魔法使い、激怒す
◆◇◆◇◆
「とりゃぁっ!」
テッドさんの拳にも、速さが生まれてきた。良くも悪くも直線最速のアイツの動きに似てきた。アイツの子孫じゃないか?もしかすると
「うんうん」
「うべぁっ」
僕も『脚力強化』を使う様になった。テッドさんも『素人』から『見習い』にここ数週間でなった様に思われる。テッドさんはやはり、頭で考えるより身体で覚える方が性に合ってる様だ
「くそーっ!」
「っ!テッドさん」
ここ数日は機動力が上がって屋根すらも道になっていた弊害が出た。勢いよく立ち上がったテッドさんの足元の雪が崩れた
◆
「いっ、ぁっ…っ!痛ぇっ…!」
高所からの落下、建物の屋根からの滑落は打ちどころが悪ければ2階からでも死ぬ。そんな中テッドさんは雪がクッションになり、足の捻挫で済んでいた
「テッド!大丈夫か!」
慌てた様子でバースさんが走ってきた
「待っていろ!今、回復魔術をかけてやるからな!」
バースさんが魔術の術式構築に入った。捻挫なら回復の『応急処置』からの『治癒』が1番良い
「バースさん、いったい何を?」
「回復魔術がそんなに珍しいか?
集中できないから少し静かにしてくれ!」
「ダメだ、それじゃあ…」
「平民風情が調子に乗るな」
治癒を直接使うなんてどうかしてる。回復魔術・魔法はそもそも他の魔術や魔法とは違って複雑で略式による詠唱は対象を死に至らしめる可能性もある
何でそんな拷問まがいのことができるんだ。こいつ───バースさん貴方は弟が嫌いなのか
「うぎゃぁあ!」
「大丈夫か!?少し痛いが、我慢するんだぞ!」
「やめて下さい、骨にヒビが入る
早く医務室に運んだ方がマシだ」
落ち着け、僕、大丈夫だ。200年の積み重ねがこんな粗悪品である筈がない。そうだ、適切な魔術道具がある筈だ。それでテッドさんは治る
もしもの時は僕が治せば良い、ただそれだけだ
「ちょっと待ってくれ。その前にキミ」
「…なん、ですか」
話しかけないでくれ、血の繋がった弟に拷問を掛ける男が隣にいるだけで反吐がでる。アノ糞野郎を思い出して"殺したくなる"
「このケガ、どうしたんだ?」
「魔術の訓練で…」
「弟は魔術なんか使えない」
「は?」
「見ていたよ。さっき
キミがテッドを突き落としたところ」
「…バースさん、あんた」
「バース様だろう!」
「…言うに事欠いて、出てきた言葉がそれか」
「何だその態度は」
この状況で弟の足が刻一刻と悪化していると言うのにそこに拘るのか、コイツ
「キミは平民。テッドとボクは貴族だ
どんなに幼かろうと…おい待て何処に行く」
「テッド様を医務室に運ぶんですよ
その後に説教でも何でも聞きますよ」
「何だと…」
今テッドさんの足は悪くなっている。捻挫なら先まで回復させられたが骨折と炎症は治癒では足りない。安静にできる場所に運んでからじゃないと良くて切除、最悪死んでしまう
「田舎者の『劣等眼』!貴族に対して
無礼を働いたことを後悔させてやろう」
敵意。それを乗せた何かが飛んできた。僕はそれを空中で掴み取る。アイツの手袋だった。穢らわしい───弟を殺そうとして、今なお貴族として見栄を張るのか。病気だな
「決闘だ!キミは…」
「後にして下さい。テッド様を運んだ後ならって
さっきも言いましたよね」
手袋を握り潰し、投げ返す
「逃げないで下さいね。僕も話があるんで」
「2度ならず3度まで…」
◆
貴族邸に入った。かなり静かだな
「リリス、頼む」
僕は虚空に向かってそう言った瞬間。背中に受けていたテッドさんの重みがなくなった。【短距離転移】だね。やっぱりリリスは優秀だな
「リリス回復は?」
「すみません、壊死を治すのは…」
「分かった、くれぐれも主治医には
切らない様に言っておいて、僕がやる」
「はい、アベル様───」
リリスは悪くない。悪いのは僕だ。あんな弟殺しの魔術を信じた僕が悪いんだ
「───どうか加減なされて下さい」
「うん、鼻の伸びた若造を下すのに
魔法なんて使わないよ」
騒ぎを聞きつけた村の人が外に退去している騒音が聞こえる。いつの世もこう言った下世話に人はよく反応するな───衆愚だ。嘆かわしい




