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  作者: 左猫右雛
第二章
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21【笹野目紫苑】

「――私には、莉音(りおん)という双子の姉がおりまして。と言っても二卵性なので、イメージされがちな瓜二つというわけではないのですけれど、それでも背格好とか運動神経の鈍さはとてもよく似ています。

 でも、違うところも多くあって、髪の毛は私みたいに結ったりしたことはないですし、勉強はすごくできます。食べ物の好き嫌いもありません。

 そんな姉と私は茜高校に今年、揃って入学できました。私は三組、姉は七組に在籍しています。そしてその七組で、およそ奇妙なことが起こり始めたんです」

「奇妙?」

「厳密には、七組以外にも起こってて、だから奇妙に思わされた……という感じでなのですが」

「ふむ……」

「発端は一ヶ月ほど前。部活中の生徒が急に倒れて救急搬送されるという事態が発生しました。一年七組の、チアリーディング部に所属する方、二名だったそうです。

 そして翌日、同じく七組の陸上部に所属する女子生徒もまた部活中に同じ症状で運ばれました。いずれも大事には至らず、後日すぐ学校に来ていたようですが」

「七組以外のとこで起こった、とかさっき言ってたよな。すると、まだ続くわけか?」

「はい。現代文の寺尾先生が放課後の校舎で倒れ……さらに後日、茶道部三年の女子生徒が下校中に。他の日にも、吹奏楽部に所属する一年五組の女子生徒もまた、同じ症状で部活中に倒れたそうです。時系列は私の調べた限り、概ねこの順序かと思います。

 つまりですね、ここ一ヶ月で原因不明で倒れるケースが多発しているんです。そして内半数が、七組の生徒なんです」

「うむ……」

「原因が不明なため、学校側の対応としては本人たちに個々の聞き取りとケアを。学年集会では、精神衛生の講義が行われました。保健室も今は、窓口が開放されています。

 先生たちもどこか少しピリピリしていますし、一年生の間では気味悪がる人もいて、クラスでは自発的箝口(かんこう)令と言いますか、そんなムードが流れています。

 こんな事って普通に考えて起こり得ると、剣見先輩は思われますか?」

「……まぁ普通っちゃ言えないかな、やっぱ」

 だからと言って、何か怪異的なものがあると頭ごなしに決めつけてしまうのは良くないが。

「ウチはさ、一年の子が倒れちゃったのは知ってたんだけど、当時はあの事もあって気が回らなくって。

 紫苑に今更だけど、話聞いてみてさ。そしたら、いろいろ思うところがあるみたいで相談されて、ウチもこれはおかしいって感じがしたわけ」

「なるほどな」

 幸徳池の窓口係か。橋渡しならぬ、話渡しである。

「ほら……ウチもいろいろあったじゃん? だから、バイアスが働いちゃってるのかもしれんけれど」

「決めつけは良くないが、そういう方向性を視野に入れておくのは悪くないんじゃないか」

 と言いつつも、やはり怪異絡みの線は割合高いかもしれないと思ったりしていた。だって、逆パワースポットであるという事実を先日、然鳩(さばと)から聞かされたばかりなのだから。

 そうなると問題は、逆パワースポットの原因、要するに特異点らしきを慎重に見極めることだろう。俺では針の穴から天を覗くようなものだから、こればかりは幸徳池に聞いてみないとどうにもならんが。

「ところで、笹野目は――」

「紫苑です」

 真顔で言った。

「……えっと」

「紫苑です」

 双子だから苗字で呼ばれたくないとかか?

「あぁ……紫苑は心当たり的なもの、あったりするのか?」

「はい。実は、これはまだ爽羽先輩以外には誰にもお話ししていないのですが、母も同じように意識を失い病院へ運ばれたんです」

「えっ……?」

 校外の人間にも同じことが……それでは、現代文の寺尾や茶道部の三年生に続き、渦中と思しき七組からどんどん外れていくではないか。

「夕方ごろに、母が職場付近で倒れたと一報あって、莉音と一緒に病院へ駆けつけたんです。そこで精密検査も行ってもらえたのですが、結局原因らしきは何も分からず、母もすっかり大丈夫そうだったので、即日退院となりましたが。

 でもわたし……とうとうそこで、おかしいなと思ったんです」

「もしかして、奇妙に思わされたってのはそこか?」

「はい。七組が中心と感じていたものは正確には誤りで、七組にいる莉音が中心だったのではないかと、そこで気付いてしまったんです。

 そうすれば説明がつくといいますか、筋が通るといいますか……七組の生徒達もそうですし、茶道部の三年生の方についても、それは莉音の在籍する部活ですし、極めつきは母なので」

