く浮いて会場の中へ向かう。

 上から見る視界の端で、多田が煙草に火をつけるのがわかった。


 葬儀場に入ると、華に囲まれた笑顔の女性と目が合った——楽し気に笑う写真が痛ましい。

 ふわふわと漂いながら霊気を探すけどその子はまだ来ていない。

『お経が始まれば本人も来るでしょうけど……ここで待つのは辛いわね』

 ここには別れの悲しみと奪われた怒りが渦巻いている。

 幽霊は元々負の気の塊だけど、息苦しいわ。私、息しないけど。

 

 しばらく部屋の天井隅で漂っていると、お経が始まり、やがて祭壇の横の空気がじんわりと湿りだした。

『……あぁ、来たわね』

 次第に湿気が人型の靄になり、ふいに彼女が現れた。

 棺に眠る自分を呆然と見下ろしている。

 

『こんにちは』

『……だれ?』

『私、ミサ。幽霊の先輩よ』

『先輩?……ねぇ、私、これからどうなるの?』

『そうねぇ、このまま光の柱に入れば上に行けるわよ。所謂成仏ね』

『いやよ!私を……こ、殺した……——あいつを呪い殺すまでっ!絶対に成仏なんてしないわ!』

『呪い殺すって……あなた、そんなことできる力があるの?』

『え……?でも、私、死んで幽霊になったのよね?』

『えぇ、あなたは幽霊ね。幽霊になったら急に特別な力が手に入ると思った?』

『そんな……』

『一応幽霊は負の塊だし、弱った人の近くにいれば、人の生命力的なやつは弱らせられるけど……おすすめはしないわ。毎日呪い続けるのって、意外と大変よ?』

 私は人の近くに行く時は負のオーラを出さないように気合を入れている。

 それもそれで大変なんだけどね。

 

『それであいつを殺せるなら……!』

『生命力や精神の弱い人しか影響受けないわよ……それに、本当に人に危害を加えて悪霊になっちゃったら、ご家族からの供養を受け取れなくなっちゃうわよ』

 私は遺族席の人たちを指さす。

 幽霊って、実は視野が狭くなっちゃうのよね。

 

『…………お父さん……お、お母さ、ん……』

 示されて、やっと気が付いたのか、声が震えている。

 

『やめておきなさい……今のアナタは怨み辛みの塊よ。娘を亡くして弱っているご両親にとっては、よくないってこと……わかるでしょう?』

 その手で両親に触れようとする子を、止める。

 

『っ……うわぁぁぁんっ!』

『成仏すれば、お盆に帰ってこれるし、その時は家族の傍にいても障害はないわ』

 私の言葉に、俯いていた子がゆっくり顔を上げる。

 ……不思議よね、幽霊でも悲しいし、涙が出ることもあるの。幽霊なのにね。

 

『ねぇ……犯人について、もう少し教えてくれない?』

『……隣に住んでる男よ……名前なんか、知らない……』

『お隣さん、だったの?』

『ストーカー、って言うのかな……』


 彼女の目に、怒りが滲む。

『絶対……犯人を許すつもりはない』

 彼女の声は少しだけ強くなった。

『落ち着きなさいな。——許すなんて高尚なことは、お釈迦様にでも任せとけばいいわ。でも、あなたがその怒りに飲み込まれてはいけないわ』

『わかった……でも、あいつが捕まるまで、現世ここにいる。あいつは絶対に許せない……』


『それでいいわ。無茶はしないでね』

 簡単に「成仏しなさい」と言えるほど、その痛みが軽くないことを、私は知っている。

『……私ね、あの時アイツに噛みついてやったの……ざまあみろだわ』

『頑張ったのね…………うん?そいつに噛みついたの?』

『思いっきり、血が出るまで噛んでやったわ』

『それ……歯型とか残ってないかしら……?』

『え?』

『証拠よ、証拠!大事な証拠!そいつのどこに噛みついたか覚えている?!』

『えっと……口を塞がれた時だから……左手、かな?』

 

 死んだ時のことを思い出しているのだ、彼女が嫌な記憶を思い出してるのがわかっているが、頑張って欲しい。

『ありがとう!それ、刑事さんに伝えてくるわ!』

『刑事?』

『あ、言ってなかった?私、刑事さんと探偵さんと意思の疎通できるの。だから犯人捕まえてあげるわ』

『本当……?』

『うん、約束するわ!それじゃ——』

 ……私がそばから離れるのが寂しいのかな?

 

『寂しくなったら、光の方へ行っちゃいなさいな。きっと寂しさも忘れられるわ』

 そう言って私は式場の壁を通り過ぎる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。