魔法使い、転生す
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辺りを見回せば思いの外片付いた空間が広がる視界の中、体の至る所が"ガチガチ"になっており回復魔法で肉体の再生を行った
「(身体痛い)」
ロイの一振りで死を受けたあの日から何年が経ったのだろうか、不確かながら計算が間違っていなければ200年の歳月が経っているのだから無理もない、寧ろ体が動かせているのが不思議でならない
「(肉体への魂回路の確立には成功)」
不気味な程肉体が動かせることに驚きが隠せないながら『魔術』───理の攪拌、再構築による『術式抽出』。魔法と違い、確かな指向性を担保する技術により『転生魔術』を行使した
転生先を意図的に人造人間にすることに成功した。最早この身体は本物となったが変な話だ
「(別途、研究が必要だな)」
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「(魔王を倒したとはいえ世界がどうなったのか)」
ロイのことだから責務は果たしたと疑う余地はない。しかし、その後が肝心だったがこの状況を見るにそれは叶ったのだろう。朽ちた魔王城が辛うじて見える位置のこの仮拠点、自然に溶け込ませたここを知るものはひとりを除いていないだろう。黄昏の魔王対策と称した逃げとも言える代物だ
「(そうだ反射の魔法を使って…)」
そんなことを考えていると魔力の気配が近づいてきていた。僕も衰えたものだ。かなり接近されなければ気がつけなかった
「(流れからして琥珀…同類か、或いは)」
魔族の気配。魔法戦の基本、魔力の初期循環で扱える【聴覚強化】で情報を探ると響いてくる。足音、風切り音、呼吸に耳を澄ませる
女性、種族は魔族、魔力操作に長けており、現在は【変性魔法】と【幻惑魔法】で姿を人間に真似ている様だった
「(一刻の猶予もなさそうだ)」
彼女は急いでいる様子はなさそうだが、後数秒もしないうちに眼前の扉を開けてこちらの部屋に入ってくるだろう。先制攻撃を仕掛けるか、或いは潜伏してやり過ごすか
「(また、殺すのか)」
僕は攻撃魔法を準備するが攻撃の選択を半ば放棄する形を取った。元々争いを拒むべく魔術を生み出し、転生という全てを投げ出す選択をしたのだ───そこまでして手を血に染めなければならないのなら、それを強いられるというのであれば全てを忘れ【転生】に身を任せれば良かった
「(変わるべく、か)」
半ば放棄していた攻撃魔法さえ解き、開こうとする扉を眺めた。それは軋む音を立てながらゆっくりと開いた
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「アベル、様…?」
見目麗しい女性が入ってきた。僅かな風の抵抗にさえ揺れる銀髪と真夜中に見る初雪による積雪を思わせる白い肌───眼の色が映える容姿をしていた
「(碧眼…僕も焼きが回ったか)」
ドサッと地面に落ちるバスケット。彼女は掴んでいたそれを落とすと口元を手で押さえ、なぜか涙を流していた
「ずっと、こんな日を…ずっと」
ずっと?碧眼の知り合いは戦場で皆見送った身だ。それに知り合いの誰とも似つかない容姿で。僕はその場で固まってしまった
「(眼の色が琥珀なら、あの娘だけど碧眼だし
でも魔力は琥珀だし、でも眼は生涯を通して…)」
「申し訳ありません。アベル様」
「アベル様?」
「あの日から、ずっとお待ちしておりましたので」
ずっと待っていた。長寿か伝承か、ロイの子孫?いや、そんなことがあるとは言い切れないが、恐らく違う。そうなると僕の知り合いにそんな人は、ひと?
「…リリス?」
「!!」
走り出した彼女に思いっきり抱きつかれた
◆
思い起こされるのは戦乱の世だ。人と魔族が殺し合う中、僕はひとりの魔族を殺すことに躊躇した
「アベル!正気か!そいつは幼いとはいえ魔族だぞ」
「分かってる!でも」
殺せなかった。戦火の中で泣くしかできない無力なものを手にかけることが僕にはどうしてもできなかった。あの日のことは鮮明に覚えている
「ロイ、頼む」
「…っこのことは国に報告する」
「ありがとうアベル」
「やめろ、もしそいつが人類に牙を向けば
お前は死罪を免れないんだ、礼なんて…」
目を伏せるロイの姿。僕の運命を悟っていた。ただでさえ琥珀の眼を持つ危険因子が魔族を庇ったのだ。当然の報いか───親友に手間をかけさせたことが何よりの愚かな決断だ
それでも僕は無抵抗のヒトを殺すことは憚られた。それがたとえ恩を喉元を噛み潰す形で返されようとも曲がらない意地だった
◆
「大きくなったね、リリス」
「はい…はい」
片膝をついても見下ろしていた彼女が今や僕が見上げる背丈だ。時の流れというのは感覚と違い、目に見えて穏やかな様子を時に見せるものなのだと感嘆した
というより僕の方も小さくなっているから定かではないけど、確かに彼女は成長していた
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「(あぁ、そうか)」
バスケットの中を想起して合点が入った。不調の少ない体───彼女が僕を保ってくれていたんだと
「お隠れになったその日から
勇者ロイに討たれたと聞いたその日から
どうしても、どうしても」
そうだったのか、しかし、さっきから呼吸が苦しいな。成長は喜ばしいものの僕の衰えは相当な様だ。募る話は別の日にしたい
「ところでリリス」
「はい?」
「何で碧眼なのかな」
「これは、カラーコンタクトです」
「こん、たくと?」
「目に薄い膜をつけることで
視覚効果を変化させるものです」
「目に…痛くないのかな?」
「慣れてしまえば違和感はございません」
「材料は?」
「人工飼育によるスライムの内膜です」
「人工…人工!?」
「はい」
200年で人類は魔物の飼育にも手を出したのか、人類の進化は凄まじいな




