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  作者: 左猫右雛
第二章
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26/38

26【墓荒らし】

 ピリッとした空気で向かい合う幸徳池と莉音。拱手傍観(きょうしゅぼうかん)に徹する俺。

 さてまずは、二人が睨み合っているわけを説明してゆこう。

 莉音と話した翌日の放課後、俺は紫苑経由で莉音を呼び出す。そして幸徳池と共に、オシエドリを埋葬したという場所へ赴いた。小学生以来使ったことのなかった、鉄製スコップを持って。

 そこは、自転車置き場の雑木林だ。

 幸徳池を紹介すると、莉音は警戒気味ではあったものの、まぁ差し障りない初対面らしい態度を取っていたのだが、幸徳池が放ったある言葉によって状況は一変する。

「掘り返す前に確認しておきたいのだけれど、悪意を聞き取れるようになったことの他に、何か妙に思ったところは本当にないの? まだ言ってない隠してることとか、あったりするんじゃないかしら」

 にべもなく、知りませんと答える莉音。

 これに得心しかねたのは幸徳池。だから食い下がる。結果、睨み合いに。

 しかし、幸徳池がなぜこんな疑る物言いをしたのかというと、ちゃんとワケがある。

 幸徳池はあれから、まんじりともせず文献をあたって調べてくれていたようなのだが、確からしい答えを求められなかった。

 しかし可能性を発見できた。既にずっと前に別の怪異に行き合っていた、というもの。これを探るべく、あんな物言いをしたわけなのである。

 ところが、こういう決めつけるような振る舞いが、どうやら莉音の(しゃく)に触ってしまったらしかった――というのが、いまに至るザックリとした経緯である。

「――そんなこと隠して、いったい何の得が私にあるっていうんですか」

 こう主張する莉音だが、勝手に笑ってしまう奇病を彼女は隠しているわけだ。これは怪異が絡んでいたり、ひょっとすればしないだろうかと考えなくもなかったが、幸徳家にはまだ言っていない。

「私がしているのは、損得の話じゃないの。隠し事はトラブルを招くという事よ」

「知らないです。もう、そっちの人にはそういうの、全て話したし」

 『そっちの人』というポジションに、いまだ俺はいるらしい。

「それより、変な鳥の怪異を見つけるんじゃないんですか。そっちが先でしょ」

「それは確かに目的だけれど、通過点でしかない。

 私だって、なんの根拠すら無く言っているわけではないのよ。子供みたいな一点張りをするのではなくって、傾聴して自分を少しは省みるというのはどうかしら」

「だから知らないッ! なんでそんなこと言われなきゃいけないの。知らないものは知らない。そうやって疑うくらいなら――」

「ちょっ待て待て待て! そこらへんでもうお終いにしとこうよ。まずほら、掘らないと始まらないもんがあるだろ。始める前に終わってどうすんだよ」

「「…………」」

「はぁ……で莉音。場所はここで合ってるんだよな?」

 奇病の発作に対する心配を汲んでくれたのか、とりあえずは落ち着いた様子でこう言った。

「そうです。添えた花は無くなってますけど、間違い無い。あそこからシャベルを持ってきて、それで掘ったんで」

 指をむけた先には、花壇と用具倉庫。

 なんだ……家でわざわざ段ボール箱を開封して探さずに済んだんじゃねーか。小学生の芋掘りに使った、あのスコップを。

 しかも、みんな文字通り芋蔓式にどんどん出てきていたというのに、俺だけ一個だけしか、しかも痩せているヒョロ長いのしか出てこなかったんだから、嫌な思い出が掘り起こされたものであった。

「さて……掘り返してみっか。まずはオシエドリの証明から、そうやって一つ一つ片付けていかにゃな」

 しかし掘り返してゆく途中で、ある出来事を思い出したことで手が止まる。

 瓮の一件の最中のことだ。帰りがけに、自転車置き場で少女が何かを埋めていた光景を見たことがあった。

 亡き骸を埋葬するなんて、心根の優しい奴がいるものだなと感銘を受け、俺は瓮の件に挑む勇気とか覚悟とか、そういう前向きな動機を人知れず貰ったのだったが、あれは莉音だったのだ……。

 掘り起こされたのは、俺の記憶の方だった。

「――剣見君? 急に固まってどうしたの。見つかった?」

「あ、いや違う。別に、なんでもない」

 そこで、莉音が妙なことを言ってきた。

「あの……ちょっと、待ってください。そんな深くは掘ってないです」

「……え?」

「少し掘っただけだから。あのとき見た鳥はこのくらいだったので」

 莉音が手で示した『このくらい』は、十センチにも満たない。たしかに、それならここまで深く掘る必要は無いだろう。

「え、じゃあまさか、ここじゃないとかか?」

「そんなはず無い。だってここ以外、掘り返したみたいに柔らかくなっているところ、ないじゃないですか。だから間違いないです。掘り返した土に紛れたり、とかしてないですか」

