魔法使い、咆哮を耳にす
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アースリア魔術学園には
『準備校』から上がってきた『内部生』
外部から受験をして入ってきた『外部生』がいる
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◆◇◆◇◆
「これで良し」
「師匠の刻印は普通…いや?
何スか、それ」
『和』───眼の魔力を滞留させることなく循環させる。【魔法】を『付与魔術』へと変換する刻印。『変幻自在』といえば聞こえはいいが、その実【魔法】の【不定形の結果】を『術式』にて発現させているため『限りなく無駄』に近い刻印である
『隠』───本来発散する刻印の魔力の半分を外界との隔絶に用いる刻印。魔力隠蔽。術式の耐久性や効果の半減を招くため余程のことがない限り、刻印することは先ずない代物である
「魔力が流れやすくする刻印と
相手に魔力を悟られない様にする刻印です
おすすめはしません」
「いや、っス。なんか意識しないと
師匠の気配に混ざって違和感がなくなるっス」
◆【擬似的な環境同化】
それにしても刻印して分かったことがある。これらは合成素材だ
昔から魔力に耐性があると有名なグリフォンの翼を丁寧に糸状にした物。形状変化に対応するべくお馴染みのスライムの素材が合わせられている
昔は大量生産が効かず、一部の層のみが使用していた『グリフォンの翼』をふんだんに扱うことができるというのは現代の技術で量産が可能になったことの証明だろうか
素晴らしいな───一瞬でも素材の構成が分からない程の生産物は200年前にはなかった。やはり余裕がある時代の発明は素晴らしいものだ
「おぉー!なんか、こう、良い感じッス!」
制服に改めて袖を通したテッドさんが嬉しそうにしている
「…あ」
「何スか?」
「気をつけてくださいね」
実戦投入可能な本格的な刻印を施してしまったが悪目立ちしてしまう以外は問題ない筈だ
「何言ってるんですか師匠
今なら難攻不落っスよ?オレ」
◆【まぁ本人が望んだことだし】
制服を部屋の収納棚に入れる。この後は何をしようか迷うな
「じゃあ、さっそく自分はこれを着て
まんじゅう外交に行ってきますね」
「まんじゅう外交?」
「これっスよ。これ」
そう言ってテッドさんが取り出したのは、ランゴバルト領名物の『雪玉まんじゅう』だった
「ご近所さんに配ってくるッスよ
これで友達100人を目指間違いないッスー!」
それだけ言い残しテッドさんが扉を蹴破ろうとしたので【念動】で扉を開ける。相変わらず粗野が目立つが今回は両手がまんじゅうで塞がっているからと言うことにしておく
◆【デッドさんの立ち振る舞いはどうしたものか】
それにしても友達100人か。テッドさんは領内では地位があって嫌煙される立ち位置だったが『ここ』ではそれはない筈だ
案外達成できてしまえるのかもしれない
「眠い…」
久しぶりに付与魔術を使ったせいか、眠気が襲ってきた。刻印を付与する作業は『法術』と違い多くの魔力を一度に失うため、疲れが出やすい
「ふざけるな!お前、何処まで
オレたちのことを侮辱すれば気が済むんだ!」
「…」
休もうとする僕の耳に何者かの罵声が聞こえてきた。人の睡眠を邪魔する奴は誰だろうか
「ぶ、侮辱って…酷い言い草ッス!
自分はただ、友達が欲しくて…」
◆【無視できない状況になった】
部屋の扉を開け、状況の確認をすると、両手一杯に『雪玉まんじゅう』の入った紙袋を抱えたテッドさんが制服を着た者に絡まれていた
何が起こっているのか全く事情は呑み込めないが、どうにもテッドさんの『まんじゅう外交』 は明らかな失敗の毛色を見せていた
「はぁぁぁ? 寝言は寝て言え、辺境貴族!」
「誰がお前みたいなドブ臭いやつと
『友達』になるって?ああん!?」
「汚らわしいポイズンパーチの分際で!
オレらと同じ制服着ているんじゃねぇよ!」
同級生の男子生徒4人が騒いでいる
「と、とにかく1つ食べてみて欲しいッス
自分の故郷の、自慢の味で…」
「黙れ!臭いんだよ!外来種がっ!」
「こんなゴミ!口に入れられねえ、よっと」
◆【紙袋を蹴り飛ばした】
紙袋の中から『雪玉まんじゅう』が飛び出し、廊下の上を転がっていく、包装されているが問題はそこではない───品がない
地位があろうとも『食べ物を粗末にする』この点において如何なる理由があろうとも妥当性を持たせることは不可能に近いだろう。それこそ毒を盛られていない限りは、だ
「うわあぁあ!まんじゅうがー!」
◆【レガリアはどこにしまったかな】
あれらはテッドさんの友人として不適切だ
「そんなに言うなら1つ貰おうかしら」
僕がレガリアを手に廊下に出た時、転がるまんじゅうを茜髪の少女───エリザさんが拾い上げた
「ううーん。まずまず、70点ってところかしら
不味くはないのだけど、もう少し地元ならではの
ランゴバルドの特色が欲しいところね」
「ゲエェエ!?この女
床に落ちたもんを食いやがったぞ!?」
「信じられねえ。品がないにも程があるぞ!
これだから外来種は嫌なんだよ!」
「品がないのはどちらですか」
「「「「!?」」」」
男たちは一斉にこちらに対して視線を向ける。揃いも揃って小粒で小心者といった面構えだ
◆【腹に据えかねるとはまさにこのことか】
面倒事に巻き込まれるのは避けたかったのだが致し方ないことだ。2人の身の安全を先決する。足が出やすいこいつらのことだ
目的があるから引いている、品あるからこそ引いている2人の意図を察せずに殴り掛かるだろう。この手の手合いはバースで経験済みだ
「い、いつからそこに?」
「はぁん?なんだ、お前?」
「外来種の仲間か?」
仲裁のために前に出て、これ見よがしにレガリアを見せる。相手は丸腰、この程度で引き下がってくれることを祈るばかりだ
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ポイズンパーチとは───主に都心の河川部で爆発的に増えている外来種の淡水魚のこと
もともとは食用として輸入された魚だったものの、一部地域で稚魚を放流する悪手により爆発的に数が増加。結果、在来種の水生昆虫、小魚、貝に海藻、更には他の種の卵や稚魚を食い漁り、生態系は大きく乱すことになり、社会問題として取り上げられる事態となった
『歴史書 50年前』より抜粋
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