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2 双子の守護者と「紫電」の行方

「……ったく、なんで二十歳を過ぎてまでこんな窮屈な制服を着なきゃならねぇんだ」


 王立学園の廊下で、リンは苛立たしげに襟元を緩めた。


「エレオノーラ様も、レオンも人使いが荒すぎるだろ」


 舌打ちするリンの制服の隙間から、愛用のゴールドチェーンが覗く。


 起き抜けに、緊急性ありと呼び出された。


 なにかと思えば、侯爵令嬢エレオノーラからの直命――「学園生活におけるリリアーヌの完全な保護」だ。


「いいじゃんリン、似合ってるよ」


 同じように制服に身を包んだガイが、楽しそうにリンを褒める。


「それに、学園食堂ってメニューも多いし、俺は楽しみ!」


「お前は食うことしか考えてねぇのか。……おい、いたぞ。例のポンコツだ」


 リンの視線の先には、リリアーヌに向かって熱烈な愛の言葉を囁く王太子クロヴィスの姿があった。


「王族もポンコツ呼ばわりなんだね。エレオノーラ様って誰に対しても容赦ないよね」


 少し離れた場所では、婚約者であるセシリア公爵令嬢が感情の見えない瞳で様子を窺っている。


 リリアーヌが困ったように眉を寄せた瞬間、リンとガイは迷わずその間に割り込んだ。


「失礼、殿下。リリアーヌ様の次の講義の時間ですので」


「何だ貴様らは?」


 クロヴィスはちらりと二人に目を向けた。


「 ……ふん、ヴァランシエールの飼い犬か。下がっていろ」


 鼻で笑うと、まさに犬でも追い払うように手を振る。


 しかし、リリアーヌが二人を受け入れるそぶりを見せると、不快げに顔を歪め、その右手を掲げた。


「俺の邪魔をするとは身の程知らずめ。――『紫電』!」


 王家特有の高純度魔法――紫を纏う雷が、クロヴィスの右手から溢れ出した。


「――殿下っ! おやめください!!」


 咄嗟のことに、婚約者であるセシリアの、悲鳴に近い制止の声が響く。


 彼女の瞳は驚愕に大きく見開かれていた。


 いくら憤慨したとはいえ、ここは学園内だ。


 無防備な生徒を相手に、殺傷能力もあるような王族の秘儀を放つなど、常軌を逸した暴挙だ。


 周囲の生徒たちが恐怖に身を竦める。


 セシリアが最悪の結末を予感して息を呑んだその刹那――。


 リンとガイだけは、眉ひとつ動かさなかった。


「ガイ!」


「了解ッ!」


 素早く胸元から光ペンを取りだし、宙を滑らせる。

 リンが空中に浮かび上がったのは、複雑な幾何学模様と魔道数式で構成された魔方陣だ。


 ガイはその膨大な情報を視認した刹那、自身の魔力を発動し、王家の雷を閉じ込める「魔法の檻」を完成させる。


 荒れ狂っていた紫電がその檻に囚われ、ガイの手のひらで凝縮された。


 瞬く間に、パチパチと頼りなく鳴る光の粒へと成り果てる。


「――返そうか?」


 にこりと笑ったガイが、その「静電気」をクロヴィスの手元へ戻した。


「……殿下、威勢がいいのは結構ですが、魔法の練度がガタガタですよ?」


 リンが幼い子どもに言い聞かせるような言い方で、わざとらしく目を細める。


「力任せに撃てば当たると思ってるのは、子供の遊びまでです」


 そして見せつけるように、光のペンを指先でくるりと回した。


「な……!? 私の魔法が、そんな玩具のような棒で……!?」


 クロヴィスは呆然とした。


 絶対の自信があった魔法を、名もなき「学生」を装う二人に、羽虫を払うようにいなされた。


「お前らは……一体……」


 初めて味わう敗北感と羞恥心に、クロヴィスの心は冷水を浴びせられたようだった。


 だからこそ、気づかなかった。目の前の二人の空気が、一変したことに。


 余裕のある表情だったリンが、訝しげに眉を寄せた。


「ガイ、何かおかしい……」


「ん?」


「殿下の発動に係るエネルギーと、今放出されたエネルギーの計算が合わねぇ」


 この場にそぐわない異質な空気のブレがあるのだ。


 リンが全身で警戒する。


「…さっきの魔法。いくら殿下が雑でも本来ならもっと威力があるべきなんだ」


「ねぇ、それって褒めてるの?貶してるの?」


 やや緊迫したリンの様子にガイも緊張を高める。念のため壁際のクロヴィスの方も伺っておく。


 ――リンの違和感は、正しかった。


 クロヴィスの放った雷魔法の一部が、誰にも気付かれることなく石壁を伝い、地下深くに吸い込まれていたのだ。


 それは未だ二人が知るよしもない「何か」へ飲み込まれ、その神経を最悪の形で刺激した。


 足元から重苦しい地鳴りが響き始める。

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