1 光のペンと黄金の計算
ものすごい久しぶりに、モノを書くことを再開してみました。不慣れなので変なところがあったらすいません。
王都の目抜き通りから一本入った静謐な貴族街の入り口。
そこに蔦に覆われた重厚なレンガ造りの建物がひっそりと佇んでいる。
招かれた者のみがその扉を叩くことができると言う、アンティークショップ『星屑の天球儀』である。
店内には一級品のアンティークが、まるで美術館の展示品のように並べられている。
いかにも上級貴族の娯楽のための店、といった風情だった。
しかし、その実態は違う。
ここはヴァランシエール侯爵家の長女エレオノーラが、愛する妹リリアーヌを守るため、私財を投じて設立した非公式精鋭組織――『天球の灯』の拠点でもあった。
「おいガイ、動くな。計算が狂うだろ」
店内の隠し扉を抜けた先、地上の静寂とは対照的な地下工房の一画。
魔導士のリンは、愛用のゴールドチェーンを揺らしながら低く声を放った。
黒髪の隙間から覗くダークブラウンのつり目が、空中に浮遊する魔道数式を鋭く射抜く。
「ごめーん。だけどこれ見てよ」
隣で無邪気に笑うのは、相棒のガイだ。
少し癖のある髪を揺らし、きらきらとした大きな瞳を輝かせている。
「レオンが隠してたやつなんだけどマジでうまいの。リンも一つ食べない?」
彼はリンの口元にどこからか持ち出したクッキーを差し出した 。
「……作業中だ。あとで食う」
リンは素っ気なく応じ、手に持った安価な「光の魔道ペン」を走らせた。
本来は子供のおもちゃに過ぎない。
だが、そのペン先から、現代の魔導士が一生かけても読み解けないほど複雑な魔方陣が、次々と空間に刻まれていく。
「よし、設計完了だ。ガイ、転写しろ」
リンがペンを止めると同時に、ガイの目が「画像記憶」のモードへと切り替わった。
数万行に及ぶ光の数式を、ガイは瞬時に網膜へ焼き付ける。
「了解! ――『製図』ッ!」
ガイが自身の膨大な魔力を解放した。
空間にリンの設計図が実体化する。
青白い閃光とともに巨大な術式が起動し、訓練用の標的を一瞬で消滅させた 。
二人の連携はまさに一蓮托生。
一秒で千ページのレシピを読み込み、瞬時に三ツ星料理を完成させるような、異次元の速度だった。
「完璧。……で、レオンが隠してたってやつ、まだ残ってるんだろうな?」
リンがペンを回しながらニヤリと不敵に唇を引き上げる。
「もちろん!」
ガイは尻尾を振る犬のように、勢いよく頷いた 。
いつもの他愛もないやり取り。
しかし、彼らはまだ知らなかった。
後日、エレオノーラからもたらされる、ある依頼によって、この何でもない日常を揺るがす大事件が巻き起こされることを。
そして否応なしにその大きな渦に飲み込まれることになることを。




