表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 左猫右雛
第一章
PR
16/40

16【幸徳池 律】

 幸徳池が俺に嘘の告白をしてきたのは何故か? またぞろナプキンで何かを折りだした幸徳池曰く、俺のためだったという。

 告白というのは、自分のために行われるべきものだと思うし、そうでなくてはいけない気がする。

 しかしながら、『告白をするならば、自分のためである』を裏返してみれば、『嘘の告白をするならば、自分のためではない』なんて裏命題も成り立ちそうだ。とは言え、『なぜ俺のためになるのか?』という疑問は結局解決しない。

「よく分かんないな。なんで俺のため?」

「私はいま叔母と、つまりは死んだ父の妹にあたる人と二人暮らしなのは、前に言ったわよね」

「ああ、たしか陰陽師か何かの家柄かと思って聞いたら、お前が父親はそんな感じかもって返してきて。二人暮らしのことは、そんとき聞いたよな」

「そうなの。父の資料があったから、私は知識を得て曲がりなりにも知ることができた。だからたぶん、父はそうだったんだと思ってるわ。母は生まれてからすぐに亡くなってて、分からないんだけれど。

 まぁ、そういうことで身寄りのない私を、叔母は引き取って今まで面倒を見てくれていたの。いえ、社会が引き取らせて保護させた、というのが正しいかしら」

 斜に構えた言い方をするもんだ。

「その、叔母さんはそっち系っつうか。幸徳池の父親と同じ感じで、見える側の人ってわけでもないんだろ? 記憶違いじゃなきゃ、たしか写真家だっけ?」

「ええ。だったんだけど……」

「だけど?」

 カエルが大小二つ、そこに並んだ。

「んん……今までわたし、叔母と会話らしい会話をたぶん、ロクにしてないの。でも別に、険悪とかそういうのじゃなくて。言うなら放任? って感じかしら。

 叔母は口数も少ないし家を空けることも多かったから、詳しく知る機会は無かったし。私もそんな機会をわざわざ作ろうとは思わなかった。

 だから叔母のことって、剣見君に対してよりも知らない事が多かったのよ」

 それを聞いた俺はふと、そういうものなのかもしれないと思った。

 俺だって、父親が具体的に何をしている人かと問われれば即答しかねる。たぶんサラリーマンだとは思うが。母親にしても今は専業主婦だけど、元々は何をしていたのか不明だ。

 存外、親っていうのは知ったつもりでいるだけで、実は知らない部分が多かったりする。

「――でね、そんな叔母からあの儀式の夜、私は言われてしまったの。というか忠告されてしまったのよ」

「忠告……?」

「私が怪異がほぼ見えない体質なのも、道具を作ってるなんていうのも、実のところ全部知られちゃってたみたいで」

「待った。て言うと、幸徳池はもちろんそうしてるとは思ってたけど、これまで隠してきたつもりだったものは、全部バレていたと」

「困ったことに」

「困ったこと……なんだろうけれど、でも待ってくれ。変なの作ってるとか興味を持ってるとかっていうのは様子から察せるとして、見えない体質ってのはどうやって……言ってないんだろだって」

「どうやって知られたのかは分からない。でも、分かることもあるのよね」

「は……?」

「あの日、私の帰宅後に間髪入れず帰ってきた叔母から、呼び止められたのだけれど、たちどころに荷物を出せって言われて。それらが、狗神(いぬがみ)の儀式に対するものだってすぐに把握されてしまった。だからたぶん父と同じくらい、そういうことに詳しい人なのだと思わざるを得なかったの。

 そんな人ならもしかしなくとも、見えない人と見える人の区別くらいは、別段難しくはないのかもしれない。私が剣見君にやったように」

「そういうことか……」

「考えてもみれば叔母は、父方の親族なわけだし。近しい血縁もまた、そうであって何らおかしくはないわ」

「言われりゃ、さもありなんだ」

 家系図なんかを調べたら、平安時代まで行くんじゃないか? 安倍晴明(あべのせいめい)的な。

「……まぁ、叔母さんが実は専門家チックな立ち位置の人だったとして、それは分かったけれど。忠告っていうのは?」

「剣見君といたのを見られていたみたいで。一人でじゃなく、見える誰かの力を借りて儀式をやったんじゃないかって勘繰ったみたい。その見える誰かはもちろん、剣見君のことを指すわけだけれど。もしそうなら、遺品の資料は全て処分すると言われてしまって」

「えっ……それはいくらなんでも飛躍しすぎだろ」

 大事であろう遺品をいきなり処分だなんて。

「つまりは……私がやりすぎてしまったとでも、たぶん言いたいんじゃないかしら」

 確かに五十四(ごしの)忘草(わすれぐさ)の時のようなものではなく、狗神の儀式は素人目にも本格的だった。そういうレベルのものは危険だから、無闇に手を出すなという忠告か?

