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  作者: 左猫右雛
第一章
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15/37

15【大江戸エピソード 下】

 では、この不可解の考察をしよう。考えられる可能性は三つだ。

 一つ目は、怪異現象によるもの。

 二つ目は、カバンから落ちたものを誰かが拾い、届けるにしろ盗むにしろ、置き忘れていった。

 三つ目は、手渡してきたそのクラスメイトが嘘をついている。

 俺は、三つ目だとすぐに思った。

 なぜそのクラスメイトが、男子トイレで見つけたなどという嘘をつかなければならなかったのかは、合理的に説明できる。

 騒ぎになってから大勢が校内の至る所を手分けして探し回っていたわけだが、そんな衆目のなか俺の机などに入れ、思い違いで終わらせようとしても、その行動はかえって不審に映るだろうし、事実不可能だった。

 だからと言って不用意な場所に置けば、それは悪意を証明する。ゴミ箱へ捨てたとしても同様だ。陰湿なイジメとして受け取られる。

 そうなれば、あの雰囲気だから今度は本当に犯人探しになったろう。遺失物から、犯人ありきの窃盗へと切り替わる。

 大前提、大江戸からの指示によって単独行動をとっている者はいなかった。グループで動いていたから。つまり、怪しい動きをしたら即バレだ。

 こうして犯人は、誰かに気取られたりする危険がなく、俺が落としそうな場所を考える必要が生まれた。

 結果、トイレで発見したと(うそぶ)いた。そうせざるを得なかったのだ。

 剣見雛太は昼までトイレに一度も行っていない、という命題が潜んでいることなんて露ほども知らず。念の為言っておくが、トイレに行ったことを忘れていたなんてオチは無い。

 しかし、結局のところ真相はわからずじまいだ。俺の想定できる以上のことがこういう結果をもたらした可能性だって、そこには残されている。

 考察は以上だが、俺は財布のことよりも断然、考えさせられることがあった。

 大江戸がもし、はじめからクラスメイトが犯人だという前提を踏まえて動いていたというのなら、単独行動をさせなかったことや、話をクラス外に知れ渡るまで大きくさせたことには、一定の説得力がもたらされる。同時に、トラブルを起こせばどうなるのかを衆目に知らしめた形となる。

 それはつまり、大江戸太陽という人物の付近で問題を起こすことは、自らの首を絞めることに繋がりかねない、という厳然(げんぜん)たる事実の開示であったとすら言える。

 長々と駄弁ってしまったが、つまり掘り下げたところで彼と俺はそんな間柄。ただのクラスメイト。

 先ほどみたいな事例を挙げてしまうと、特に親しいように思われる向きもあるだろうが、大江戸が俺を気にかけてくるのは別に俺に限ったわけではないのだ。あのとき誰が俺の立場でも、同じことが行われたことだろう。

 ところで、事が終わってからこう言っちゃうのはなんだけれど、俺は別に財布を無くしても、そこで終えていた。

 あの財布には姉の大金……いや、姉にとってはきっと万札二枚は小銭なのかもしれなかったが。それと、俺のちょっとした金しか入っていなかったし、盗まれたなら不注意が招いた結果とも言えるわけで、俺は粛々と受け止めるのみだった。

 むしろ、そういう出来事にいちいち気を揉まれる方が俺にとっては無意味というか、本望ではないのだ。起こってしまったものは仕方ない。だから次どうするかを考える。俺はそういうタイプの人間だった、というまでの話。

 さあ、いかがだっただろうか。

 大江戸太陽は、俺にとって単なる友人である。言い換えれば、ただの友人でしかない。

 しかしながら、俺にとってただの友人というのはかなり少ない。ゆえに、絶対評価的な物差しを使えば、親しいなんてふうにもひょっとすれば言えなくもないのかもしれなかった。

 夕焼け失せる空のもと、俺の自転車は信号で止まる。そして、この回想もまた止まる。これにて終幕である――


「あ。そう言えば明日は、幸徳池と携帯を買いに行く予定だったか……」

 やっとこれで、気軽に連絡を取れるようになるわけか。

「――ねえねえ、オニイサン」

 俺の肩が三回何かに触れられる。振り向くとそこには、小柄で奇妙な風体(ふうてい)の少女がいた。

 不思議の国のアリスみたいな世界観の奴。ワンピースドレスに、ニーハイ、頭には小さめのクラウン。ハートマークが先端に据えられたステッキを持っていることを考えると、どちらかと言えば魔法少女か。

