電波 第28話
科学警察研究所――。
夜になっても施設内には明かりが灯っていた。
全国から集まる証拠品。
最新の分析機器。
そして数多くの研究者たち。
その中を慣れた足取りで歩く拓哉を見て、綾乃は少し驚いていた。
「よく来るんですか?」
「たまにな」
そう答える拓哉は迷うことなく研究棟の奥へ進んでいく。
やがて一つの研究室の前で立ち止まった。
コンコン――
軽くノックをする。
「入るぞ」
扉が開く。
室内には大量のモニターと分析機器が並んでいた。
そして中央のデスクで作業していた一人の女性が顔を上げる。
長い黒髪。
白衣姿。
知的な雰囲気を纏った女性だった。
「あれ?」
女性は目を丸くする。
「珍しい人が来た」
そしてすぐに笑顔になった。
「久しぶりじゃない、拓哉」
親しげな口調だった。
綾乃は思わず拓哉を見る。
しかし拓哉は露骨に視線を逸らした。
「ああ……」
その反応に女性は頬を膨らませる。
「なによ、その態度」
「せっかく再会したのに」
「別に再会を喜ぶ仲じゃないだろ」
「私は嬉しいけど?」
綾乃は二人を交互に見た。
『……なんだろう』
『ちょっと気になる』
女性は綾乃に気付き、微笑む。
「そっちの子は?」
「神崎綾乃」
拓哉が簡潔に答える。
「今度の相棒だ」
「へぇ」
女性は興味深そうに綾乃を見る。
「初めまして。私は相沢茉里」
「科警研で電子工学と通信解析を担当してる」
綾乃は慌てて頭を下げた。
「神崎綾乃です」
「よろしくお願いします」
茉里は意味深な笑みを浮かべる。
「こちらこそ」
「火宮拓哉の相棒なんて大変でしょう?」
「え?」
「だらしないし、協調性ないし、人の話聞かないし」
「おい」
拓哉が不満そうに口を挟む。
綾乃は思わず吹き出した。
「それは今日一日で何となく分かりました」
「でしょ?」
茉里が笑う。
久しぶりに研究室に柔らかい空気が流れた。
だが拓哉はすぐに本題へ戻った。
ポケットから実夏の携帯電話を取り出し、机の上へ置く。
「悪いが調べてほしい」
茉里の表情が研究者の顔になる。
「事件絡み?」
「ああ」
「駅で起きた変死事件だ」
「被害者が死亡する直前、周囲の携帯電話が一斉に鳴った」
「この端末もその一つだ」
茉里は携帯電話を手に取った。
数秒後。
彼女の眉が僅かに動く。
「……変ね」
拓哉の視線が鋭くなる。
「何がだ?」
茉里は端末を裏返した。
そして小さく呟く。
「この機種、見たことがない」
綾乃が首を傾げる。
「新製品じゃないんですか?」
「違う」
茉里は即答した。
「少なくとも日本国内で正式に登録されている端末じゃない」
研究室の空気が変わる。
拓哉は腕を組んだ。
「やっぱりか」
茉里はさらに端末を観察する。
そして静かに言った。
「これ……どこで手に入れたの?」
その声には、先程までの軽さはなかった。
何かに気付いた研究者の顔だった。
そしてその瞬間――
誰も触れていないはずの携帯電話の画面が突然点灯する。
《SIGNAL RECEIVED》
白い文字が浮かび上がった。
研究室の全員が息を呑む。
茉里だけが険しい顔で画面を見つめていた。
「まさか……」
彼女は信じられないものを見るように呟く。
「そんなはずない……」