 いや、それにしちゃ言い回しが妙だ。

 どうして、『見える誰かの力を借りてやったなら処分をする』という、まるで一人でやったんだったら咎めない、みたいなニュアンスを取ったのだろう。仮に儀式をやったことを咎めたいのであれば、普通はこんな言い回しになるべきだろう。『こういうことはもうやめなさい。さもなくば遺品は処分する』みたいな。

「ふむ……で、俺のことはなんて?」

「処分されるのは困るから、まず剣見君のことについて嘘をついたわ。剣見君は普通の人で恋人、心細いから一緒にいてもらったの。って」

「え……それ、信じたの」

 んな女々しいキャラじゃないだろうに。しかも、すっけすけな嘘をよく鵜呑みにしたもんだ。案外優しいのか?

「ひとまずはね。でも真っ先にこう言われてしまって。なら連れて来い、恋人なら紹介してみろと」

 おう、全然信じられてねえ。

「だからさっきのくだりか、なるほど理解した。

 でも、それなら俺のために嘘の告白をするってのが、差し当たってはよく分からないんだけど。普通に恋人のフリでも、それこそ頼んでくれりゃ良いものを」

「いやだから、フリをお願いするのはいくらなんでも失礼かなと思ったのよ。分からない?」

「ん……あぁ」

 なんでこういう、妙な気の使い方をするんだろうかこの人は。

「本当に付き合ってしまっても、減るものでもないし、良いんじゃないかと思ったのよ」

「あのなぁ……もうちょっと考えようぜ。大事なことだろ思春期においちゃ、そういうの」

「……まぁそうね、かえって失礼だったかもね。こっちはその気ゼロなのに、無駄にルンルンさせちゃうものね」

「おい、思いやりって言葉を知ってるか?

 まーいいやそれでじゃあ、叔母さんに紹介をされなければいけないと」

「ええ。でも、叔母はちょっとアレというか……」

「……?」

「変わってるの」

 お前が言うんかい。

「でも、やっぱりなんでもないわ。会う前に先入観を持たれてもね」

「いやいや。かえってすげえ気になるわ」

「それより恋人同士って、どんな感じで振る舞えば良いのかしらね」

 一番俺に聞いたらダメなやつだ。

「普通で良いんじゃないの」

「普通って?」

「いまのまんま」

「なるほどね。全くわからないわ」

「安心しろ、俺も分からん」


⭐︎


 後日、幸徳池の家に赴く。立派な門の横にある表札を見た。幸徳池の右隣に丹虎という二文字。おそらく、叔母の姓か。

「――剣見君、どうしたのそんなとこで」

「この……たんとらって、叔母さんの苗字か?」

「それじゃヒンドゥー教シャークタ派の教典よ。正しくは『にこ』」

「へえー、そう読むのか。あれ……なんかどっかで。にこ……にこ、あっポスターで見る人だ。街をニコニコに、ニコつよしとかいう」

「それは丹子ね。漢字が違う。虎ではなくて子供の子。代議士の丹子は、丹虎の分家にあたるそうよ。詳しくは知らないんだけれど。

 私、政治家の笑顔って嫌いなのよね。まるで道化の仮面に見えて仕方がないの」

「なんのアンチだよ……」

 しかし議員を輩出する分家から見て本家にあたるわけだから、もしや叔母は陰の権力者……みたいな人だったりするのだろうか。

 不躾(ぶしつけ)ながらも俺は、和装で(いかめ)しい態度の女性を勝手に想像してしまった。

「じゃあ、ついてきて。

 玄関とか部屋の境目、境界線となるところは踏まずに跨いで入ってね。そういうの、うるさい人だから」

「承知した……」


⭐︎


 通された座敷は奥ゆかしい。少なくとも駄菓子を食べ散らかしてゲームをするような部屋ではないと言える。

 掛け軸が飾られる床の間には付け書院。違い棚にも骨董品が整然と並んであって本格的。右に置かれた木彫りは羽を広げたカラスが鎮座する。

 半開きの障子から見える池には、錦鯉が泳いでいそうな雰囲気だ。その横、立派な黒松は日本庭園らしさを強調する。

 俺はおそらく上座という場所に座らされた。そこに、叔母の姿は無い。

 やがて仁取盆(にとりぼん)に、グラス二客に缶のドクペを乗せて戻って来た幸徳池に、俺は突っ込んだ。

「そのお盆にドクペって……」

「嫌いだった?」

「いやそうじゃなく。お茶の急須とか、せめて麦茶のピッチャーとか乗りそうなのに、まさかアバンギャルドなイラストのドクペが出てくるとは」

「最近のドクターペッパーは、ロゴだけが多いから。こういうイラスト貴重なのよね。

 叔母は、もうすぐ来るみたい」

「そっか。妙に構えちゃうな」

「私のせいなのだから、基本的には私がフォローもする。平気よ、任せて」

 その僅か十分後。想像より全然若く、言ってしまえばイマ風な叔母と座敷で二人きりにあいなってしまうのだった。

 驚いたのは、あんたは出てろと言われ、幸徳池がいともあっさり中座したことだ。正座する俺を残して。

 フォローとは――?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