 色の加減や柔らかさというのは、ここだけ不自然さがある。つまりそれは何かをした跡、ということになろう。それに、俺があの時見た角度的にも、およそこのあたりのはず。

 俺は周囲を観察する。彫った穴、かえした土、周りの地面……と、そこで気づく。

「あ。これ……」

 莉音の言うとおり、小さい羽のようなものが掘り返した土の中に混じっていた。スコップで探ってみると、バラバラになった羽がいくらか出てくるではないか。

 しかし妙だ、本体がない。狐狸(こり)に食われたわけでも、まさかあるまいに。

「――剣見君?」

 幸徳池が覗き込んできたが、やはり見えていないようだ。

「羽だ。黄色い羽がいくらか」

 スコップで晒されたこれらを見た莉音は、あの時見たのと同じ、と妙に冷静に言った。

「ふむ……それ以外は?」

「いや……ないんだよ。どういうことか、羽だけなんだ」

「ふうん……そう。やっぱり、そういうこと」

 まるで予期していたかのように、さして驚きもせずにそう言った。

「えっ、何か分かってたのか?」

「オシエドリは、怪異に喰われたわね」

「は……? 怪異が怪異を?」

「上位が下位の怪異を喰うこと自体は、さして珍しい話でもないわ。かと言って、日常茶飯事でもまたないけれど」

 いや、たしかにそうなのかもしれない。九穏はたしか言っていた、経験値だと。

「これで決したわ。オシエドリが、なにがしかの上位個体に喰われたという点が」

「ていうかオシエドリが、そもそもどういう位なのか分からんけど、あれだけ由緒ありげなものなら、喰ったヤツってのはあまり普遍的な怪異とはいかなさそうだが」

「そうね。歴史上名前が跋扈(ばっこ)するように存在が認められている以上、一定の基準を超えた上位個体と言わざるを得ないわ。

 であれば、そういう怪異を相手どって喰らうことができる怪異はつまり、神と名のつく怪異、若しくはそんなふうに扱われてしまうレベルと考えるのが適当」

「神……?」

 奉られる神々しい存在。信仰され(あが)め祀られる神聖な存在が、このたび一枚噛んでおられると?

 しかし、それは些かステレオタイプが過ぎたようだった。幸徳池はまるで、俺の頭を読んだかのように言う。

「神と言ってもね、剣見君。

 日本はアニミズムであって、森羅万象出来事の全てに神が宿る八百万(やおよろず)だから、そんなに(かしこ)まった存在でない場合も少なくない。

 むしろ、そっちの方が圧倒的に多いというか。クロノスだとかゼウスだとか、そういう話じゃないのよだから」

「あぁ……人間ですら神になってるんだもんな日本は。菅原道真とか」

「そうね、平将門(たいらのまさかど)とかね。祀るだけ祀りあげたエウヘメリズム的な面が色濃くて、中身の無い場合もあるけれど」

「じゃあつまりは、お稲荷様とか氏神様とか。そういう要するに、よく口にしてしまうようなというか、馴染み深い身近なレベルの神様ってことを言ってるのか?」

「ええ、方向性は間違ってないわ。

 たとえば道端に置かれる道祖神(どうそじん)、神下ろしをした巫女のような現人(あらひと)神。名前に神を冠する怪異か、そんなふうに認められるべく(いわ)れのある怪異が、おそらくこの件には関わっている。

 それはだから、化け猫とか幽霊とかのあまり畏れを含まない、怪談話によってフラフラするような類では少なくともなくって、しっかりとした概念が据えられている怪異ということよ」

「じゃあ次は、神探し……いやしかしヒントがこれだけか……」

「いえ、それこそが大きな手がかりよ。羽が散らかっているのよね。ということはきっと、その怪異は何らかの事情から喰らうことに失敗している。だから、残滓(ざんし)が残ってしまい、それによって中途半端な能力の引き継ぎをしてしまったと思われるわ。

 そして、こんな年ごろが行き合う怪異の中で、オシエドリに手を出せる程度の神的存在となれば、必然的に絞られていく。それはきっと――」

 しかし、なぜかそこで沈黙する。

「ん……どした?」

「いえ。それに心当たりがあるだろう莉音さんが、どうやらいなくなってしまったようなのだけれど」

「は!?」

 ウソだろめんどくせー。

「しゃあない……あのさ幸徳池、悪いけど今日は先に帰っててくれ。俺は莉音のこと探してくるよ。こんなシビアな話だから、困惑して頭でも冷やしに行ったんだろ。だからあとで、お前のその答えは聞かせてくれないか」

 ということで、俺は莉音を探すことに。というか、門前で待つことにした。紫苑に連絡先を送ってもらっておくんだったと、少し後悔しながら。

 幸徳池を先に帰したのは、いたずらに話が拗れても困ると思ったし、二人で探し回りでもしたら目立ってしょうがないというのもあった。

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