魔法使い、入学式に参列す
◆◇◆◇◆
入学式の当日
「ううう…も、申し訳ないッス!」
「反省は後でしましょう
今は一刻でも早く講堂へ」
テッドさんが起きてこないとフェディーアさんから連絡を受け講堂から蜻蛉返り、現在急いで講堂へ向かっている真っ最中であるが
「皆さんを待たせていますので」
「面目ないっス」
さて、何故テッドさんがピンポイントで起こされていないのが連絡されたかというと『講堂の開門者』という───『成績優秀者』が講堂への扉を開ける『儀式』があるとのことだった
◆【名誉なことらしい】
時間通りに講堂入り口に到着するも人がごった返しており、扉まで床を使っての移動ができそうになかった。あまり好ましくないな『身体強化』で壁を走り抜ける
「『脚力強化』ぁ!」
階段を降り切り、テッドさんは同級生の頭上をひと蹴りで飛び越えた
実際、道が塞がっていることは問題ではない。連絡が上手くいっていないのか予め道を開けておく配慮くらいはして欲しいなと思ってしまった
◆【動線の確保は配慮の領域】
「セーフ!ってアレ?開かない」
生徒の騒めきを他所にテッドさんは先頭に合流した
「え…テッド君、何処から」
「フェディーア先生
テッドさんを起こしてきました」
「その声はアベル君か、助かった」
フェディーア先生に一声掛けてから列の最後列に移動しようとした目の端で嫌なものが止まった
「テッドさん!」
深茶色の木製の扉───細やかな彫刻された芸術品のような扉をテッドさんはあろうことか蹴り破らんとしていた
「溜めてからのぉ!」
「テッド君!」
まぁ壊れたりは…『消音』
◆【脚力強化により繰り出された魔力の塊で】
『講堂一杯にたった一音の騒音が鳴り響く』
壊れた。というより誤作動を起こした。鼓膜を引き裂かんとする空気の振動が廊下まで響いてきた
「えっ、何事っスか?」
【反証】『鳴らし扉』
『魔力放出』『魔力吸収』『魔力探知』
【反証完了】
『魔力供給』
◆【行進曲が流れ始める】
『消音解除』
講堂の中にいる生徒たちがざわついていた
「スゲエ、あの金髪!
『鳴らし扉』の彫刻、全部を動かしやがった!」
「しかも騎士の行進曲まで流れるって!
何十年ぶりの逸材だよ!?」
「えっと…」
「テッド君、列に合流しなさい」
フェディーア先生は眼鏡をしたからずらして目頭を押さえていた。本来なら扉の仕掛けを説明してから中に入る所をテッドさんは焦って開けてしまったらしい
◆【壊れなくてよかった】
講堂へと入っていく道すがら至る所に木製の花が咲いているのが確認できた。所々にある木の彫刻からは絶えず軽快なメロディが流れている
【反証】から分かるのはこの術式にあるのが『魔力供給』により『受けた魔力』を『花の稼働』『演奏隊の駆動』『音情報に変換する』と言った仕掛けが施されていること。もうひとつはこれとは別に独立した術式が後付けされたこと位だ
先のテッドさんの一撃は『多い』ものの『単発』だったため、終末のラッパの様なことになっていたという分けだった。これに必要なのは『持続的な供給』のため非常に相性が悪かったと言える
「なんか楽しいっスね」
「…」
弁償するのにどれ程の手間が掛かるのか考えたくないな。肝心のテッドさんはそんなことは知らない様子だ。後で刻印についてみっちり教えなければ
◆【学園長挨拶】
「ふぉふぉふぉ。今年は騎士の行進曲が
聞くことができたのか
実に20年ぶりといったところかのう」
生徒の騒めきが一瞬にして収まったタイミングで『魔力供給』を断つと仕掛けは静かに収納されて行き講堂内は厳かな雰囲気へと変わった
「初めましての人は初めましてじゃな
ワシが学長のミハイルである
新入生の諸君、まずは入学おめでとう」
学園長がそう言うと在校生や教師陣から拍手が起こる。まるで軍隊の様な様子に少しばかりの既視感を受ける
いや、あの白髭の学園長の眼…。いや、気のせいだろう。勇者の末裔がこの学園に何人集まるんだって話だ
それにしても1つの学年につき200人くらいかな。準備校からは150人近くが上がってきている計算になる。確かにこの人数の顔見知りが居れば徒党を組みたくもなるか。衆愚極まるが人としては当然か
◆【懐かしさを覚える語り口】
学園長のミハイルさんは新入生に向かって、何かとタメになるが面白味がないであろう会話を繰り広げた
今年の魔術に使う薬草は豊作だの、春先にだけできる占いがあると、大凡『授業の準備を怠ることなかれ』という内容だった
「ゴホンッ。それでは年寄りの与太話は
これくらいで切り上げることにしようかのう
では、皆が気になっているであろう
話に映るとしよう」
薬草の栽培と『占星術』を含む大変ためになる話だった
◆【新任教師紹介】
「リリスくん。前へ」
教師陣の列からリリスが一歩前に出て一礼をした。講堂内に騒めきが戻る中、リリスはゆっくりと歩き出した
壇上を照らす灯りを映し返す銀髪が靡き、白よりも白い積雪を思わせる白い肌、翠眼のいつもの彼女が学園長の元まで向かう
◆【目が合ったリリスが微笑んできた】
人の成長を見守るというのはこういうことをいうのだろうか。嬉しく思う
「なぁ。今、あの人
オレの方を見て笑わなかったか!?」
「バカを言うな!あの人は
オレの見ていたのに決まっている!」
バースも、このリリスの雰囲気に当てられたのだろうか
◆【リリスの視線が外れて尚】
視線を感じる。それも人のものとは少し違う
魔道具だろうか。情報の収集を行なう魔道具か。素晴らしいな───差し迫った脅威は感じられないので泳がせるのもいいだろうか。近いうちに探りを入れるのも楽しそうだ
◆【それから】
学校内の立ち入り禁止区域や禁則事項など細かい説明が終わり、入学式が終わった
在校生、高学年が講堂を後にして行くのをなんともなしに待っている間に僕は少しばかり周囲を観察した
【反証】───通路を俯瞰する形で置かれていた妖精の彫刻の目。あの目の中から視線を感じる。僕の動きを追従しているのが確認できた
アレを作った者に興味が湧いた
◆【悪ノリで手を振っておく】
近いうちに接触してきてくれると助かるな




