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  作者: 左猫右雛
第一章
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19/53

19【茜高校】

「あたしがこうしたのは他でもない。あんたらの、まぁ言ってしまえば力量あるいは度胸、もしくはその両方を確認するためさ」

「……つまり、私が今まで通りでいれるための資格を得る試験、とでも言いたいわけ?」

「そう思うのなら、そうかもな。ならさしずめ及第点。現実問題に対する合格を意味しちゃいないがね」

「どういうこと?」

「あたしがどうして、このタイミングであんたに絡んだか分かるか?」

「……私がやり過ぎた、から?」

「半分ハズレ。あたし自身は、律がどんな事をしようとも絡む気は無かった。

 が、誰かを伴って怪異にあたるとなりゃ話は別だ。誰かを巻き込む意味を、あんたは分かってんのか?」

「それは分かってるつもりよ。だから、私なりに出来る事はわきまえて――」

「いいや、分かってない。まんまその意味で、つもりでしかないだろ。出来る範疇(はんちゅう)で、毎回都合よく怪異が現れてくれるなんて思うなよ。

 出来ない局面に立たされたとき、ヒナがそれによって何かを失う事態に陥ったとき、律……あんたはどう責任を取る。

 まさか、こんなはずじゃなかったなんて弁明を白々しくもするわけじゃないだろうな」

「……」

 これは幸徳池だけの問題じゃない。俺も片棒を担ぐくらいしないと、と思い口を挟む。

「それは、どっちかと言えば俺が」

「黙ってろ。いま律に聞いてる」

「はい……」

「極論、ヒナが命を落とし家族が不幸になったとき、あんたはどうやってその責任を取るのか、あたしは聞いてる」

「でも、それは……」

「聞き方を変えようか。こいつにも家族がいるよな。その家族が大切なものを失ってしまい、一生その辛い気持ちを背負っていくとなったとき、あんたは後悔しないと言えんのか? 軒並平凡な日々の一つとすることができるのか?」

 前をしっかり見据えていた幸徳池の視線は、とうとう落下した。

 無理もない。然鳩の言うことは、まるで悪魔の証明だ。とは言え……痛く正論でもある。

「――あの、然鳩さん。いいですか?」

「なんだ?」

「さっき話したとおり、これは俺のためでもあるんです。エラが過ぎるかもしれないですけれど、リスクの本人である俺にもだから、少しだけ言わせてください」

「ほう、言ってみろ」

「幸徳池に協力するのは前ならともかく、今は望んでやりたいこととも言えます。

 怪異が見えることに理由があるとすれば、それはきっと茜高校で友人を助けるためにあったんだと感じたい。この前、そう思いました。

 であれば、これは自己満足では少なくとも終わらないし、それを成し遂げるために選んだ道を行くのなら、少なくとも俺に後悔は無いです。

 大人と言うには至らない部分は多いかもしれない。だけど、分別の付かない子供でもないです。言ってしまえば、不安定な年頃なのかもしれないですけど、自分の生き方を決めてもいい年頃にはなっていると自負してます」

 幸徳池も責任云々の前に、自分の思いを大事にしてほしい。そう思いながら俺はそこに付け加える。

「そのうえで、俺は幸徳池のやってることに賛同します。いや、させてください。お願いします」

「勘違いすんな。あたしは、あんたらを別段こどもとして見ちゃいないし、まして大人とも思っちゃいない。一人の人間として、話してるだけだ。

 そのうえで言わせてもらうが、ヒナは家族にきっと話せないだろこんなこと。家族が知ったらどうだ? そんなことして欲しいなんて思うわけはないよな。それでも胸張って、怪異退治ごっこに興じたいってのか?」

「家族だからこそ、話せないことってたくさんありますし、話せないことが直ちに悪いことでもないはずです。然鳩さんが幸徳池に今まで黙っていたように。

 家族って……なんでも話さないければいけないのではなく、なんでもは話さなくて良い関係であるべきじゃないですか。自立を信じて支えるのが家族だと思うんです、俺は」

 そこに幸徳池が続く。

「お父さんの遺した専門書をずっと読んできて、内容も(そら)で言える程度には把握できた。そこには、父の見た世界がもし見れたらなんて思いもあったと思う」

 聞いたことがなかった父への憧憬(しょうけい)

「剣見君に力を借りて、父に近づいた気になって、そこに(おご)りが無かったとはたぶん言えない。でも、そういうのを経て気づいたことがあったの。

 剣見君が手を差し伸べてくれて私に得られるものがあったように、私が……私たちが手を差し伸べて、誰かが得られるものがある。そうやって世界は繋がっている。

 剣見君は私が巻き込んだ形だけれど、私は剣見君のそういう価値観に巻き込まれた。

 何かあった時に責任を取れる範囲なんてとても小さいと思う。万が一にも剣見君が命を落とすなんてことがあったら、だから責任の取りようもない事だと思う。それを無理くり理由づけしようとすれば、(から)念仏でしかないわ。

