電波 第41話
「神崎!」
拓哉は屋上へ飛び出した。
夕暮れの風が吹き荒れる。
綾乃はビルの縁に立ったまま、ふらふらと身体を揺らしていた。
あと一歩踏み出せば取り返しのつかないことになる。
「何をやってるんだ!」
拓哉は叫んだ。
「早くこっちへ来い!」
綾乃はゆっくりと振り返る。
しかし、その瞳は虚ろだった。
焦点が合っていない。
まるで別人のようだった。
「いや……」
綾乃は小さく首を振った。
「私は自由になるの……」
「何?」
「もう苦しまなくていいの……」
拓哉は顔をしかめた。
明らかに様子がおかしい。
その時だった。
綾乃の手の中の携帯電話から、微かな雑音が漏れる。
ザザザザ……
『そのまま前へ進め』
『命令を継続』
『受信状態良好』
機械的な声。
拓哉の表情が変わった。
原因はあれだ。
克己の言葉が脳裏をよぎる。
"携帯電話が受信機になっている"
拓哉は周囲を見回した。
足元に転がっていた錆びた鉄パイプが目に入る。
「悪く思うなよ……」
そう呟くと鉄パイプを拾い上げた。
そして。
綾乃ではなく、その手に握られた携帯電話目掛けて投げつけた。
ガンッ!!
鉄パイプは見事に携帯電話へ命中した。
携帯電話が綾乃の手から弾き飛ばされる。
宙を舞う。
そして。
遥か下の地面へ落下した。
次の瞬間。
ザザザザザ――――!!
耳を裂くようなノイズが響いた。
『通信切断』
『通信切断』
『通信――』
ブツッ。
声は途切れた。
綾乃の身体が大きく揺れる。
「え……?」
瞳に少しずつ光が戻っていく。
「わ、私……?」
綾乃は周囲を見回した。
そして、自分がビルの縁に立っていることに気付く。
顔から血の気が引いた。
「な、なんで……?」
足が震える。
その場に崩れ落ちそうになる。
拓哉は急いで駆け寄り、その腕を掴んだ。
「もう大丈夫だ」
綾乃は震える声で言った。
「火宮さん……」
「覚えているか?」
綾乃は首を横に振った。
「途中から……何も……」
拓哉は静かに頷いた。
そして、携帯電話が落ちていった地面を見下ろす。
「やっぱりだ」
「今回の事件は、ただの怪奇現象じゃない」
綾乃も息を呑む。
「誰かが……意図的にやっている……?」
拓哉は答えなかった。
その代わり、遠くの夜空を見つめる。
どこかで誰かがこの事件を操っている。
そんな確信だけが、彼の胸の中で大きくなっていた――。




