魔法使い、実技試験に挑戦す
◆◇◆◇◆
「受験番号241番、アベル君
準備ができたら始めて下さい」
「はい」
試験官に呼ばれて前に出てレガリアを眺める
指示役には申し訳ないながら最大火力は出さない───最大を出す戦場はそもそもない。最大とは一撃を意味する。一撃を持って何ができると言うのか。ロイに散々注意した言葉を自ら反芻する
それは死を間際にした兵士の取る行動なのだと
「(戦術面では余裕がある時の選択肢でもある)」
レガリアに対して大きな改変は必要ない、直接的な書き換えは奪われた時に毒になる。故に使えないとしたなら
「行きます」
『回復術式』の応用。術式に術式を重ねていくのが威力を出す鍵だ。レガリアの威力は良くも悪くも統一されている───それは安定していることの証明だ
「(3発が限界かな)」
腕をたたみ腰、やや伸ばし腹、伸ばしきり胸の位置で的へ向けて引き金を引く、3射が風切音と共に飛翔すると空中で纏まり、瞬間的に加速に入ると耳を劈く甲高い音を伴って、的へと向かい
当たった瞬間、違和感の様な短さで鈍い音がした
「(着弾位置がややズレた。手動での
指向性調整には限界がありそうだ)」
「アベル君、何を」
「君、早く撃ちたまえ」
指示役の者にそう言われた。試験官の女性に振り返る
「音は聞こえたので問題ありません」
「分かりました」
「あ、君!」
試験官の言う通りにその場を離れた
◆
問題はあったが、レガリアは壊れてないな。レガリアを返却し、テッドさんの元に向かう
「え?終わったの」
「見えた?」
「どうせ構築できなかったんだろ」
「金がある奴らはいいよな」
「師匠ー!何スかあのアイスニードル!!」
この場に居る中で唯一テッドさんだけは僕の発動した魔術に言及していた
◆
「それでは次、240番テッド君
前に出て下さい」
「はいっ!はいはいはいはーいっ!」
「…240番、準備ができたら始めて下さい」
「うおっしゃー!」
指定された位置に立ったテッドさんは手甲型のレガリアを構えた
「行きます!」
あ、そういえばテッドさんに言ってなかった。普段使ってるレガリアとは勝手が違うんだって
「はぁあ!炎熱裂…」
テッドさんの溜めから放たれた火球は松明片手に千鳥足で自宅に帰る老人の様な速さをしていた
「へ?」
「…(やってしまった)」
勝手が違うんだって、言いそびれていた。テッドさんに教えたのは原形の『魔術式』だ。書き換えではない。複雑性を持った魔術式とレガリアの普遍的で単純な術式───双方を比較した時、術式の発動までに必要な魔力量を満たすのが早いのは断然レガリア側である
ゆっくりと浮遊を続ける『フレイムバレッド』の懐かしの挙動にテッドさんは"ポカン"とした表情でそれを見ていた。やがてゆっくりと浮遊を続けると的に触れて小さく爆ぜると
「「「え?」」」
「(壊れないって言っていたのに壊れた…)」
絶対に壊れないと言われていた的が着弾位置から壊れてしまっていた。不良品だろうか
監視官は、腰を抜かして口をパクパクと動かしている上に周囲の生徒が騒めき始めた
「な、なんだよ…。あれ…」
「し、信じられねえ…」
「壊れないって暗黒物質だろ」
「え、あ、いや、あの…も、もう一回とか」
テッドさんは魔術の不発に慌てふためき監視官の人に"にじり"寄っていた。そんな中、指示役の人がテッドさんの元まで"ズンズン"歩いていくとその手を徐にとった
「素晴らしい!キミほどの逸材が
どうして一般受験を!?」
「信じられねえ」
「ランゴバルト家、辺境魔術師やべぇ」
「うわぁ…。最悪だ…
あんな凄い魔術を見た後だとやり辛いわ…」
「なんという怪物。どうやら我々は
100年に1人の天才魔術師の誕生の瞬間に
立ち会えたようだね」
「…」
周囲に合わせて拍手をする。割れんばかりの拍手と感性の中。たったひとり、その空気に納得していないものがいる───
「何なんスか?これ!師匠〜…」
───テッドさん本人だ




