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電波 第3話

その携帯電話の音は、異様だった。


単なる着信音ではない。

一定の周期で繰り返される電子音が、

耳ではなく、頭の奥に直接響いてくる。


ホームにいたほとんどの人間が、

同じ音を聞いていた。


 


ザ……ザザ……


 


そして――


電車がホームに滑り込み、停止した瞬間、

その音はぴたりと止んだ。


 


まるで、スイッチを切られたように。


 


静寂。


 


「……何だったんだ、今の」


 


誰かの声。


 


次の瞬間だった。


 


「きゃあああああっ!!」


 


鋭い悲鳴が響いた。


 


ホームの端。


一人の男性が、その場に崩れ落ちていた。


 


サラリーマン風の男。


 


動かない。


 


周囲がざわめく。


 


「大丈夫か!?」

「誰か呼べ!」


 


数人が駆け寄る。


 


実夏も思わず一歩近づいた。


 


男は仰向けに倒れている。


目は開いたまま。


 


呼吸が――ない。


 


「……嘘でしょ」


 


誰かが呟く。


 


 


やがて警察と救急が到着した。


 


現場は封鎖される。


 


だが、その場にいた誰もが同じことを言っていた。


 


「急に倒れた」

「その前に、変な着信があって……」

「全員の携帯が鳴ってた」


 


 


検視の結果は、奇妙だった。


 


外傷なし。


 


だが、

首の周辺にわずかな内出血。


 


そして――


 


鼓膜に微細な損傷。


 


 


「音圧……?」


 


現場にいた警察官が首をかしげる。


 


だが、そのレベルの音は、

誰も聞いていないはずだった。


 


 


少し離れた場所で、実夏は立ち尽くしていた。


 


手の中の携帯。


 


電源は切れている。


 


だが――


 


さっきまで、確かに“何か”が聞こえていた。


 


 


ザザ……


 


 


「……気のせい……だよね」


 


そう呟いた瞬間。


 


携帯が、わずかに震えた。


 


画面が点灯する。


 


《接続中》


 


「……っ」


 


息が詰まる。


 


 


ザ……


 


 


――聞こえるか


 


 


実夏の体が、わずかに硬直する。


 


 


「……うん」


 


 


無意識に、答えていた。


 


 


その様子を、少し離れた場所から見ている男がいた。


 


スーツ姿。


落ち着いた視線。


 


火宮拓哉。


 


彼は携帯を耳に当てていない。


 


だが、何かを“観察”しているようだった。


 


 


「……やっぱりな」


 


小さく呟く。


 


 


 


同時刻。


 


警視庁・地下三階。


 


九条は通信ログを解析していた。


 


「同一波形……またこれか」


 


画面には、異常なデータ。


 


同時刻、多数端末接続。


 


だが、発信源は存在しない。


 


 


「記録も途中で消えてる」


 


 


背後から声。


 


「例の“電波”か?」


 


 


九条は振り返らずに答える。


 


「たぶんな」


 


 


「事故で片付けられるぞ」


 


 


九条はわずかに笑った。


 


「だろうな」


 


 


「でもな――」


 


 


画面を指差す。


 


 


「これ、“自然現象”じゃない」


 


 


 


同時刻。


 


暗い部屋。


 


複数のモニター。


 


新宿駅。

倒れた男。

人々の動き。


 


煙草の火が、赤く灯る。


 


 


「個体反応、確認」


 


低い声。


 


 


「……まだ弱い」


 


 


煙がゆっくりと漂う。


 


 


「だが、十分だ」


 


 


画面の一つに、実夏の姿。


 


 


「次の段階に進める」


 

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