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電波 第40話

『アイツはどこだ……?』


 拓哉は夕暮れの街を駆け回っていた。


 何度電話をかけても綾乃は出ない。


 胸騒ぎはますます強くなるばかりだった。


 その時だった。


 ビル街の隙間から、一つの人影が見えた。


 古びた廃ビルの屋上。


 フェンスの向こう側。


 今にも落ちそうな場所に、一人の女性が立っていた。


 風に髪を揺らしながら、身体をふらふらと揺らしている。


「神崎……!」


 拓哉の顔色が変わった。


「何やってるんだ、あのバカ!」


 拓哉は全力で廃ビルへ駆け込んだ。


 薄暗い階段を一気に駆け上がる。


 錆びた手すりが軋む。


 息が切れる。


 それでも止まらない。


 やがて屋上へ続く扉が見えた。


 勢いよく押し開ける。


 ガンッ!!


 重い音が響いた。


 屋上に飛び出した拓哉が見たのは――。


 ビルの縁に立つ綾乃だった。


 あと一歩踏み出せば終わり。


 そんな危うい位置だった。


「神崎!」


 拓哉は叫んだ。


「そんな所で何をしてる!」


「早くこっちへ来い!」


 綾乃の身体が僅かに反応する。


 ゆっくりと振り返った。


 その表情を見た拓哉は息を呑む。


 瞳に焦点が合っていない。


 まるで夢遊病者のようだった。


「火宮……さん?」


 綾乃は呆然と呟いた。


 だが次の瞬間。


 綾乃の携帯電話から雑音が漏れる。


 ザザザザザ――。


『邪魔者を確認』


『命令を継続』


『前進せよ』


 綾乃の身体が再び縁の方へ向く。


「神崎!」


 拓哉は一歩踏み出した。


『近付くな』


 綾乃の口から機械のような声が漏れた。


 拓哉は足を止める。


『近付けば受信者が損傷する』


「チッ……」


 拓哉は歯を食いしばった。


 克己の言葉が脳裏をよぎる。


 "携帯電話が受信機になっている"


 ならば――。


 原因はあの携帯電話だ。


「神崎!」


 拓哉は叫ぶ。


「それを捨てろ!」


 綾乃は反応しない。


『命令を継続』


『前進せよ』


 一歩。


 また一歩。


 靴の先が空中へ出る。


 あと数センチ。


 拓哉は決断した。


「悪く思うなよ!」


 次の瞬間。


 拓哉は全力で駆け出した。


 綾乃との距離を一気に詰める。


『警告』


『警告』


『受信妨害――』


 携帯電話から異音が鳴り響く。


 だが拓哉は止まらない。


 そして――。


 綾乃へ飛びついた。


 ドンッ!!


 二人の身体が屋上の床へ転がる。


 綾乃の手から携帯電話が離れた。


 ガシャーン!!


 携帯電話はコンクリートへ叩き付けられ、粉々に砕け散る。


 その瞬間だった。


 ザザザザザ――――!!


 耳を裂くようなノイズが響く。


 そして。


 静寂。


 綾乃の瞳に少しずつ光が戻っていく。


「……え?」


 綾乃は周囲を見回した。


 自分がなぜここにいるのか分からない。


「火宮さん……?」


 拓哉は大きく息を吐いた。


「やっと戻ったか」


 綾乃は砕け散った携帯電話と屋上の縁を見た。


 そしてようやく状況を理解する。


 顔から血の気が引いた。


「わ、私……」


 言葉が続かない。


 拓哉は立ち上がりながら言った。


「話は後だ」


 そして砕けた携帯電話を見下ろした。


「どうやら俺たちは、とんでもないものを相手にしてるらしい」


 その時――。


 誰もいないはずの屋上の隅で、微かに赤い光が点滅した。


 まるで二人を観察するかのように。


 そして、その映像はどこか別の場所へ送信されていた。

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