魔法使い、没す
◆◇◆◇◆
「すまないアベル」
「ロイ、悪い冗談はよしてくれよ」
とある戦争の最中、僕は仲間と思っていた男から剣を向けられた。思考が巡る。あぁ彼が何故そんなことをするのか分からなかった。いや、分かりたくなかった
「もう世界は概ね平和だ。君が居なくても
魔族の残党はボクたちで片付けられる
君程の魔法使いは…」
「ロイ」
僕の言葉を無視してロイは続ける
「前線にいない方がいい」
言って欲しくなかった。言わせたくない言葉が彼の口から出た
足元に転がる魔族の頭を倒した瞬間からこの世界における僕の危険度は頂点へと押し上げられた
暗黒の時代が終われば平和な時代へとゆっくりと溶けていく、そんな中で暗黒の時代を終わらせた暴力は等しく暗黒の時代を始めるだけの脅威たり得る存在へと置換されていく、そのことは僕が1番理解している
「また、この眼かぁ…」
憎くて憎くて仕方がない。僕の視界を映し出し、僕の目の前から悉くを奪っていくこれを抉り出して地面に叩きつけたくて仕方がない
眼は口ほどに実力を言う───個人が有する最適な魔法の属性は眼の色に宿る
恐ろしくも美しい【灼眼】流れて清らかな【碧眼】撫でるように包み込む【翠眼】───【火炎】【水・氷】【風・土】と言った風に
「【琥珀眼】」
この中に属さず、どの色よりも煌々として、属性に縛られない【琥珀】、それが僕の眼だった。【魔族と同じ色】それだけで迫害の対象となる眼。それでも人類にとってこれ程扱い易い【道具】は他にない、嬉々として人類は琥珀眼を前線に追いやった
それでも愚かにも願った。魔王を倒せば平和が来て、僕は、【琥珀眼】は報われると
「これは君にとっても悪い話じゃないだろ
この後に訪れる安寧の世になれば
必ず人間同士の睨み合いが始まる。君は必ず…」
彼はとても優しい人だ。誰もが思う【不吉の象徴】、その言葉を彼は言い淀んでくれた。もう、それだけで十分だ。十分だよ
「もう、いいよロイ」
「もちろん、ただ前線を離れるって話じゃないんだ
いつか、皆んなで、暮らそうって言った
西の離島があるだろ…」
◆
思い出される
〜漣とカモメの声、打ち付ける波の世界〜
西の離島───そこはかつて海を荒らしていた大きなイカ。クラーケンと戦った場所だ。そして、足並みを揃えた最後の場所でもあった
◆
「そこを改装して住めるように…」
「もういいよ、ロイ。もういいんだ」
「…何でだよ」
ロイの手から剣が滑り落ちていくのを咄嗟に捕まえるべく一歩出る。次の瞬間凄まじい力でロイに抱きつかれた。仕切りに「何で」と繰り返す彼の声は掠れてよく聞こえなくなっていく
「ロイ、剣を手放しちゃダメだよ」
「何で、どうして、こんなに…」
名残惜しくも彼から離れて剣を差し出す。彼の翡翠色の瞳と二枚目が涙でぐしゃぐしゃになっていた。なんて面してんだよ英雄、みんなが待ってるぞ
僕は両手を広げて言った
「ロイ」
「…っ本当にそれでいいのか君は!!」
「手は打ってある。安心しろ」
もうとっくに気がついていた。世界が僕を受け入れない未来。搾取する未来なんて
「!、っぷ
そっか。お前はそういう奴だったな」
だから、仲間に内緒で既に手を打ってあった。誰にも内緒でロイにだけ最後に伝えた。曖昧でも、それでも彼は分かったとばかりに吹き出した
涙を指で掬い、ロイは大きく深呼吸をした
「アベル、達者でな」
「さよならロイ」
僕は親友の一太刀で地面に倒れ伏した
◆
あぁ、身体から力が抜けていく。死ぬってこういう感覚なんだな。冷たくなっていく身体に浮遊感が生まれ始める
ふと、霞む視界に映る景色が少しだけ高くなった
だから何度も、言ってるだろ?ロイ、剣は折れても、手放すなってさ




