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  作者: 左猫右雛
第三章
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36/47

36【三不思議】

 其の一、北校舎裏の異世界階段。

 其の二、旧校舎跡地の絶交枇杷(びわ)

 其の三、図書室の神隠し。

 異世界階段に関しては、耳にしたことがあった。『下りるときに一段減っていると、お迎えが来る』だとか。

「——異世界階段の他は知らないな。ていうか、引き合いに出すってことは気になるとこがあんのか? タダのウワサ話じゃなく、怪異話になっちまいそうな」

「そうね。それを確かめたいところなの。単なる与太話か否か」

「他の二つは、どういう内容なわけ?」

「絶交枇杷は、旧校舎跡地の記念館そばに空き地があるけれど、そこにどっしりと背の高い木があるでしょ?」

「あー、あったねそんなの」

「樹齢は何十年とあるらしいの。でも今まで一度も結実が無いのだそうよ」

「普通は、実がつくもんなの?」

「あそこまで育ってる樹においては、生育不良がない限りはね。初夏あたりがピークのはず」

「ちょうど今頃かぁ」

「樹木自体は至って健常。なぜ実らないのかは不明。

 それで、ここからが本題。ならないはずの枇杷の実を見た——という話があるのよ。それで、もし見れた人は縁を切りたい相手を念じるわけ。そこでもし実が落ちれば、縁をサッパリ切れるとか切れないとか。それが今、密かに流行ってるのよね」

「うわ……きなくさいっつーか胡乱(うろん)だな」

「ちなみに、曰くも実はあるみたい。

 旧校舎の解体時、あそこらへん一帯にソフトテニスコートが本来は建設される予定だったらしくてね。実らないのは『勉学が実らない』とか『試合で実らない』に繋がって縁起が悪いことからも、伐採を推し進められた向きはあったらしいわ。

 ところが、いざ伐採しようとすると、関係者が相次いで病気で倒れてしまったり、工事車両が不審な事故にあったりしたらしくて。だから、近くに小さな石碑と(ほこら)があるんだけど、鎮めるべく構えられたそうよ」

「一気におどろおどろしいな。(たた)りじゃねーか」

「伐採の話を白紙にしたら、たちまちに変なことは起きなくなったそうね。

 だから学校側は、枇杷の常緑性というところを強調して、四季を通して美しく果敢に勤勉であれと、縁起物に無理やりまつりあげた。樹齢の長さも助けて、今や学校の銘木の一つにされているわけよ」

「入学時の学校資料に確か、そんなこと書いてあったかもな」

「それで、枇杷自体についてだけれど。その昔、不幸になるから庭に植えるなと言われていたのは知ってる?」

「そうなの? 近隣でも見たりするけどな。柿の木みたいな」

「昔の話よ。科学的根拠なんて無い。それでもなぜ不幸になるかをこじつけがましく言うならば、枇杷の木って大きく成長するから、日当たりや風通しを悪くさせてしまうとか。他には、枇杷の葉って昔は医療に役立てられていたから、それを目当てにして病人が集まると病を貰ってしまうとか、そんなことが理由として挙げられるでしょうね」

「地味に合理的」

「ただし、科学的根拠はなくとも超常的根拠はあるわけよ」

 それは根拠と言えるのか——と思わなくもなかった。が、俺たちの世界では根拠のうちになり得よう。

「枇杷の木と、とりわけ関係が深い怪異がいるの。人との縁を切る怪異――『オサキイタチ』あるいは『オワカレイタチ』なんて呼ばれるものよ」

「いたち?」

「オコジョみたいなやつよ」

 いや、イタチくらい知っちゃいるが。

「特徴としては、尾っぽが分かれているの」

「……あ。尾裂き、尾分かれってことね」

 いや……仲を割く、お別れというダブルミーニングか?

「この怪異に行き合うと、望み通りに縁を切れる。でも、同時に大切な人との縁もまた切れることがある。

 だから枇杷の木は不幸を寄せる以前に、オサキイタチを寄せるから庭に植えるなとされていた……なんて隠れた側面もある。もっとも、植えても何の影響もなかったという方が、圧倒的に多かっただろうけれど」

「つまり、枇杷はそもそもオサキイタチがつきやすい。そして、茜高校の枇杷は実らないことで有名で、それは付いた曰くからも分かる通り周知の事実だった。

 だのに、今になって実るのはやや受け入れ難いものがある。それはだからオサキイタチが見せている幻覚であって、オサキイタチに実際のとこは行き合っているのかもしれない。放っておくと誰かの不幸を招くやもしれない……ざっくり、こんな感じ?」

