魔族の吐露、主人に勝てる気がしない
◆◇◆◇◆
その日は俺が学園に入学してから、初めての休日だった。生活環境を整えるのに忙しくて息抜きをしていられる余裕はなかった
しかし、休日だというのにワタシは本を片手に校門前を見張る仕事をさせられている───校門前に置かれた椅子に腰を下ろして、無許可で校門を出入りしようとする輩を制止するのが今日の仕事、休日とはなんだったのだろうか
「はぁ〜」
今日何度目かのため息が出た。テッド様、いやエバンス、ワタシはあなたを許せるか不安です。あの平和な日々を、充足していた日々を終わらせたのだから
◆【魔力が4つ近づいてくる】
これはアベル様の!頑張っているワタシに労いを
「アベルさ…アベル君、どうされたんですか?」
アベル様、何故異性と一緒に居られるのですか?
「リリス先生!」
アベル様の傍に居たエリザという生徒がワタシに『外出届』を手渡してきた。まさか、まさかまさか
エリザを通し、アベル様の番になった
◆【差し出された許可証】
「やぁ、リリス」
「おはようございますアベル(様)
外出届けとは、珍しいですね」
「うん、王都の案内をしてくれるってね
リリスは、仕事?」
「はい。ワタシは生徒たちが無断外出しないか
見張り役をしているのです」
「なるほど。頑張ってるね」
ワタシは恐る恐る。質問をする
「もしや、案内をする方は」
息が詰まりそうだ
「それは───」
「アベル?どうしたの?」
◆【我慢の限界寸前】
「アベル様はもしやエリザという人と
お出かけになるのですか?」
「うん、そうだけ…ど?」
アベル様が差し出していた『外出届』を持っている手を思わず握りしめた
「リリス?」
「アベル?どうしたの」
「エリザさん、少しアベル君にお話があるので
お待ちを」
「え?もしかして外出届…」
「いえ、ほんの数分ですので」
◆【アベルを校門前の木陰に連れ込んだ】
木漏れ日が優しく肌を撫でる人気のない木陰、それでも遠くに人の気配は感じられる。今し方校門を抜けた少女エリザと今も尚近づいてきているであろう2つの影だ
「アベル様…」
リリスは、ずっと想い続けてきたアベルが、他の異性と親しげに外出しようとしている現状に胸が締め付けられるような痛みを受け、いてもたってもいられなくなり、アベルを人気のない木陰へと引き込んだ
「失礼いたします」
リリスの声は、ほんの少し震えていた。もう我慢できなかった。長年の想いが、堰を切ったように溢れ出す。アベルの口内に仄かに甘い香りが広がることになる
「はぁ…ん…アベル様…」
言葉にならない想いを乗せたまま、リリスはアベルの唇に吸い付いた。まるで喉の渇きを前に差し出された水を流し込む様に貪るように、彼と唇を重ねる
情緒も、雰囲気も今はどうでもよいとばかりに胸の疼きを、この熱を、ぶつけたくて、唇を求め、舌を絡める
「アベル様、アベル様」
甘く、苦くて、切ない、まるで食べ時を逃した果実のような味が口の中に広がっていく
「申し訳ありません」
リリスがアベルの被り物を取り、隠されていた『琥珀眼』を露わにさせる。自分だけが知るアベルの『眼の色』。それは独占欲の現れ、優越感と嫌悪感
「アベル様ぁ」
息が詰まるほどの熱と胸が張り裂けそうなほどの切なさが、リリスを包み込んでいた
◆【邪魔】
「ねえ。見てアレあそこにいるのって
リリス先生じゃない?」
「本当だ。何をやっているんだろう」
何故甘い時間というのは邪魔が入るのだろうか
不審に思ったであろう。女生徒たちが足音を響かせて傍に近づいてくる。今日はこれくらいで我慢しないと
「アベル君。何度も言っているでしょう
外出の際は事前に届け提出するようにと
いいですか。前々から思っていたのですが
貴方には伝統あるアースリア魔術学園の
生徒という自覚が足りていません。そもそも」
アベル様がゴーグルを持って俯いてる姿、愛い
「なぁんだ。お説教か」
「ちょっと。何を想像していたのよ
まあ、実を言うと私も少しだけ
期待はしていたけどね」
「アベル君、ちょっと待ってなさい」
◆【女生徒達の外出届を受け取り】
「リリス」
ゴーグルを付け直すアベル様が心なしか、怒っている様にも思えます
「…はい」
「何か、買ってきて欲しい物はある?」
「え?いえ、特には」
「じゃあ、茶菓子でもお土産にするね」
「え?どういう…」
不意に顔に手が添えられ、頬にキスをされた
「自分で考えるといいよ」
アベル様は微笑んでから校門から出ていかれた
「…ふぇ?」
◆【その日の仕事は苦にならなかったという】




