魔法使い、懺悔す
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「リリス、君の仕事って
ゴースさんやテッドさんの使用人だったんだね」
「そうですよ。この世界ではハウスメイドと」
料理を作りながら帰ってきたリリスと話す。彼女が楽しそうに一回転すると長い丈のドレスが軽く持ち上げられて沈む、美しい所作は彼女の努力の表れなのだろう
「似合いますか、メイド服」
「うん、似合ってるよ。ドレスも似合うだろうね」
リリスは僕の言葉に笑って答えた
「それはよかったです」
配膳を終え、リリスに椅子を引くと驚いた様子を見せたものの優雅に着席した
「ありがとうございます」
「…」
僕は無言で返す。これがこの世界の使用人としての礼儀なのだとか、言葉にせずとも礼節を持って持て成す素敵だ
◆
食事を終え、片付けた後に僕はリリスに尋ねた
「リリス、この時代のこと少し理解したよ
僕も入れたほうがいいかな?」
カラーコンタクトを僕も入れるべきなのだろうか?とこめかみと眼の間に指を指で2、3度叩くジェスチャーをする
この時代においては《琥珀眼》───《チック・アイ》は以前とは違った理由で生きづらくなっている。態々、面に晒すことはない
「そうですね…」
僕はどっちでも構わない。そもそもこの眼に全てを狂わされたんだ。コイツが笑いものになるのは正直楽しい、唯一の懸念として───リリスが望むか否かだ
◆
「似合っていますよ」
「…ゴーグルって」
僕はリリスが望んだのでゴーグルを掛けた。つけるのに不満はなかったものの何故こんなものを?
「リリス、なんでコンタクトじゃなくて
ゴーグルなの?」
「…さぁ何故でしょう」
サイズがぴったりなのも中々闇が深そうだ。元々僕が切り出すのを先読みしていたとか?恐ろしい子に育ったものだ
「この200年で魔族はほとんど力を失いました
アベル様所属する勇者の一行が魔王を討伐
各地の残党も勇者によって退けられ
人間の勝利で戦争が終結」
戦争史の頁をめくりながらリリスは続ける
「琥珀眼の権能は不要となり
鍛錬すれば力を得られるという
事実も風化していきました」
リリスにアルコールを飛ばしたラムミルクを差し出す。暖炉の薪の爆ぜる音、火の粉に煙が煙突へと消えていく、静かなお伽話の様だった
「リリス」
彼女の手を取り僕の心臓の位置に運ぶ、僕を生かした理由が分からなかった。しかし、それがいつか殺すためなら多少の納得がいく点がある
今までの優しさも僕を絶望させるための撒き餌ならその労力に見合うだけの価値がそこにある
「勇者ロイ、いや、僕たちを憎んでるよね」
「…そうですね」
彼女の手のひらが少し閉じた。覚悟はできてる
「…恨んだ日も泣いた日もありましたよ」
「…」
「ですがアベル様はワタシを庇って下さいました
安全に暮らせる土地へ送って下さいました」
「…」
「人類を恨みこそすれ、アベル様ひとり
恩人を葬ったところで何になりましょう」
「リリス」
リリスの手が離れるとその手には『発光』が灯っていた。淡く、揺らめく、小さな光がリリスの手のひらに生まれていた
「アベル様、魔法や生きる術を
ワタシに教えたのは何故ですか?」
「君に死んで欲しくなかった。僕のエゴだよ」
「ほんの半月程の旅路はワタシにとっての全てです
それ以上があっても以下はありません」
「…」
リリスがコンタクトを外し、僕のゴーグルを外す
「湿っぽくなっちゃいましたね」
「リリス、僕は───」
立ち上がり、背を向ける彼女に手を伸ばそうとしたその時、リリスが振り返るとそっと僕の唇に唇を重ねてきた
「ワタシはアベル様を心から、お慕い申しております」
「ありがとう、リリス」
僕はとんだ思い違い野郎だ。命を救うことに意味もなく、彼女にもその意味はなかった。恩を恩で返されたというのに僕と来たら勘繰ってしまうなんて、酷い人間だ
「200年」
「?」
リリスが僕を引っ張り立たせて抱き上げてきた。本当に大きくなったなリリス
「200年と半月、覚悟して下さいね」
リリスの表情がアレに見えた───勇者ロイを見る町娘の恍惚とした表情そのものに見えた




