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電波 第2話

「もう……それが姉に対する態度!?覚えてなさい!」


綾乃はそう言い捨てると、慌ただしく玄関を飛び出した。


「はいはい。遅刻しないようにね」


実夏は呆れたように笑い、通話を切る。


そのまま携帯の電源を落とした。


画面が暗くなる。


 


朝の新宿駅。


ホームにはいつも通りの人の流れ。

通勤客、学生、誰もが同じ方向を向いている。


 


電車が入ってくるアナウンス。


風が吹き抜ける。


 


その瞬間――


 


実夏のポケットの中で、音が鳴った。


 


ピッ。


 


「……え?」


 


取り出す。


 


電源を切ったはずの携帯電話。


 


画面は点いている。


 


《着信中》


 


発信元は表示されていない。


 


「何これ……」


 


 


次の瞬間だった。


 


周囲からも、同じ音が鳴り始める。


 


ピッ。

ピッ。

ピッ。


 


一人、また一人と携帯を取り出す。


 


ざわめきが広がる。


 


「なんだこれ?」

「番号が出ない……」

「壊れてる?」


 


だが、それはすぐに“異常”へと変わった。


 


ホームにいるほとんどの人間の携帯が、

同時に鳴っている。


 


同じタイミング。

同じリズム。


 


不自然すぎる一致。


 


 


最初に、一人の男性が通話を取った。


 


「もしもし?」


 


返事はない。


 


ザザ……


 


ノイズだけが流れる。


 


男は顔をしかめる。


 


「……なんだこれ」


 


 


その様子を見て、別の誰かも通話を取る。


 


また一人。


また一人。


 


 


ザザ……


 


 


実夏は動けなかった。


 


携帯を握ったまま、周囲を見渡す。


 


“何かがおかしい”。


 


だが、それが何なのかはわからない。


 


 


その時、電車がホームに滑り込んできた。


 


強い風。


ブレーキ音。


 


そして――


 


鳴り響いていた着信が、

一斉に止まった。


 


 


静寂。


 


 


「……何だったんだ、今の」


 


誰かが呟く。


 


その直後。


 


一人の女性がふらりとよろめいた。


 


「あ……」


 


そのまま、崩れるように倒れる。


 


周囲がざわめく。


 


「大丈夫ですか!?」


 


誰かが駆け寄る。


 


女性は意識を失っている。


 


だが、外傷はない。


 


ただ――


 


耳元に、小さな出血。


 


 


「……え?」


 


実夏は思わず息を呑んだ。


 


それは事故とも、病気とも言い切れない。


 


だが、“普通ではない”。


 


 


その瞬間。


 


実夏の携帯が、わずかに震えた。


 


電源は切っているはずなのに。


 


画面が、勝手に点灯する。


 


表示。


 


《接続中》


 


「……やめて」


 


指が動きかける。


 


出てはいけない。


 


そう思うのに、

なぜか耳元で“音”がする。


 


 


ザ……


 


 


――聞こえるか


 


 


「……っ」


 


実夏は強く目を閉じ、携帯を握りしめた。


 


その時。


 


「出るな」


 


低い声がした。


 


振り返ると、一人の男が立っていた。


 


スーツ姿。

落ち着いた表情。


 


見覚えはない。


 


「それは普通の通話じゃない」


 


「……え?」


 


男はホームの様子を一瞥する。


 


倒れた女性。

混乱する人々。


 


そして、実夏の携帯。


 


「似た事例を見たことがある」


 


「似た……?」


 


「原因は不明だがな」


 


男はそれだけ言うと、

それ以上説明しなかった。


 


 


その頃。


 


警視庁・地下三階。


 


九条は端末の画面を見つめていた。


 


「……来たか」


 


通信ログ。


 


同一時刻。

同一波形。

複数端末同時接続。


 


「新宿駅か」


 


背後から声。


 


「また例のやつか?」


 


九条は振り返らずに答える。


 


「たぶんな」


 


「電波障害じゃ説明つかない」


 


 


九条は小さく笑った。


 


「説明つくなら、ここには来てない」


 


 


 


同時刻。


 


どこかの暗い部屋。


 


複数のモニター。


 


新宿駅の映像。


 


人々の動き。

倒れる女性。


 


煙草の火が灯る。


 


「同期、確認」


 


低い声。


 


「……まだ弱い」


 


 


煙がゆっくりと広がる。


 

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