魔法使い、競技を観戦す
◆◇◆◇◆
ホイッスルが鳴り、勝負が始まった。さて、テッドさんがどの様に立ち回るのかを眺めるべく本を閉じて観戦に移る
◆【1巡:ラビ】
「よーし。まずは一匹一匹、仕留めて行くぞ」
手袋型のレガリアに魔力を込めて術弾バレットが発射された。放たれた術弾は槍型。スピードが速いタイプの弾だ
速度重視といってもその加速はアイスニードルと比べ遥かに緩やかだった。テッドさんのチームはこれを軽々と回避した
◆【ここで補足説明】
本競技における形態には
複数の種類が設けられている
学園で採用されているのは
競技はラビ7人に対して
シューター3人で行われる『囲い込み』ルールだ
牧場犬が羊を追い込む。その様に見えるから『囲い込み』と呼ばれている
20メートル四方の空間の中で
ラビは自由に動き回ることができる
シューターは四方の外側から
ラビを狙うことになる
ひとりでも当たれば+1
全滅で+1
取り逃せば-1
◆【体力勝負と言った様子だ】
得点計算の方法によってはひとりが頑張ったところでチームが負けるという状態が発生するため、如何に無傷で競技を終えられるかが勝敗の鍵だろう
「うわっと」
テッドさんは軽い身のこなしで術弾を避けている
「んわぁっ!」
1人が死角から発射された術弾に被弾し、激しい破裂音が上がると、術弾から発生する衝撃波により、ひとりが尻餅を突いて転倒してしまった
「…おや?」
先といい、今競技に使われている術弾は先に述べられた3種の何にも該当する性質を持っていないだろうか
「あ、あれ!?」
「どうしてっ!?」
「うわっ!」
術弾が3人に命中して、転倒した
◆【規則を無視して何がしたいのやら】
完全に憂さ晴らしが目的だな。『追尾』の追加構文だろう。程度が低い
しかし、術式の変更をしたにしては早い、それに正確だ。見逃したつもりはないが興味が唆られる
「ちょっとアンタ!今、ズルをしたでしょ!」
シューターにエリザさんが食ってかかった
「おいおい。妙な言いがかりは止めてくれよ」
「何か証拠があるのか?尻デカ女」
「~っ!し、し、し、尻デカ女ですって!?」
「危ないっス」
◆【エリザさんの視角から術弾が飛んできていた】
「えっ。何っ」
顔の目の前を術弾が通り過ぎて行ったことにエリザさんは動揺していた
「横から撃ってきていたっス
周囲への集中は不味いっスよ」
「…あ、ありがとう。ドングリ」
◆【状況が不利だからと嘆くこと勿れ】
内部生チームの術弾は当たることはなかった
「チッ。ラビ側の奴ら、意外と避けてくるな」
「仕方ねえ。狩れるところから狩っていくぞ」
シューター側の雰囲気が明らかに変わった
「えっ!?」
黒髪の生徒に集中砲火が始まった
「キャッ!」
弾丸の嵐の中に晒され、転倒してしまう
「おらおら!ノロマは早くドケや!」
◆【品のないことをする】
内部生の一人が既に転倒しているプレイヤーに向かって術弾を打ち続けた
「ちょっと!アンタたち!何をやっているのよ!」
「んー?何って、見たままだぜ?
外来種の駆除だよ!」
やはり、憂さ晴らしが目的とは貴族の品位、学園の誇りは何処へと言ったところだ
「最悪!ユカリはとっくに転倒しているでしょ!」
「はん。転倒したラビに攻撃してはならない
なんてルールは存在しないんだぜ?」
「だ、だからって…!やって良いことと
悪いことが…きゃうっ!?」
相手チームに抗議をしようとしたエリザさんが背後からの術弾に強襲されて、転倒してしまった
確かにルール上、転倒したラビへの追撃は禁止されていない。先程の攻撃はエリザさんの精神を揺さぶるためのものだったのだろう
「ちょっ!異議ありッス!今のはノーカンッスよ!