「ええ、そんな感じね。まぁ、見たという真偽もわからないし。緊急性は高くない案件だけれど。修学旅行でね、話を聞いたのよ」

「ちなみに他の二つも、緊急性は高くないのか?」

「現時点ではそう思ってもらって構わないわ」

「あとはなんだっけ、図書室だったか?」

「そうね」

「神隠しだから一番危うそうだけど」

「いま剣見君は、誰かが神隠しにあったと直感的に思ったかもしれない。でも、神隠しにあうのは人間じゃなくて書籍よ」

「本が消えるってこと?」

「忽然と消えてしまうらしいの。貸し出し記録もないのに。でも、いつの間にか戻っているそうね」

「ふうむ……それ勘違いじゃ、やっぱりないんだよな?」

「ごめんなさい、私もこれに関してはあまり分からなくて、最近知ったウワサだったから。それに図書委員の人に話を聞こうとしても、嫌がられて話にならないというか」

 無理やり露骨に聞き出そうとしたに違いない。そりゃ、嫌な顔の一つもされるだろう。薄気味悪い話だし。

「異世界階段の話っていうのは、下る時に一段減ってると迎えがくる、とかいうやつで合ってるか?」

「そうね。それに関しては、該当するような特徴的な怪異に心当たりは、これといって無いのだけれど念のため」

「そっか。図書室のことに関しては、俺も少し話が聞けそうな奴知ってるから、こっちでもちょっと当たってみるよ。夏休みに入る前に」

「そう、助かるわ。じゃあ図書室の件は、剣見君にひとまず調査してもらって。

 とりあえず階段と、枇杷の場所には先に行ってみましょうか。剣見君なら分かるものがあるかもしれないから」

 テーブルに魚とイタチが並ぶ。どうやって折っているのかまた見損ねた。


⭐︎


 後日、放課後に俺たちは例の場所へ赴いた。

 まずは枇杷の木。たしかにそこには、生い茂る葉は青々と。十メートル級の大木は堂々と。しかしながら実は見当たらないし、落ちている様子もなかった。

「おかしな様子もねーなぁ」

「行き合う因果を持たずとも剣見君はそもそも見える人だから、ひょんなきっかけで見えるかもしれない。枇杷の樹以外に、違和感はないかしら?」

 土肌の出た地面周辺、側にある石碑、ひっそりとある石祠に目を向ける。

「んーむ……ま普通だ。これと言って、何か感じることもないよ」

「……あ」

「どした?」

「そういえば、昨日は七夕だったわね」

「言われてみれば昨日は七月七日か。

 やー、子供の頃は短冊だの何だのやってたけれど、まったく気にすら止まらなかったな。織姫と彦星が、出会える日なんだったな」

「七夕伝説ね。天の川を隔てて、年に一度だけ逢瀬(おうせ)が許されたカップル。ロマンスな面がやや先行しているけれど、わたし、あの物語わりと嫌いなの」

「じゃあなんで思い出した」

「私は向こうの、だらしなく据え置かれた笹飾りを見ただけ。剣見君が、具体的な二名を公表するからよ」

 記念館のエントランス付近、たしかに飾り付けられた小さい笹が見えた。昨日のうちにしまうのをわすれたのだろう。

「そう言われても……ていうかなんで嫌いなの?

 たしか、機織りを生業(なりわい)にしていた織姫と牛飼いの彦星が恋に落ちて結婚して、すごいラブラブだから仕事そっちのけになってしまったけれど、それを見かねた偉い人が引き離してしまったことで、天の川を境に分断されちまったんだよな。でもそれがあってからは、会うためにしっかり仕事をこなすようになったとか。

 要するに、愛する人のために必死に頑張る姿勢とか、相思相愛が貫かれる清純さとか、ロマン溢れる美談的説話な気はするけれど」

「はじめからちゃんと仕事しなさいよって話でしょ?」

「……まぁ」

「職場でサボって惚気(のろけ)ていれば、そりゃ解雇されてもおかしくないわよね。

 つまり二人の人間性の問題よ。その人間性を、私はとても稚拙(ちせつ)だと思えてならないし、正直気持ちが悪い。子供の頃、それを聞いて非常に憤りを覚えたのよね」

「言ってることは正しいだけあって、なんも言えね」

 だがきっと、この物語はそういうところを見てほしいわけではないとは思うんだが……。

「ところで幸徳池」

「なに、彦星君」

「生憎だが牛を飼い始めた覚えはないぜ」

「間違えたわ。剣見君」

「間違えんなよな、何ヶ月も一緒にやってきてる相方の名前を。で、お前だったら願い事なんて書くわけさ?」

「願い事が全て叶えられますように、かしら」

「うわ出たよ」

「剣見君は?」

「俺は……まぁなんだろ。病気になりませんように?」

「インフルエンザになったものね」

「ほんとだわ。お前も油断すんなよ、健康は大事だ」

 そのあと向かったのは、北校舎裏の階段。

 試しに上り下りしてみようとやってみたのだが……驚愕というより恐々とせざるを得ない結果となってしまった。

「か、かっ、幸徳池。一段……無くなってるんだが」

 怪異を知りこそすれど、それはホラー現象が得意という意味ではない。泰然自若(たいぜんじじゃく)を旨とする俺であるが、この時ばかりは冷や汗の一つでもかいてしまいそうだった。というか、もうかいている——

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