表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/34

電波 第8話

「……え?」


受付の女性職員は、一瞬だけ驚いたような顔をした。


 


その反応に、綾乃は首を傾げる。


 


女性職員はすぐに表情を戻すと、内線電話を取った。


 


「……はい。神崎綾乃さん、到着されています」


 


短いやり取り。


 


だが、その間にも女性職員の目線が時折、綾乃へ向けられている。


 


まるで“確認”するような視線。


 


やがて電話を切ると、女性職員は営業用の笑顔を浮かべた。


 


「神崎綾乃さんですね」


 


「は、はい」


 


「近くの専用エレベーターで最上階へ向かってください」


 


「最上階?」


 


「総監室です」


 


「……え?」


 


綾乃は思わず聞き返した。


 


警視総監室。


 


新人が初日に呼ばれる場所ではない。


 


「ど、どうして私が……?」


 


女性職員は困ったように笑う。


 


「申し訳ありません。その辺りは私も……」


 


そして少しだけ声を落とした。


 


「“直接通すように”と言われていますので」


 


その言い方が妙に引っかかった。


 


まるで最初から、自分が来ることを知っていたような。


 


綾乃は胸の奥に小さな違和感を覚えながらも、軽く頭を下げた。


 


「……わかりました」


 


 


警視庁奥。


 


通常職員が使わない通路。


 


そこに、一基だけ黒いエレベーターがあった。


 


古い。


 


地下三階へ続くエレベーターと同じように。


 


綾乃はボタンを押す。


 


チン――


 


静かに扉が開いた。


 


誰もいない。


 


だが中へ入った瞬間。


 


妙な圧迫感があった。


 


綾乃は無意識に肩をさする。


 


「何なの……今日……」


 


扉が閉まる。


 


エレベーターが上昇を始めた。


 


数字が変わっていく。


 


5。

8。

12。


 


その時だった。


 


照明が、一瞬だけ暗くなる。


 


ザ……


 


綾乃の体が硬直した。


 


また。


 


あのノイズ。


 


耳鳴りのような。


 


脳の奥へ直接入り込んでくる音。


 


 


――聞こえるか


 


 


「っ……!」


 


綾乃は振り返る。


 


当然、誰もいない。


 


密閉されたエレベーター。


 


なのに。


 


確かに声が聞こえた。


 


 


ザザ……


 


 


――接続確認


 


 


「な、何なの……!?」


 


綾乃が壁際まで下がった、その瞬間。


 


エレベーターが急停止した。


 


ガクンッ。


 


「きゃっ!?」


 


照明が激しく点滅する。


 


ザザザザ――


 


ノイズが強くなる。


 


綾乃は耳を押さえた。


 


頭痛。


 


吐き気。


 


視界が歪む。


 


そして。


 


閉じたままの扉の向こうから、“誰か”の気配がした。


 


コツ……


 


コツ……


 


足音。


 


ゆっくり近づいてくる。


 


「……誰?」


 


返事はない。


 


だが。


 


エレベーターの扉へ、黒い影が映った。


 


人影。


 


長い。


 


異様に長い。


 


綾乃の呼吸が止まる。


 


その瞬間――


 


チン。


 


何事もなかったかのように照明が戻った。


 


エレベーターが再び動き出す。


 


綾乃は壁にもたれたまま動けなかった。


 


やがて。


 


最上階。


 


静かに扉が開く。


 


 


そこは別世界のようだった。


 


下の喧騒が嘘のように静か。


 


長い廊下。


 


柔らかい照明。


 


重厚な空気。


 


奥には、大きな扉。


 


《警視総監室》


 


綾乃は唾を飲み込む。


 


その時。


 


「君が神崎綾乃君か」


 


後ろから声。


 


振り返る。


 


そこには、一人の男が立っていた。


 


柔らかな笑顔。


 


高級そうなスーツ。


 


だが、どこか掴みどころがない。


 


男は穏やかに笑った。


 


「初めまして」


 


「私は鷹城誠一」


 


 


綾乃は目を瞬かせる。


 


名前は知っていた。


 


ニュースでもよく見る国会議員。


 


なぜ、そんな人物がここにいるのか。


 


綾乃が困惑していると、鷹城は楽しそうに続けた。


 


「安心したまえ」


 


「君はまだ、食べられたりしない」


 


「……はい?」


 


鷹城は笑う。


 


冗談なのか、本気なのか分からない笑い方だった。


 


そして。


 


綾乃の耳元へ顔を寄せ、小さく囁く。


 


「地下三階には、気をつけなさい」


 


その瞬間。


 


綾乃の携帯電話が震えた。


 


画面には表示されていた。


 


《CONNECTED》


 


綾乃の顔から血の気が引く。


 


鷹城だけが、静かに笑っていた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