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電波 第6話

「もう……初日から遅刻だよ!」


綾乃は腕時計を見ながら、都心の歩道を全力で走っていた。


朝の通勤ラッシュ。


人、人、人。


その隙間を縫うように駆け抜ける。


 


「やばい、やばい、やばい……!」


 


今日から警視庁勤務。


それなのに、既に遅刻寸前だった。


 


一方その頃。


 


火宮拓哉は、そんな騒ぎとは無縁のように歩いていた。


 


片手には古びた海外ミステリー雑誌。


 


くたびれたジャケット。

眠そうな目。


 


周囲などまるで見えていない。


 


「……ふーん」


 


ページをめくる。


 


“集団幻覚事件”の記事。


 


その横には、小さな写真。


 


海外の地下鉄ホーム。


 


そして。


 


首のない遺体。


 


火宮の目が、わずかに細くなる。


 


その瞬間――


 


ドンッ!!


 


「きゃっ!?」


 


綾乃が勢いよく火宮へぶつかった。


 


火宮の雑誌が宙を舞う。


 


綾乃は派手に尻餅をつく。


 


「いたたたぁ……」


 


スーツ姿のまま、お尻を押さえる綾乃。


 


周囲の通行人がちらりと見る。


 


火宮はゆっくりと雑誌を拾い上げた。


 


「……危ないだろ」


 


低い声。


 


綾乃は顔を上げる。


 


「そっちこそ前見て歩いてくださいよ!」


 


「見てた」


 


「絶対見てませんでした!」


 


火宮は答えない。


 


雑誌についた埃を払う。


 


綾乃は苛立ちながら立ち上がった。


 


その時。


 


雑誌のページが風でめくれる。


 


綾乃の目に、一枚の写真が映った。


 


地下鉄ホーム。


 


規制線。


 


倒れている人影。


 


そして記事のタイトル。


 


《THE VOICE FROM SIGNAL》


 


「……え?」


 


火宮は静かにページを閉じる。


 


「見ない方がいい」


 


「何なんですか、それ?」


 


「古い事件だ」


 


火宮はそう言うと、何事もなかったように歩き出した。


 


「ちょ、ちょっと!」


 


綾乃は慌てて追いかける。


 


「待ってください!」


 


火宮は振り返らない。


 


「新人だろ」


 


「え?」


 


「急がないと、本当に遅刻するぞ」


 


綾乃はハッとして腕時計を見る。


 


「うわっ!?」


 


火宮は小さく笑った。


 


その笑い方は、どこか疲れていた。


 


 


数分後。


 


警視庁。


 


綾乃は受付で警察手帳を見せていた。


 


「あの!今日付けで配属になった神崎綾乃です!」


 


受付女性は端末を確認する。


 


「あ……神崎さんですね」


 


「はい!」


 


「配属先は地下三階になります」


 


「……地下?」


 


「特殊資料対策室」


 


「特殊……?」


 


受付女性の表情が少し曇る。


 


「エレベーターで下へどうぞ」


 


「は、はい……」


 


綾乃は首を傾げながら歩き出した。


 


その様子を。


 


少し離れた柱の影から、火宮が見ていた。


 


その目は、先程までとは違っていた。


 


鋭い。


 


まるで何かを確かめるような視線。


 


その時。


 


火宮の携帯電話が震えた。


 


非通知。


 


火宮は無言で通話を取る。


 


 


『新宿駅の件、確認した』


 


低い男の声。


 


『またECHO反応が出ている』


 


 


火宮は無表情のまま歩き出す。


 


「対象は?」


 


 


『女子高生一名』


 


 


火宮の動きがわずかに止まる。


 


 


『神崎実夏』


 


 


沈黙。


 


 


『どうする?』


 


 


火宮は警視庁の奥を見つめた。


 


地下へ向かう綾乃の背中。


 


 


「……まだ触るな」


 


 


『理由は?』


 


 


火宮は静かに答えた。


 


 


「姉の方が先だ」


 


 


通話が切れる。


 


火宮は携帯をしまう。


 


その瞬間。


 


警視庁上空を、低いノイズのような音が通り過ぎた。


 


誰も気づかない。


 


だが火宮だけは、ゆっくり空を見上げていた。


 


 


ザザ……


 


 


火宮の目が細くなる。


 


 


「……また鳴ったか」


 

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