「でもちょい待ち、現代文の寺尾は?」

「莉音が受けている現代文は、寺尾先生です」

「他のクラスの生徒は?」

「体育の合同授業は、五組と七組が一緒なんです」

「マジか……」

「ですから、何か良くないものが莉音に取り憑いていて、そのせいで周りに悪影響を及ぼしてるんじゃないかと、思ってしまったんです」

 本人ではなく周りにというのも妙なだが、ひょっとすると、これから本人に影響が出てくるタイプかもしれんのだし、妹としては不安になって当然か。

 なら、倒れた人間と莉音の関係性はいったい……と思って尋ねてみると、紫苑は少し言いづらそうに話し始めた。

「あの……莉音についてなんですが、こんなことを言ってしまうと、変な印象を与えてしまうかもしれないのですけど、超の付くほどの人見知りなんです。恥ずかしがり屋というよりは、およそ警戒とかの方の。近寄られると基本的に逃げる、みたいな」

 懐かない野良猫かよ。

「真逆の性格って感じか?」

「はい、そうなんです。誰かと遊ぶことも全くしないですし、なので友人と呼べる関係はもとより、知り合い程度の関係すら、おそらく無いみたいで。小学生の頃なんかは違ったのですけれど。よく笑うし、むしろ感情が表にハッキリ出る人で」

 紫苑の視線は、思い出を振り返るように逸れていく。

「高校でも莉音は、大体の人とうまく付き合えていません。茶道部も幽霊部員なんです。届出を出しただけに終わってるそうで」

「ふうむ。なるほどな、倒れた人間とは接点というか共通項はあっても、とりわけ関係性があったわけでもない、か」

「はい。でも心根はすごく優しい人ですし、ちゃんとした人間なんです。動物もすごい昔から好きで、勉強もできて頑張り屋さんなんです」

 懸命なフォローから姉への思いやりが、ひしと伝わってくる。きっと、仲が良いのだろう。

「そっか、まぁ紫苑のお姉さんなんだもんな」

「ただ……」

「ただ?」

「悩みを、本当に誰にも打ち明けない人なので、それは小さい頃からずっと。だから不安なんです。とりわけ今回は」

 さて、一連の事柄を巻き起こしているのは、怪異に取り憑かれた莉音が原因となっている推測を紫苑は立てたようだが、実際はどうか。

 確かに彼女を中心とすれば、線に結びやすくなるやもしれない。だが、線にしたところで、解に紐付けるのは難しい。状況証拠的であって論理的根拠に乏しいのだ。

「ちなみに莉音は、最近なって変わったこととかあったりするの?」

「そう、ですね……目立ったものじゃないのですが、気になる点はあります。

 今まで、朝はそんな苦手ではなかったのですけれど、最近はとても起きるのが辛そうで、夜中に何かをしていて寝不足みたいなことは無いはずなんですけれど」

「そっか。まぁ概ね事情は理解したよ。俺も調べてみる。そういうことに、詳しい奴がいるからな」

 そこで紫苑は、ようやっと抱える荷の半分ほどを下ろせたような面持ちで、こう言ってきた。

「剣見先輩は、お優しいですね。聞いてくださっただけでも有り難く感じますが、親身なご姿勢にとても心強く、支えに感じてしまいます。

 誰にどう、相談して良いのか分からずにいましたから」

「そりゃ、無闇に話せないよな」

「はい。実は先日、爽羽先輩に今みたいなご相談をさせていただいた折、ご自身に起こった事についてを拝聴させていただきました。その流れで、紹介していただく予定だったのですが、こうして偶然にも。爽羽先輩の仰ってた通り、素敵な方です」

「え……瓮、紫苑に何を言ったんだ。過度に期待されちゃ、やり辛いだろ」

「えっ? いやっそんな大したこと言ってないし……紫苑が大袈裟な物言いをしてるんだって」

 何故かテンパった様子の瓮。隣の紫苑は、小さく笑ってバッグからスマホを取り出した。

「そうですね。私の大袈裟でした。では剣見先輩、ご連絡先を――」

 連絡先の交換を行い、紫苑は予備校へ。俺たちは二人で夕暮れのなか、帰途につく。

「瓮は、莉音と面識あんの?」

「何度か会ったことはあるけど、二言三言ね。ほとんど知らないも同然。

 陰キャとは違うんだけど、心に鍵をかけてそうな印象っていうのかな」

「ふうん。こんなこと言っちゃアレだが、なんだか怪異に巻き込まれそうな」

「あと、これはウチからは詳しく教えられないんだけれど、紫苑たちの家庭っていろいろあったみたいでさ、過去に。必要なら本人から聞いてみて」

「シビアなやつか」

「あのさ、雛太……紫苑のこと、延いては莉音のことでもあるけど、よろしくお願いね」

「任せとけ、とは言わないぞ。俺は幸徳池に、今の話をまんまそっくり相談する立場なだけだ」

 そう、実際役に立てるのは俺ではない。

「そうだね。でも、紫苑も安心してたでしょ。誰かが味方になってくれる……そういうのって結構、心強いもんなんだよ」

「そんなもんかね」

「はは、そんなもんだって」

 この爽やかな笑みを見て、俺は思わせられる。

 あのとき俺たちが手を差し伸べた鳥は自ら羽ばたいて、次に手を差し伸べるべき誰かを、こうして探してきたのだと――

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