「……ええと」

 この街で、こんな格好をしている奴をかつて見たことがない。原宿とかならあるいは、あるのかもしれないが。いや、この場合は秋葉原か。

「おやおや。随分と素っ頓狂な顔をしているけれど、もしかして初対面の人とはうまく会話できない系かな」

「いや。お前みたいな妙ちきりんな奴に話しかけられることに動揺する系だ」

「はははは、面白いね。ところでお兄さん、今何時?」

 淡々と笑い、飄々と聞いてくる。

「えーと、六時、五十分回ったとこだな」

「ふむふむ。そうか、もうすぐ七時。(とり)(こく)ももうすぐおしまい。教えてくれてありがとう、お兄さん」

 時間を尋ねたいだけだったのか?

「あぁ……別に、どういたしま――?」

 少女の双眸(そうぼう)は俺からどかない。何か言いたげに、まだ見つめている。

「ん、なに?」

「ふふふ。じゃあじゃあ、ついでに聞いちゃおっかな。欲を張って、聞いちゃおっかな」

「なんだよ……」

「どうしよっかな。そんなに知りたい?」

 めんどくさいな。

「いや別に知りたくはない。なんなら聞かないでいいよ、そのまま胸の中にしまっておいてくれれば俺も安心だ」

「まあまあ。そうは問屋が卸してはくれないんだよお兄さん」

 問屋の立場は俺だ。そしてお前が客だ。

「わかったわかった、じゃあなに、何が聞きたいわけ?」

「さすがだね。男は度胸ってやつ? へええ、やっぱりそこに痺れたり憧れたりするのかな」

「ネタ古くないか。言っちゃあなんだけど」

「そうなんだ。これはうっかり。可愛い……?」

 こてんと唐突に首を傾げるが、あまりの角度に折れたのかと思った。がしかし、ここで傾げたいのは俺の方である。

「可愛いって何が?」

 すると、自分を指さした。

「奇抜な可愛さだ」

 ワンピースドレスって。しかもステッキって。カードでもキャプターすんのか。

「照れなくて良いのに」

「てれてねーよ」

「お兄さんは、どこからやって来たの」

「やってきたのは、お前の方だ」

(せつ)はね、向こうから来た」

 人の話を聞いちゃいねえ。てか、一人称が古風。

「お兄さんは、イチゴとサクランボ。どっちが好き?」

「……まあ、イチゴ?」

 正直どっちでもいい。

「へええ。そうなんだイチゴなんだね。拙は、どっちも嫌いだ」

「じゃあなんで聞いた。好きなもの聞けよ。それで共有して、私もみたいになるんだろ普通は」

「赤信号ってイチゴみたいだし、サクランボみたいだよね」

「えっ……あーそういう」

「青信号はメロンソーダ。みたいだよね」

「んん……ま、まぁそうかもな」

 そこでやっと、信号が変わった。

「じゃな、帰り気をつけろよ」

「青信号になると動き出す因果だね。キッカケがあると、動き出す因果。またね、お兄さん――」


⭐︎


 翌日は幸徳池の携帯選びに付き合い、そんなこんなで無事に連絡が取りやすくなって、いよいよゴールデンウィーク。

 俺の予定は思わぬ形で立つこととなる。幸徳池から連絡があったのだ。明日、話したいことがあると。

 また怪異やら何やらのことなのだろうと、このとき俺はたかを括っていたわけなのだが、後のことを考えれば腹を括っておくべきだったのかもしれなかった。

「え。おま……いま、なんて?」

「や、だから……私と付き合って欲しいのよ。買い物とかそういうのじゃなくって、恋愛の意味で」

 何かがおかしい。極めて引っかかるものがある。

「お前、熱でもあるんじゃないのか? それか悪いものでも食べたか」

「昨日は肉じゃがと小松菜のおひたしと焼き魚よ」

「健康的だ。じゃあ、何か隠してることでもあんじゃないのか? 言ってみろよ。おかしいだろそんな突然」

「その……」

 やはり何かあるな。

「いつもなら、そのサクランボなんてとっくに食い終わってるだろうにまだ残ってるじゃないか。混ぜ方もいつもより雑というか。とにかく、いつもと違う心境なのは分かる。

 第一おかしいだろ。俺のこと好きだなんて態度、今まで無かったろ。それでいきなりなんて、そんな告白あるか?」

 分かりやすく視線は揺れる。こいつは嘘が苦手らしい。

「図星じゃねえか。何か退っ引きならない事情でもあるんなら、まずは話してみろよ。じゃないと力になりたくたって出来やしない」

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