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電波 第35話

 拓哉は綾乃から実夏が行方不明になったことを聞いた瞬間、胸騒ぎを覚えた。


 ただの家出ではない。


 そんな確信にも似た不安があった。


「嫌な予感がするな……」


 小さく呟く。


「火宮さん……」


 不安そうな綾乃に向き直ると、拓哉はいつになく真剣な表情で言った。


「俺も探す」


「お前は妹さんが行きそうな場所を当たれ」


「友達の家でも、学校でもいい」


「何か分かったらすぐ連絡しろ」


 綾乃は力強く頷いた。


「はい!」


 二人はそれぞれ別方向へ走り出した。


 だが拓哉には、一つだけ気になることがあった。


 今回の事件について最も詳しい人間たち。


 克己たちの存在だった。


 もし本当に軍事技術が絡んでいるなら、彼らが何か知っている可能性が高い。


 拓哉は足早にビル街を抜ける。


 やがて、あの雑居ビルへ辿り着いた。


 しかし――。


「……何だ、これは」


 ビルの最上階。


 克己たちの部屋の扉は開いていた。


 中には誰もいない。


 並んでいたパソコンは消えている。


 壁に貼られていた資料も剥がされていた。


 机も椅子もない。


 まるで携帯電話会社の時と同じだった。


「撤収したのか……?」


 拓哉は眉をひそめる。


 昨日まで人がいた痕跡だけが残されている。


 その時だった。


 ブブブッ――


 携帯電話が震えた。


 画面を見る。


 表示された名前に拓哉の目が細くなる。


 克己。


 本人からだった。


 すぐに通話ボタンを押す。


「おい、克己!」


『余計なことは聞くな』


 開口一番だった。


 背後では激しい風の音が聞こえる。


 まるで移動中のようだった。


「お前、今どこにいる?」


『答えられない』


「何があった?」


 数秒の沈黙。


 そして克己は低い声で言った。


『俺たちは消される』


 拓哉の表情が変わる。


「誰にだ?」


『それも言えない』


「ふざけるな」


『ふざけている暇なんかない』


 克己の声は珍しく切迫していた。


『火宮』


『お前も追われている』


 拓哉は周囲を見回した。


 ビルの窓。


 向かいの屋上。


 道路。


 誰もいない。


 だが視線を感じる。


『あの携帯電話を追うな』


 克己は続けた。


『あれはただの兵器じゃない』


『もっと大きな計画の一部だ』


「その計画って何だ?」


『……』


 再び沈黙。


 そして。


『実験だ』


 克己は呟くように言った。


『人間そのものを通信媒体に変える実験だ』


 拓哉は息を呑む。


『受信者を作る』


『そして人間の脳へ直接情報を送り込む』


『電波で人間を操るんだ』


「そんな馬鹿な……」


『俺も最初はそう思った』


 克己は苦笑する。


 だがその笑いに余裕はなかった。


『神崎実夏が危ない』


 拓哉の心臓が跳ねた。


「何だと?」


『受信者候補に選ばれている可能性が高い』


『早く見つけろ』


『残された時間は少ない』


 その瞬間。


 電話の向こうで誰かの怒鳴り声が聞こえた。


 そして激しい雑音。


『しまった――』


 ブツッ。


 通話は突然切れた。


「克己!」


 呼び掛けても返事はない。


 拓哉は携帯電話を握り締めた。


 嫌な予感が現実になりつつあった。


 その時だった。


 ビルの窓ガラスに、一台の黒塗りのセダンが映った。


 道路脇に停車している。


 運転席には無表情な男。


 男はただ静かにビルを見上げていた。


 拓哉は思わず窓際へ駆け寄る。


 しかし、その車はゆっくりと走り去っていった。


「……観測者か」


 拓哉は小さく呟いた。


 そして携帯電話を取り出す。


 綾乃へ発信するためだった。


 もし克己の話が本当なら――。


 実夏は単なる行方不明者ではない。


 事件そのものの中心にいることになるのだから

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