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電波 第33話

 綾乃が警視庁のMファイル室で今回の事件の経緯を整理していた時だった。


 机の上には被害者の資料。


 駅の監視カメラ映像。


 そして例の携帯電話会社の調査報告書が広げられている。


 事件は確実に大きくなっていた。


 だが、決定的な証拠はまだ掴めていない。


 その時――。


 プルルルルル……


 静かな部屋に携帯電話の着信音が響いた。


 綾乃は手を止める。


 画面を見ると実家からだった。


「お母さん?」


 綾乃は通話ボタンを押した。


「もしもし」


『もしもし、綾乃?』


 聞き慣れた母親の声だった。


 だが、どこか様子がおかしい。


『実夏は一緒じゃないの?』


「え?」


 綾乃は思わず聞き返した。


『まだ帰って来ないのよ』


 綾乃の胸がざわつく。


「友達の所じゃない?」


『そう思って電話したんだけど……』


 母親の声が不安そうになる。


『携帯が繋がらないの』


 綾乃の表情が固まった。


『学校にも連絡したけど、もう帰ったって』


「……」


『綾乃?』


「いや……」


 綾乃は無理に平静を装う。


「私も今日は会ってないから」


『何か聞いてない?』


「聞いてないよ」


『そう……』


 母親は少し安心したようだった。


 だが綾乃は逆だった。


 嫌な予感がしていた。


『帰ってきたら連絡するように言っておいてね』


「うん」


 電話が切れる。


 部屋に静寂が戻った。


 綾乃はしばらく携帯電話を見つめていた。


 その様子に、ソファで資料を読んでいた拓哉が顔を上げる。


「どうした?」


「実夏が帰ってないみたいです」


 拓哉の表情が僅かに変わる。


「携帯は?」


「繋がらないそうです」


 拓哉は無言になる。


 綾乃は慌てて実夏の番号へ発信した。


 呼び出し音すら鳴らない。


 機械音声だけが流れる。


『お掛けになった電話は現在――』


 そこで音声が途切れた。


 ブツッ。


 妙なノイズが混じる。


 ザザザザッ――


 綾乃は眉をひそめる。


「……何?」


 次の瞬間だった。


 携帯電話のスピーカーから微かな声が聞こえた。


『……聞こえる……』


 綾乃の身体が凍り付く。


「え?」


『……聞こえる……』


 低く掠れた男の声。


 それは明らかに実夏の声ではなかった。


『受信者を確認……』


 ブツッ――


 通話が切れた。


 綾乃の顔から血の気が引く。


「今の……何?」


 拓哉は立ち上がった。


 先ほどまでの気だるそうな表情は消えている。


「実夏が危ない」


「え?」


「探すぞ」


 綾乃は思わず立ち上がった。


「でも、どこを?」


 拓哉は机の上の資料を掴む。


 その中には実夏が目撃した駅の写真があった。


「事件はまだ終わっていない」


 そう言った拓哉の目は鋭かった。


「むしろ今から始まる」


 その頃――。


 夕暮れの東京郊外。


 人気のない踏切の前に、一人の少女が立っていた。


 神崎実夏だった。


 虚ろな表情。


 手には例の携帯電話。


 そして携帯電話の画面には、一行の文字が表示されていた。


 《次の受信地点へ移動してください》


 実夏は操られるように、ゆっくりと歩き出した。

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