っぶな!」
「ッチ」
テッドさんがかろうじて残りひとりを死守した
◆【攻守交代】
「ハハッ!G3(ジーニアススリー)だか
なんだか知らねーが、やっぱり
外部生はたいしたことねーな」
「外来種は外来種らしく
大人しくドブ川に帰ったらどうなんだ?」
何故そこまで得意げになれるのか。明らかな反則をして、精神的な揺さぶりをかけて、強襲をして漸く全滅とは情けないな
競技では0点失格だが魔術師としての精神性は持ち合わせている様だ。魔道具使いと魔術師の悪いところを煮詰めた目の当てられない駄作ぶりながら評価できる点はある
◆【1巡:シューター】
5分間のインターバルを挟んだ後、テッドさんのチームの攻撃順が回ってきた
攻撃はテッドさん、エリザさん、ユカリさんだ
「うっしゃああ!今回の攻撃で
さっきの失態を挽回するッスよ!」
「ふふふ。攻撃魔術を使わせたら
アタシは止まらないわよ!」
「エリザさん!みなさん!頑張りましょう!」
この競技を楽しんでいる様でなりよりだ。他プレイヤーと違ってテッドさんは純粋に楽しんでいる節も感じられ流石と言った様子だ
「師匠!絶対勝ちますからねぇ」
「アタシたちの本気を見せつけてやるわ!」
◆【手を振って応援する】
「プププ。聞いたか。アレ。師匠だってさ」
「今時そんな…」
ホイッスルが鳴る。ゲーム開始だ
「よっしゃ。軽くドブ魚たちを
ぶちのめしてやろうぜ。フォーメーション!
ファランクスだ!」
「「「了解!」」」
7人のラビは中央に集まると互いに背中を預けて陣形を作った
「ふふふ。飛んで火に入る夏の虫ね!」
遅れてエリザが真逆の方角から敵陣を攻め立てる
「南東!タイプ、円盤が来るぞ!」
内部生たちが一カ所に集まる理由。この競技の性質上、有効打は『死角からの術弾』が勝敗を分けることになる
ファランクスなる陣形は視角をなくすための陣形なのだろう。ユカリさんとエリザさんが撃ち込んでいくもやはり当たる気がしなかった
「ムカつくわね!」
まぁ、それはそれ。何をしようとも───
「それじゃあ、いくっするよ」
───こういう言葉がある
「ははっ!外来種の奴ら
タイミングを合わせた挟み撃ちすら
できないみたいだっ…ギャっ!?」
「基本の『き』だっていうのに…っグェ?」
「よっしゃ2枚抜きっス」
◆【実践で鍛えた経験に勝るものなしと】
術式を投げる様にしてテッドさんが術弾を放っていく、その速度は通常のスピアとは比較にならず、手から離れた瞬間に着弾位置を予測しなければ被弾するという速さをしていた
術式の書き換えをしていないため、ルールには抵触しないのを知ってか知らずかテッドさんが振りかぶり、投げる。振りかぶって投げる
「集まって的を大きくしてくれたんッスかね!」
なんというか、哀れだな。一振り一殺。テッドさんが的確にラビを狩っていく、その姿はさながら狩猟そのものだった
「まだまだいくっスよ!」
終いには当たりたくないと在来種が味方を盾にし始め、競技どころではなくなった
「グッ…。勝者Dチーム」
◆【2点獲得、Dチーム勝利】
Aが満身創痍の今。時間まで授業は終わらないので在来種のB、Cチームは地獄を見るだろうが、自業自得だな
◆
「追尾に散弾、重ね合わせか」
「何してるんスか師匠」
例の競技後レガリアを確認して笑ったことがひとつ───在来種はレガリアを重ねて使うことを前提とした『追加構文レガリア』を持ち込んでいたのだ。道理で速いわけだ
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