魔法使い、許す
◆◇◆◇◆
貴族邸に入る直前にリリスが頭を下げてきた
「アベル様、申し訳ありません
今回の不始末はワタシの監督不行き届きです」
「別にいいよ。気にしてないから
それよりテッドさんは?回復魔法を掛けないと」
「この邸宅の1階右手の奥です」
「ありがとう、行ってくるよ」
◆
「全治6ヶ月はかかります」
「…」
「坊っちゃま。遊びたい盛りなのは分かりますが
時には我慢も大切ですぞ」
壊死が幾分かマシになっていた。この時代の医療は他と比べて衰退が緩やかだな。必要だからかな
全治6ヶ月か。回復魔法はやめて勉強に身を入れるか?理由もあればテッドさんも甘んじて受け入れるだろうし
「(いや、それはないな)」
医者が部屋を後にした後、僕は見舞いに入った
「あ…れ…?アベル」
「ケガの具合はどうですか?」
「へへっ、兄ちゃんの魔術が効いたのかな」
「…そうですね」
「これくらいのケガ、擦り傷のうちにも…」
寝息が混じり、掠れる言葉を最後にテッドさんは眠りに着いた
「(…)」
◆
【術式破壊】───『チック・ヒール』
【応急処置】【並列実行】
【回復】【治癒】【痛覚鈍感】【身体強化】
【変性魔法】
【発動遅延】【術式破壊】───『対象の回復後【治癒力補助】』
「明日、また遊びましょう」
◆
翌日、書庫で本を読んでいると、リリスの気配がこちらに近づいてきていたので外に出た
「珍しいねリリス」
「アベル様、エバンス・ランゴバルド
この村の長が謝罪に参りました」
「謝罪?」
「バース子息に関することで」
「糾弾するつもりではないのか?」
「いえ、謝罪に来たと言っておりますが
いかが致しましょう」
「…分かった、行くよ」
年甲斐もなく駄々を捏ねてしまった
◆
玄関口までやってくると大人と子供の1組が頭を下げて待っていた
「エバンス・ランゴバルド面をあげなさい」
顔を上げて少し驚いた。子供の方は弟殺しだった。頭を剃り上げられており、顔を見て漸く分かった上でリリスに聞く
「使用人なのにそんなこと言っていいの?」
「これでも教育係なので…」
「この度は我が愚息がとんだご迷惑を
おかけしてしまい、誠に申し訳ございません」
エバンスさんが深々と頭を下げる中、頭を丸めた愚息は不服そうにしている。親父に頭を下げさせておいてその態度か
「どうかこの通り、我が愚息への許しをどうか」
「父上っ!何故、こんな平民の
しかも劣等眼なんかに謝っているんだっ!
このアベシっていう男はウチが雇ってる
メイドの弟なんだろう!?」
「馬鹿者!なんてことを言うのだっ!」
なんでこんなちゃんとした男からこんな愚息が生まれるんだろうか。甚だ疑問だ
「エバンスさん、僕は別に怒っていませんよ」
「っ!では───」
「ただ」
「ただ…?」
「テッドさんを危険に晒したことに関しては
一切許していませんのでそのつもりで」
「はい、よく言って聞かせます」
「なら、もう行っていいですよ
長居されても出せるモノはないので」
◆
「リリス、説明を。あの感じ
一代や二代じゃないだろ?」
「そこまでお分かりになってしまいますか」
「幾ら魔族を隠して貴族の教育係や使用人として
席を得ているとはいえ、あの反応は異常だよ」
「村の発展に少しばかりの口添えをしただけです」
ランゴバルド親子が帰り、2人だけの玄関口でリリスが子供のようにはしゃぎ、口に指をやり、片目を閉じた
仕草が町の踊り子の様だった。そんなことも勉強したのかと、魔術より本の内容の多様化に少し興味が湧いた




