表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/43

電波 第32話

 茉里の解析によって、実夏が所持していた携帯電話の正体が少しずつ明らかになった。


 それは単なる通信機器ではなかった。


 何らかの軍事技術を転用し、巧妙に偽装された特殊端末。


 しかも、その端末は現在も正体不明の信号を発信し続けているという。


 解析結果を聞いた翌日。


 拓哉と綾乃は、実夏が契約した携帯電話会社へ向かった。


 だが――。


「……何これ?」


 綾乃は思わず立ち尽くした。


 そこにあったはずの携帯電話会社は消えていた。


 看板は外されている。


 窓ガラスの内側には何もない。


 机も椅子もパソコンも。


 全てが綺麗に運び出されていた。


 まるで最初から存在しなかったかのように。


 拓哉は無言で店内へ入る。


 床には僅かな埃しか残っていない。


「昨日まで営業していたんですよね?」


 綾乃が言う。


「ああ」


 拓哉は短く答えた。


 そして壁際を調べ始める。


 綾乃も後に続く。


 しかし何も見つからない。


 契約書も。


 顧客名簿も。


 パンフレットすら残っていなかった。


 異様なほど完璧だった。


「夜逃げ……?」


 綾乃が呟く。


 拓哉は首を横に振った。


「違う」


「これは撤収だ」


 その言葉に綾乃は寒気を覚えた。


「撤収?」


「最初から逃げる準備が出来ていたってことだ」


 拓哉は床にしゃがみ込む。


 床には重い機械を運び出したような細い傷が残っていた。


「俺たちが嗅ぎ回っていることに気付いたんだろうな」


 悔しそうに舌打ちする。


 綾乃は初めて見る拓哉の表情だった。


 いつも何を考えているか分からない男。


 その拓哉が明らかに焦っていた。


「じゃあ……これで終わり?」


 綾乃は訊いた。


 事件の中心だった会社は消えた。


 関係者も逃げた。


 普通なら捜査は行き詰まる。


 だが拓哉はゆっくり立ち上がった。


「いや」


 低い声だった。


「むしろ始まりだ」


「え?」


 拓哉は空になった店内を見回す。


「こんな真似が出来るのは、ただの犯罪組織じゃない」


「警察より先に動き、痕跡を消し、関係者を消す」


「しかも数時間でだ」


 綾乃は黙り込んだ。


 確かに異常だった。


 まるで誰かが捜査の動きを監視していたかのように。


 その時だった。


 拓哉の視線が窓の外へ向く。


 道路の反対側。


 黒塗りのセダンが停まっていた。


 運転席にはサングラスを掛けた男。


 男は拓哉と目が合うと、静かに車を発進させた。


「どうしました?」


 綾乃が訊く。


 だが拓哉は答えない。


 遠ざかる車を見つめたまま呟く。


「……やっぱりいるな」


「何がです?」


「観測者だ」


 綾乃は聞き返そうとした。


 だが、その時――。


 拓哉の携帯電話が鳴った。


 着信相手は茉里だった。


 嫌な予感がした。


 拓哉はすぐに通話ボタンを押す。


「どうした?」


 電話の向こうの茉里の声は震えていた。


『拓哉……大変よ』


「何があった?」


 数秒の沈黙。


 そして茉里は言った。


『例の携帯電話が勝手に起動した』


 拓哉の表情が変わる。


『しかも今度は文字だけじゃない』


『誰かの声が聞こえたの』


「何て言った?」


 拓哉が訊く。


 茉里は息を呑むように答えた。


『――次は神崎実夏だって』


 綾乃の顔から血の気が引いた。


 事件は終わっていなかった。


 むしろ今、実夏自身が標的になろうとしていたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