 かと言って、責任の取れる範囲で何かをするなんて、それこそごっこ遊び程度のことしかできない。それは、私たちの本望じゃなく後悔に繋がるものでしかない。

 さしあたっては、責任を前提に話すのではなくて。私は……そしてたぶん私達は、意義を前提に話がしたい、そう思ってると……私は思う」

 よく言った幸徳池。俺は小さく頷いた。

 然鳩は、ジッポでカチャカチャと開閉を繰り返し、口を開いたのは、そんなことを十回ほど行った後だった。

「……特異点がある」

 意味深なワードに、俺たちは見合わせた。

「あんたらの通う高校は、もともと数年前からあたしが目をつけていた場所でな。近年、特異点のようなものが生まれつつあるか、もしくは生まれている可能性がある。

 つまり、良くないものが集まりやすい吹き溜まりのような場所になってるかもってことだ。

 関東圏に本来いない狗神なんてもんが現れちまったのも、そのせいと言って良いだろう。

 原因を突き止めて手を打っておきたかったが、場所柄、無闇に立ち入りもできない。他に片付けなきゃならん仕事で追われてもいる。だから、式神を使って様子を見ていた。式神は、普通の人間には見えんからな」

「式神……たしか、幸徳池は原型みたいなのを作ってたよな?」

「ええ。式神は、サブカル的な影響で簡単そうに聞こえてしまうかもしれないけれど、正しく作れる人は相当少ないの」

「その通り。式神を作るには知識に材料、精神力やセンスも問われるから、専門家連中でも作れないやつは珍しくない。

 でまぁそんなもんを使ってたは良いが、尻尾すら掴めないし、こうして明らかに毛色の違う怪異現象が発生しやすくなっちまってるってのが分かったわけだ。

 だから、これは忠告だ。もし、原因らしきに近づきそうになったら手は出すな。あたしにまず教えろ。

 律……それがあんたをフォローする条件だ」

「然鳩……じゃあ私はいいの? このままで、剣見君と」

「恋仲割こうとしてるような物言いすんなエセカップル。んなもん勝手にしろ。あたしは言ったんだ、ちゃんとここでな。別に許可を出す義務なんて、あたしにゃ無い」

 それを聞いた幸徳池はヨロヨロと立ち上がる。いったい何をするのかと思いきや、極めて神妙な顔つきでこう言った。

「分かったわ言う通りにする。でも……ちょっ、もう限界なの。トイレに――」

 そそくさと部屋を後にした幸徳池だったが、このときの然鳩の呆れた顔はものすごかった。

 あの苦悶(くもん)たる面持ちは、尿意が原因だったとは思いたくない。

「ヒナ、とりあえずあんたには式神を紹介しておく」

「え? あーはい」

 軽々しく返事をしたが、心構えなんてしていたわけではもちろんない。とりあえずコレ持ってて、なんて言われた気分に近かった。

「入ってこい」

 襖の向こうからでも縁側からでもなく、まるでクラッカーが開いたようにそこから現れた人物、もとい式神を見た俺は息を呑まされた。

「じゃーん。可愛いと思ったそこのキミ、特別に拙と握手」

 差し出された手を、しかし俺が握ることはない。

「あのときの……」

「なんだヒナ、九穏(くおん)を知ってるのか?」

「いや、魔法少女の見た目に関しては、ですけど。まさか式神だなんて思いませんでした……」

「ち……おい、接触はすんなっつったろーが馬鹿タレが」

「おさわり禁止は守っているよ。話しかけただけだもの」

「はぁ……漢数字の九に隠れるで、九穏。こんなナリだが力はある。そこらへんの怪異は相手にならないほどのな。

 ただ、あたしが何を間違ったのか。いや間違ってないはずだから、こいつが勝手に間違ったんだろうが、可愛いってものに異常に興味を持つようになった。だからあたしの趣味でこうなってるわけじゃない事は、先に言っておく」

「……そうですか」

 正直そんなことはどうでも良かった。それより、どうでもよくないことがあった。

 式神は普通の人には見えないと、さっき然鳩は言った。それはつまり、九穏と俺が話した時点で、俺が見える人間かどうかはこうして今日確かめるべくもなく、分かられていたということになる。もっと言えば、俺たちがやっていたこともほぼ筒抜けだったかもしれない。だとしたら、なんたる茶番。

「九穏を呼びたきゃ念じればいい。こいつは思念を読み取り、そこへ現れる。何かあったとき、力になるだろ。

 あんたなら怪異のヤバそうなのも、直感的に判別つくだろ。原因たる怪異に見当がついたなら、こいつ経由であたしに教えろ。後のことは、あたしが対処する。いいな?」

「分かりました」

 こうして、この騒動は幕を下ろした——

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