電波 第34話
心配そうな母親の声を聞きながら、綾乃は必死に平静を装った。
「わ、分かったわ」
「私の方でも探してみるから……」
『綾乃……』
「お母さんは近くの警察署に行って」
「もし実夏から連絡があったら、すぐに私へ知らせて」
『ええ……』
「大丈夫だから」
そう言って通話を切った。
だが、本当は全く大丈夫ではなかった。
綾乃は携帯電話を握り締めたまま椅子に腰を下ろす。
胸騒ぎが止まらない。
実夏が事件に関わっていることは分かっている。
あの携帯電話。
消えた携帯電話会社。
正体不明の電波。
そして茉里の警告。
すべてが嫌な方向へ繋がっていた。
「実夏……」
小さく呟く。
だが、探そうにも手掛かりがない。
学校にもいない。
家にも帰っていない。
携帯電話も繋がらない。
完全に行方が途絶えていた。
その時だった。
ガチャ――
部屋のドアが開いた。
拓哉だった。
片手に缶コーヒーを持っている。
「どうした?」
拓哉は綾乃の様子を見て足を止めた。
「顔色が悪いぞ」
綾乃は迷った。
だが隠しても仕方がない。
「実は……」
そして母親からの電話の内容を話した。
実夏が帰宅していないこと。
携帯電話も繋がらないこと。
家族が心配していること。
話し終えた頃には綾乃の声も少し震えていた。
拓哉は黙って聞いていた。
そして缶コーヒーを机の上に置く。
「いつからだ?」
「学校を出てからみたいです」
「友達は?」
「まだ確認してません」
拓哉は腕を組んだ。
その表情からはいつもの気怠さが消えている。
「火宮さん……」
綾乃が不安そうに見上げる。
拓哉は静かに言った。
「偶然じゃないな」
綾乃の心臓が跳ねた。
「え?」
「携帯電話会社が消えた直後だ」
「タイミングが良すぎる」
部屋の空気が重くなる。
綾乃も同じことを考えていた。
だが、認めたくなかった。
「じゃあ……」
「実夏は……」
拓哉は答えなかった。
代わりに机の上の事件資料を開く。
被害者の行動記録。
駅の位置。
電波が確認された地点。
そして実夏の証言。
拓哉の視線が一枚の地図で止まった。
「神崎」
「はい」
「実夏が最後に確認された場所は?」
「学校の最寄り駅です」
「その後は?」
「分かりません……」
拓哉は地図を睨み続けた。
そして何かに気付いたように目を細める。
「そういうことか」
「何がです?」
綾乃が身を乗り出す。
拓哉は地図の一点を指差した。
そこは都内から少し外れた場所だった。
廃線になった貨物線跡地。
今はほとんど人も立ち入らない区域である。
「最初の被害者が出た場所」
「二人目の被害者が目撃された場所」
「そして携帯電話会社の配送ルート」
拓哉は指で線を結んだ。
全てがある一点へ収束していた。
「ここだ」
綾乃は地図を見る。
そこには小さくこう書かれていた。
――旧・城南通信実験所跡地。
その瞬間。
拓哉の携帯電話が鳴った。
画面には茉里の名前。
嫌な予感しかしなかった。
「俺だ」
電話に出る。
すると受話器の向こうから茉里の切迫した声が聞こえた。
『拓哉!』
『例の携帯電話がまた反応した!』
「何が出た?」
『位置情報よ!』
拓哉の表情が変わる。
『発信源が特定できた!』
『今すぐ送る!』
数秒後。
拓哉の携帯に地図データが届く。
表示された場所を見た瞬間――
綾乃も息を呑んだ。
そこは先ほど拓哉が指差した場所と完全に一致していた。
――旧・城南通信実験所跡地。
そして、その発信者名の欄には、
《神崎実夏》
と表示されていた。




