発明家、五賢人に不服の様です
◆◇◆◇◆
アースリア魔術学園の職員室では何人かの教員が放課後とあって、何やら話し込んでいた
◆【入学試験から数日経っての会話】
「今年の受験生はなかなか
面白い逸材が揃っているね」
職員室に響いたのは、そんな浮かれた声だ
『研究見学会』の時期になると、新しく入ってきた連中の話題で持ちきりになる。僕も例に漏れず、今年ばかりは新入生たちの答案用紙を前に、ため息をつく日々だ
『もう終わった試験』───数週過ぎようとも鳥肌の治らないこの答案用紙だけは手放すに手放せなかった。これは最早、論文だ
「ああ。例の五賢人のことだろう?」
マド先がいつになく弾んだ声で応える
「なんだ。五賢人って?」
ギワ先が首を傾げる
「皆、噂をしているよ
今年の外部生には『3人の天才』『2人の英雄』
がいるってな」
また『魔撲』に似た研究会が審査を通ったのかと思ったがどうやら違うらしい
ゾク先が、得意げに解説するが。実にくだらない
「へぇ。ソイツは景気の良い話だな
これでウチの学生たちのレベルが
ちょっとは補強されると良いのだがな」
「まったくだ。今年こそは対抗戦で
3位以内には入りたいよなぁ…」
「…何が五賢人だよ。くだらない」
思わず、口から毒づいていた
彼らをそんな曖昧な『天才集団』として、一括りにすることが許せなかった
◆【凡愚どもめ】
「真の天才はアベルくん、ただ1人だよ」
ハッキリいって、確信を持って、そう言い切れる。周りの教師たちの品評は、僕には的外れにしか聞こえなかった
「アベルって言うと
あの目を隠している平民だろ? 辺境の
たしかに魔術の腕は凄まじいものがあったが
抜きん出た天才とは程遠いだろ」
マド先の目は節穴だ。いつも通りな
「単純な実力だけなら
エリザも引けを取っていないんじゃないか?」
「そうそう、テッドって生徒じゃなければ
圧勝する勢いだったよな」
ギワ先もゾク先も、みんな馬鹿ばっかりだ
「内部生にだって…」
◆【物事の本質から目を背ける奴らは救えない】
話すだけ無駄だったな
彼らの言葉に呆れる。溜息が出る
仕事でなければさっさとこの場から離れて研究室に引き篭もりたいところだ。当然のことだろ、将来の魔術師を育成する学園の教師たちが、この程度の見識で一喜一憂している低脳なのだから
◆【こんな頭痛を一蹴するのは】
あの『論文だけ』だ───『デポルニクスの最終定理』の完全解答の答案用紙だ
なんて素晴らしいんだ。僕の悪戯心から出題した問題だというのに正解者が出るなんて、微塵も想定していなかった
もう一度、食い入るように見つめる。この解答は単に既存の『デポルニクスの最終定理』をなぞっただけではない、通常のデポルニクスに比べ、改良が施されている
この事実を公表すれば、国家からの表彰ものだろう。独り占めしたい───手元に置いておきたい。のに、あの『2人』はそれをしくじりやがった
油断した隙に『コロされた』か?まったく安くない報酬を提示したのに行方をくらませるなんて…
◆【陰のモノここに極まれり】
「ふぉふぉふぉ。今年の新入生の話題で
随分と盛り上がっておるようじゃのう」
不意に職員室に響き渡ったのは、聞き慣れた。それでいて威厳のある声だった
「「「が、学園理事…!?」」」
「ミハイル理事…」
僕の唯一の理解者で、否定者だ
「凄いなどというものではありませんよ!彼は」
「ふぉふぉふぉ、くれぐれも
刺激せぬ様に、のう」
◆【アベルへのちょっかいがバレている】
理事長は、僕の言葉に興味を持ってくれていたがどうにも『触れることを許してくれていない』様子だ
僕がアースリア魔術学園の中でもトップクラスの実力を持つ魔術師であり、魔道具開発分野で数々の特許を持って、周囲からも一目置かれる存在であることを、理事長はご存知のはずなのにだ
「理事長。アベル君への接触を
どうか許してはくれませんか?彼は将来
この国を背負って立つ最高の魔術師になりますよ 僕が保障します!」
「ならん」
◆【一蹴された】
「すまんが、エマーソン先生
彼への接触はせんでくれ。良いな?」
「っ…はい」
理事長は、僕のことが信用できないとでもいうのか。唯一人、理事長は『アベル』という名前に、聞き覚えがあるらしかった。知識の限界が30代と言われている以上、今から接触して、教育をしなければ刻一刻と鮮度が落ちていくっていうのに!
◆【ミハイルは静かに職員室を去った】




