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電波 第29話

「別に構わないわよ」


 茉里は携帯電話を受け取りながら言った。


「ただし、少し時間が掛かるかもね」


「内部構造から調べるなら今日中には無理かもしれない」


 拓哉は頷く。


「急がなくていい」


「分かったことだけ教えてくれ」


「相変わらず無茶振りね」


 茉里は苦笑しながら端末を検査台へ置いた。


 そしてふと、拓哉の後ろに立つ綾乃へ視線を向ける。


「そういえば――」


 意味ありげな笑みが浮かんだ。


「その子は?」


 綾乃はきょとんとする。


 茉里はニヤリと笑った。


「拓哉の新しい彼女?」


 一瞬、研究室が静まり返る。


「ち、違います!」


 拓哉が反応するより早く、綾乃が真っ赤になって叫んだ。


「わ、私たちそんな関係じゃありません!」


「ただの仕事仲間です!」


「へぇ~」


 茉里は面白そうに頬杖をつく。


「でも必死ね?」


「必死じゃありません!」


「そう?」


「そうです!」


 綾乃は顔を真っ赤にしたまま否定する。


 その様子に茉里は声を上げて笑った。


「ふふっ……可愛い」


「からかい甲斐があるわね」


 綾乃はさらに頬を膨らませる。


 一方、拓哉は興味なさそうに研究室の資料棚を眺めていた。


「おい」


「何?」


 茉里が振り向く。


「無駄話は終わったか?」


「冷たいなぁ」


 茉里は肩をすくめた。


「昔はもう少し愛想があったのに」


「気のせいだ」


「そういうことにしておくわ」


 綾乃は二人のやり取りを見ながら首を傾げる。


『この二人、どういう関係なんだろう……』


 そんなことを考えていた時だった。


 ピッ――


 小さな電子音が響く。


 茉里の表情が変わった。


 先ほどまでの笑顔が消える。


 彼女は検査台のモニターへ顔を近づけた。


「……おかしい」


 拓哉が反応する。


「何だ?」


 茉里は画面を見つめたまま答えた。


「この携帯電話」


「電源を切っているはずなのに通信を続けている」


 綾乃が目を丸くする。


「そんなこと出来るんですか?」


「普通は出来ない」


 茉里は即答した。


「少なくとも市販の携帯電話ではね」


 研究室の空気が一変する。


 拓哉は静かにモニターへ近付いた。


 そこには無数の数字と波形が表示されていた。


 茉里は信じられないものを見るような目をしている。


「この信号……」


「何か分かったのか?」


 拓哉が訊く。


 茉里はゆっくりと首を振った。


「分からない」


「でも――」


 彼女はモニターを指差した。


「これ、日本国内の通信規格じゃない」


 その言葉に綾乃は息を呑んだ。


 茉里はさらに続ける。


「それどころか……」


「私が知っているどの通信方式とも一致しない」


 研究室に沈黙が落ちる。


 そして次の瞬間。


 検査台の上の携帯電話が突然震え始めた。


 ブブブブブッ――


 誰も触っていない。


 着信音も鳴らない。


 だが画面だけが青白く点灯する。


 そこには一行だけ文字が浮かび上がっていた。


 《LISTEN》


 ――聞け。


 拓哉、綾乃、茉里。


 三人は無言でその文字を見つめていた。

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