魔法使い、納得す
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厚く雲の掛かる雪降る時にエバンスの祖先がこの地に初めて足を運んだ時、それは起こった。幾度となく森に入って狩猟していたからだろう。油断していた、越冬の準備を済ませられなかった熊が雪の中を揺れ動くものを見逃すもなし、エバンスの祖先は獲物として見定められた
そこに現れたのが
「リリスか」
「アベル様が月単位でこの近辺を
拠点にしていたと耳にしまして
もしやと思い足を運んだ時に」
◆
ランゴバルド家とリリスの100年を聞いたその日から1ヶ月が過ぎようとしていた。木々の色づきが少しずつ青々としたものになっていくと銀一色だった景色は中々に美しいものになってきていた
「(気候変動かな、ここら辺も
暖かくなるようになったんだ)」
窓の外に手を伸ばし、葉っぱに触れる。生き生きとしているのがとても嬉しく思う
「(少し、昼寝でもしようかな…)」
最近思う。僕はこの時代に干渉しない方がいいかも知れないと、貴族がらみのこともそうなのだが、行き過ぎた、戻り過ぎた技術や技能が時代に齎す影響というのは薬になれば毒にもなる
「(僕は薬になれる自信がない)」
経験がそれを物語る。僕は魔族を倒し、世に平穏を齎そうと空を見上げ続けた。血溜まりから目を背けるために、そんな奴の魔法や魔術をこの時代に復活させる。それは火種になりかねないことだ
視線を落とした先の本を閉じ俯き考える。どうせならひとりになれる場所にこの身体を置くべきだったと、リリスにも見つけられないたったひとりになれる場所にと、そんな僕の目の前に鳥が一羽降り立った。"トントン"と弾み、忙しなく首を動かしている
「(…ここに餌はないよ)」
鳥は程なくして窓の外へと羽ばたいていった───
「たのもーっ!」
───テッドさんの突然の来訪と共に
「テッドさん、ノックを忘れています」
「今日もよろしく頼むぜ!師匠!」
扉が乱雑に開けられてはいるものの粗雑さは幾分かマシになったテッドさん。それでも礼儀作法という点ではまだまだ父親の気苦労が絶えない様子だ
「早く昨日の魔術の続きを教えてくれよ!
オレ様、実はもうコツを掴み掛けているんだぜ!」
「…」
「どうしたんだ師匠?」
場合によりけりという奴だろうか、エバンスさんから給金を受けて魔術講師をしているのが現在。最初は断ったもののテッドさんからも頼まれて渋々受けている
こんな平和な時代に実践的な魔術戦を想定するのはかなり稀有なことだとは思ったがテッドさんが貴族ということもあり、そもそも対人能力の確保はやはり必要なのだろう。面子という奴だろうか
「しーしょー?日が暮れちまうよ」
「はい、今行きますよ」
僕は本を置き、テッドさんの後を追った
◆
「射程が物足りませんね」
「だってよぉ…兄ちゃんと違うしーっ
自分で魔術式を組むったって」
コツを掴んだとは何だったのか。テッドさんが仕切りに腕に装着したレガリアを叩いていた
『身体強化』は形になり、現在は放出や射出の訓練をしている。テッドさんのレガリアはガントレット。付与している術式はなし───戦術の幅を殺すのはお勧めしないとエバンスさんに頼み今は『無地』にしている
「威力はあるので、どうにか改善しましょう」
「その言葉を待ってたぜ!」
テッドさんの眼に合わせた魔術式の構成は僕にも良い刺激を返してくれている。魔法における融通性は魔術では調整が必要になる。これはかなり面白いものがある
懸念点はやはり、やり過ぎてしまわないか、だ。この点も慎重に進めていかないといけないな
「なんか、こう、ぐわーっ!とか
どカーンっ!ってできないかな師匠」
「…テッドさんは何を想定しているんですか」
「当然!師匠を負かすことだぜ」
「なら先ずは座学を磨かないといけませんね」
「ッグ」
「昨日の範囲はどうでしたか?
他の先生方にも迷惑は…」
「それより師匠っ!」
「…はい、何でしょう」
「久々に"あれ"がやりたい」
「身体強化と脚力強化はかなり練度が上がりましたが」
「ゴーグル、まだ取れてないぜっ!」
このやる気を少し座学に向けて欲しいところだ
「そうですね、ではやりますか」
「よっしゃぁあ!今日こそ
師匠を負かしてやるぜぇ!」
「その後は座学に移りますよ」
◆
爽やかな風が頬を撫でる。木々を揺らして、優しく撫でる。鳥の囀りと子供のはしゃぐ声───あぁ、僕はこの日々の彩りと流れが愛おしくて堪らないんだ




