表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/30

電波 第5話

その携帯電話の音は、異常だった。


単なる着信音ではない。


耳の奥。

脳の内側。


何かを直接、掻き回されているような不快感。


 


ホームにいた人々は顔を歪め、

次々と携帯電話を耳から離していく。


 


ザザ……


 


低いノイズ。


 


まるで、どこか遠くから

“何か”が話しかけているようだった。


 


そして――


 


電車がホームへ滑り込む。


 


轟音。

ブレーキ音。

風。


 


同時に。


 


鳴り響いていた全ての着信音が、

ぴたりと止まった。


 


静寂。


 


誰もが顔を見合わせる。


 


「……何だったんだ?」


 


その時だった。


 


「きゃああああっ!!」


 


女子高生の悲鳴がホームに響き渡る。


 


人々の視線が、一斉にホームの端へ向いた。


 


痩せたサラリーマン風の男が立っている。


 


いや――


 


“立っていた”。


 


次の瞬間。


 


男の身体が、ゆっくりと前へ倒れた。


 


ゴトッ。


 


ホームに崩れ落ちる。


 


その場が凍りついた。


 


男の頭部が――なかった。


 


綺麗すぎる断面。


 


血はほとんど出ていない。


 


まるで最初から、そこだけ切り取られていたように。


 


「う、うわああっ!」

「誰か!!」

「警察呼べ!!」


 


騒然となるホーム。


 


実夏は携帯電話を握ったまま、

その場に立ち尽くしていた。


 


呼吸が浅い。


 


耳鳴り。


 


ザ……


 


まだ聞こえる。


 


ノイズが。


 


そして。


 


 


――失敗


 


 


実夏の背筋が凍る。


 


「……誰……」


 


 


その頃。


 


綾乃は都心のビル街を全力で走っていた。


 


「もう……最悪!」


 


腕時計を見る。


 


完全に遅刻寸前。


 


「初日から遅刻とかシャレにならないって……!」


 


人混みを縫うように走る。


 


すると前方から、一人の男が歩いてきた。


 


くたびれたコート。


 


無精髭。


 


片手にはコンビニ袋。


 


もう片方には、古びたミステリー雑誌。


 


九条仁だった。


 


九条は周囲を気にする様子もなく、

のんびりと歩いている。


 


ドンッ。


 


「きゃっ!?」


 


綾乃は勢いよく九条へぶつかり、

そのまま尻餅をついた。


 


「いたたた……」


 


資料が散らばる。


 


九条は面倒臭そうに綾乃を見る。


 


「……朝から元気だな」


 


「そっちが避けてくださいよ!」


 


「無理言うな」


 


九条はしゃがみ込み、

散らばった資料を拾い始める。


 


その時。


 


一枚の紙が、綾乃の足元へ滑った。


 


そこには奇妙な写真。


 


駅のホーム。


 


倒れている人間。


 


そして余白に、赤字で書かれていた。


 


《CASE-ECHO》


 


綾乃が顔を上げる。


 


「これ……何ですか?」


 


九条は一瞬だけ動きを止めた。


 


その目から、さっきまでの気怠さが消える。


 


「見なかったことにしろ」


 


低い声。


 


綾乃は思わず息を呑んだ。


 


その瞬間。


 


九条の携帯電話が鳴った。


 


画面を見る。


 


非通知。


 


九条は無言で通話を取る。


 


 


『新宿駅だ』


 


低い男の声。


 


『また“鳴った”』


 


 


九条の表情が変わる。


 


「……死者は?」


 


 


『一人』


 


 


短い沈黙。


 


 


『頭が消えてる』


 


 


通話が切れる。


 


 


綾乃

「え……?」


 


 


九条は携帯をしまう。


 


そして、面倒そうにため息をついた。


 


「神崎」


 


「は、はい?」


 


「お前、今日から俺の助手な」


 


「……は?」


 


「来い」


 


九条はそれだけ言うと歩き出す。


 


綾乃は慌てて立ち上がった。


 


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 


九条は振り返らない。


 


「急がないと、証拠が消える」


 


 


同時刻。


 


警察庁・特務調整室。


 


静まり返った部屋。


 


モニターには、新宿駅の映像。


 


規制線。

倒れた遺体。

騒然とする人々。


 


御影は無言でそれを見ていた。


 


部下が口を開く。


 


「現場への介入許可を」


 


御影はしばらく沈黙する。


 


そして。


 


「……まだだ」


 


 


「ですが、九条が動きます」


 


 


御影の視線がわずかに細くなる。


 


 


「構わん」


 


 


「どのみち――」


 


 


御影は静かに言った。


 


 


「“あれ”は、もう止まらない」


 


 


モニターの中で。


 


実夏の携帯電話が、再び微かに震えた。


 


画面には、こう表示されていた。


 


《CONNECTED》


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