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  作者: 左猫右雛
第二章
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23/39

23【神社にて、莉音】

「——ということでさ。越後って俺と同じ見える側だし、ここによくいるだろ? だから、最近になって気付いた事とかあるかなと」

 越後の様子を見る限り、有益な情報は出てこなそうだ。

「救急車は知ってたけどね。その他は、残念ながら。ゴメンだけど」

「いーんだよ。まぁむしろ、ここで有力な情報でも提示されちまったら、俺は越後に貢物の一つでも用意せにゃならんくなっちまうし」

「え。じゃもう一回やり直していい?」

「やめれ」

「冗談冗談。ちなみに見えるといえば、このまえ助けた子はそういうの、見える人なの?」

「いいや、違うみたいだぜ。幸徳池曰く、怪異と行き合って繋がりが生まれると、一時的なリンクにしかならないらしい。

 つまり、俺たちにおいて『見える』っていうのは、リンクを持つ持たないに限らず、ある程度見えちゃってるものなわけだけれど、見えない人の『見える』に関しちゃ、リンクを持ってしまった時だけ見えている、といったような具合っぽいな」

「剣見君はさ、見えちゃうことに対して、どう思ってる?」

「んん……まあそりゃ、嬉しくはないだろうけど。でも、こんな言葉を用いるとセンチ気味に聞こえるかもしれないから躊躇われるけれど、それでもあえて言わせてもらうが、『運命』なんじゃねーか? 俺は受け入れる他ないって、だから考えてる。

 そういう越後は?」

「良かったなーって、思ってるよ」

 冗談めいた言い方ではない。かと言って、心の底からというふうなものでもまたなく。

「え……良かった、ってのは?」

「もし見えない人だったら、剣見君とは出会えてなかったのかもしれないわけだもん。

 怪我の功名? だったと私は思うし。そうである今を思うと、悪くない人生だったな……なんて、言えてしまいそう」

「含蓄ある物言いを。余命宣告受けた人かお前は」

「だからま、今が永遠に続けば良いのになって」

 半分脱いだローファーを、爪先で弄びながら越後は言った。

 きっと深い考えをもって、その言葉を口にしたつもりではもちろんないのだろうが、俺はふと深く考えてしまうのだった。

「永遠に今が続けば良いって思うのは、たぶん越後だけじゃないだろうな。かくいう俺も、そう思ってしまうところは幾らかあるよ。でもま、現実問題そうはいかないわけで。だからこそ、今できる事とかやりたい事とかは、やっぱりちゃんとやっとかないとって思うんだよな」

「剣見君らしい考えだ。ところで、君はまだまだそうやってこの先も、陰ながら誰かを助けていくのかな?」

「いや、助けるなんて大それたもんじゃねーだろたぶん。幸徳池と一緒に、手を差し伸べるだけだって」

 越後はローファーを履き直して言う。

「ふーん。じゃあもしさ、私がそういうふうになって困ったら、剣見君は同じようにやっぱり手を差し伸べてくれるのー?」

 まん丸にした目が、今か今かと答えを待っている。こうされると、やっぱりちょっと揶揄いたくなるものだった。

「いや、越後は平気じゃないか?」

「な・ん・でっ!」

「まぁ仮にそうなったら、そりゃもちろん差し出すどころか、届くまで手を突っ込んでやるよ」

 それくらい形にならない何かをいろいろ貰ってるから、とは口にしなかった。

 越後はくすりと笑う。いつものような軽快なものでなく、らしくもない落ち着いたものだった。

「じゃ、俺はそろそろ行くよ。越後はやっぱりまだここに?」

「うん。私は本の続きを読もうかな」

「そっか。じゃ、またな」

「あ、ちょっと待ってよ」

「……なに?」

 振り返った矢先、不意に伸びてくる手は俺の頭にポンと置かれた。

「よし、これでバッチリです。上手くいくおまじないをしてあげたのさ」

「そっか、ありがとな」


⭐︎


 社会に出れば、世渡り上手になること間違いなしである笹野目紫苑――と、会った日から数えて十日ほどが経過した五月中旬のことだ。

 双子の姉であるところの莉音と、ようやく俺はあいまみえることとなったのだった。ちなみに本人の希望で、俺以外は誰も来ない。幸徳池も。俺と話す条件として、二人きりの場を、どういう意図があってか要求してきたらしい。

 放課後。裏山の神社に、制服の莉音は時間ピッタリに来た。挨拶を交わした印象としては、人見知り感丸出しで警戒心が服を着て歩いているような感じ、なんてふうには少なくとも感じられなかった。

 瓮は中学生当時に受けた印象として、心に鍵をかけている感じと言っていたが、それが一番しっくりきそうではあった。目の前で言葉を交わしてはいるけれど本人は不在、みたいな感じと言えば良いのだろうか。目線も一切、合わせることをしないし。

 境内から少し行ったところにある木製のベンチに座って、俺たちの話は始まったのだった。

「剣見先輩は、普通じゃないものが見えるんですか」

「え……あぁ、そうだよ」

「……本当に、いるんですか。あるんですか、そういうのは」

「瓮のこと、聞いたろ。残念ながらそういう理解の外にいる存在はある。この高校に入ってから、俺は少なくとも二度、目の前で対峙した」

 五十四忘草と、狗神である。

「そうですか……」

「今日は何か話すことが、心当たりがあって来てくれたんだろ。なんでも話してくれていいぞ」

 紫苑ははじめ、莉音を遊びに誘うところから始めたらしいが、それではとりつく島もなく……そこで、日常における莉音の些細な変化のあれやこれやをいろいろ言及し、相談して欲しいと説得を試みた。しかし、それも徒労に終わり、最後にとうとう怪異現象について口にしたのだそうだ。

 すると、今まで頑なに応じないでいた莉音は、一転して応じる構えを見せたのだという。そして、二人きりならば話をすると。であればだ、怪異的事象に思い当たることの一つや二つ、きっとあるに違いない。

 神社の木々がざわつき、莉音はその音が止んだ頃に口を開くのだった。

「――四月から倒れた人たちは、みんな……私のせいです」

 そう笹野目莉音は静かに告白し、キッパリ断言した。

 しかし、この物言いではまるで意図してやったふうではないか。まさか、意図的に引き起こしたとでも? 意図的に起こす怪異現象、神通力、超能力……言い方は何にせよ、もしそうなら、そんなものは怪異に憑依されたわけでも行き合ったわけでもなく、怪異そのものであると言えてしまう。いまの言葉の真意とは、いったい。

「それは、いったい何を根拠にそう思ってるんだ?」

「……聞こえたんです。聞こえるはずのない、声が」

「こえ?」

「心の声、みたいな。それが私には聞こえる……高校に入学してから」

「相手の考えが、手に取るように分かってしまうみたいなことか?」

 しかし、そうではないらしく首を振られた。

「私に対する悪意。それしか、聞こえたことがない」

侮蔑(ぶべつ)だとか(そし)りだとか、そういう聞かされたくもない内面の声が向けられた時、聞き取ってしまえると?」

「概ねそんな感じです」

 じゃあ仮にだが、いま莉音の髪の毛から良い匂いがするのでもっと近くで嗅いでみたい、なんて不適切にも考えてしまったとして、それは大丈夫ということか。

「ふうん……なるほどな」

「でもその声は、言葉らしく聞こえてくるわけじゃないです。意思……というんですか。直接、頭に入り込んでくるような。そして聞かされた日、彼らは倒れた……この意味、分かりますよね」

「だから因果があると」

「はい。今は聞こえることが無くって落ち着いてるけど、またいつそうなるか分からない。そして私も、どうすれば良いのかまた、分からない。教えて欲しいんです。どうすればいいのかを。怪異を、知っているんですよね。教えてください」

 随分と性急だ。

「いや待ってくれ。悪いけれど、知ってるというか、俺はそういうのが見えるってだけ。知っているのは幸徳池っていう奴なんだよ。ここで何か妙なものを見ることがあったなら、俺もすぐに怪異とはわかるけれど」

「じゃあ、何か……何か、見えないですか」

 決して、いやらしい意味ではなく、舐め回すようにじっくりと拝ませてもらった。滝のように流れる黒髪はツヤツヤで、白い肌は絹のようだ。耳の下にはホクロがあって、唇はやや薄い。顎の下に古傷みたいなのがあるな。そして紫苑より胸は大きい……。

「残念ながら、というのは些かおかしい言い回しかもしれないが、見えはしないな。体に異変は? 身に覚えのない傷とかアザとか、そういう」

「無いです」

 と、そこで紫苑が言っていたことを思い出す。

「夜はちゃんと眠れてるの? 朝起きるのが辛そうだって聞いたぞ」

「こういうことがあって疲れてるので。でも、今まで以上にむしろ眠れてはいますから」

「些細なことでも、他に何かあったりするか?」

「無い、本当になにも無いんです。いきなりこんなふうになってしまったことを除いて」

 いったんこれで幸徳池に投げてみるか。たぶんこの時間だから、委員会の仕事は終わってる頃だろう。

「じゃあ、ちょっと待っててくれるか。いまのことを一旦取りまとめて、幸徳池に話してみるから」

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