魔法使い、準備す
◆◇◆◇◆
「テッドさんの付き添いですか」
「えぇ、テッドは来年から
魔術学園に通うこととなりまして」
教え始めて早1年、テッドさんは魔術学園に通うこととなった。元々は弟殺しだけが通う予定だったとのことだが、最近のテッドさんの成長ぶりにその手の進路にも色を持たせようという試みとのことだ
「ですが、何故私がテッドさんに付き添う必要が」
「テッドは、その、良くも悪くも
貴族らしくないと言いますか」
「(あぁ)」
言わんとしていることは分かってしまった。ここに来てから2年。テッドさんは魔術の腕は上がっているもののその反面、礼儀作法に関してはまったくと言って良いほどに進歩が見られないのである
「それですので、何卒
テッドの粗相を何とかしたいのです」
切実だな。今月に入って礼儀作法の先生が3人辞めたのも納得の必死さだ
「分かりました。手続きは
任せてもよろしいですか?」
「ありがとうございます」
「期待は、しないでください
本当に申し訳ありませんが」
明日に迫った魔術学園の入学試験に同行しろとは、中々難しい注文をする方だな。相当溜め込んでいると見える
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この領地で見られる範囲でさえ、魔術道具というものの多様性とその素晴らしさに感動と落胆が止まらない。これを機に外に出るのもやぶさかではないがひとつ懸念点があるとすれば【魔法】についてだ
この時代にはレガリアがある。これにより段階的に魔術の体系も失われたかに思えたが、どうにもそれだけが理由とは思えなかった
「魔王派の工作かな」
理由は簡単だ。魔法を脅威と思っている者の破壊工作だろう。この時代より前に上層部に反人類派がその席に座れば単純で効果的なやり方の完成だ。それにしても美しい手腕に惚れ惚れするな
「(傍観することもできるけど
少なくとも魔族のやり方では
世界が枯渇してしまうから歯止め役になるか)」
この200年の裏の歴史非常に興味がそそられるな。どうやって魔法から魔術へ移行し、魔術から魔術道具へとその体形が移り変わったのか
「(教えて貰いたいな…僕達の敵)」
「アベル様、お帰りですか?」
「やぁ、リリス。そうだね、帰るところだよ」
◆
「リリス…」
「何でしょうか?アベル様」
聞こうか聞かまいか、少し悩んだ
「ごめん、何でもないよ。呼んでみただけ」
いや、やめておこう。この辺りの歴史に関してリリスは答えてくれるだろうけど、この内側に生じた興奮を冷ます理由もなし、やはり世界のことは可能な限り、自分で見聞きし答え合わせをすることが望ましいだろう
◆
「アベル様、こちらを」
「ハーブティーかな、いい香りだね」
「自家製なのですよ」
「良いね。すごく良い」
寒さが少し和らいだとはいえ、どうにも体が冷えて仕方がないのでこのハーブティーの体温を上げる作用はとてもありがたい
「…」
「どうしたのリリス」
「いえ、何でもございません」
「(また、あの表情だ)」
最近リリスの元気がないように思える。時折りため息を吐き、僕を見つめる目がどこか虚だ。体調が悪いのだろうか?心配だ
「アベル…」
「師匠ー!出来ました!
ついに例の魔術を覚えたッスよー!」
テッドさんがやってきた。ますます粗野が加速しているように思えるがこれをどうにかしないといけないのか
「…テッドさ───」
「では、ここで試して下さい」
「リリス?」
「え。でも…?」
なるほど、リリスもテッドさんの粗野ぶりを憂いていたのか。なるほど納得だ
「僕は構わないよ」
「ワタシも、デス」
ここでひとつ、リリスの実力も確認しようかな
「んじゃ。行きますよー」
◆
両目を閉じたテッドさんは拳を引き絞った
「リリス、手加減ね」
「分かっております」
先から殺気が溢れているのは指摘したほうがいいものなのだろうか。そんなことを考えているとテッドさんが叫び始めた
「はぁあ!炎熱裂帛」
空気の温度が急激に上がり、テッドさんの手のひらに火の玉が生まれたかと思えば、それは忽ち鳥の形をとり、間も無く放たれた
「(うん、威力は申し分なし)」
最初の頃の松明片手に千鳥足で帰る老人の様な強さと速さの魔術と比べ遥かに美しく、素晴らしい魔術だ
「(レガリアに頼ることなく
一年足らずで形にできたのは素晴らしい)」
「えっ!?」
僕がテッドさんの魔術を眺めているとそれは突如として霧散した
「えぇえ!?師匠!どうしてオレの魔術が
消えてるんスかー!?」
無論僕ではない
「…テッド様」
「え、リリス」
リリスは【反証魔法】を使っていた。驚いたテッドさんの構築はお世辞にも速いとはいえないものの遅くもなかった。溜めも最小限だった
それなのに【相手の術式を読み解き相殺する魔法】を射出から僅かな間で完了させて鎮火させてしまった。驚くべき技術力だ
しかも優雅で、気品ある打ち消し方だ。リリスの方がよっぽど貴族に見える程だ
「修行不足ですのでどうぞ、外で
研鑽を続けて下さい」
「は、はい…」
絶望しているな。そもリリスとは年季が違うのだから仕方ないのだが、このままだと魔術の研鑽もやめそうな勢いだ
「少し出てくるねリリス」
「あぁ、アベル様…」
◆
「テッドさん」
「あ、師匠」
「さっきのは相性による不利だったので
落ち込まないで下さい」
「そうなんスか?」
「えぇ碧眼は水を司りますので」
「そうなんスね」
テッドさんが震えている。明日に迫った魔術学園への入学試験の不安も重なってのことだろう。どうすればいいのだろうか
「テッドさん…」
「兄ちゃんに追いつけるかな」
「追い越せますよ。むしろ追い越しています」
「…」
「腕は村随一ですよ」
「本当ッスか?良かったー!」
おぉ、ゴーグルを狙ってきた。この手のいやらしさが粗野の原因だろうか。となると僕の責任だな
「畜生っ!いい作戦だと思ったのに!」
「テッドさん…」
「師匠、負けないッスからね」
「ん?それはどういう」
「父上から聞いたぞ。師匠も
魔術学園の入学試験、受けるんですよね?」
「まぁ、そうなりますね」
「この敗北ッ!弾みにします!うぉお!!」
心配する必要はなかったみたいだった。さて、僕も明日の準備をするとしようかな
「魔術学園を…?」
「(あ…)」
そういえばリリスには伝え損ねてた




