電波 第27話
結局のところ――。
克己たちは決定的な答えを持ってはいなかった。
あるいは持っていても話さなかったのかもしれない。
「兵器かもしれない」
「実験かもしれない」
「誰かが技術を盗んだのかもしれない」
どれも仮説に過ぎなかった。
拓哉と綾乃は情報屋たちの事務所を後にした。
外はすっかり夕暮れだった。
高層ビルの窓ガラスが赤く染まっている。
しばらく無言で歩いていた綾乃が口を開いた。
「あの人たち……」
拓哉は前を向いたまま歩いている。
「ん?」
「あの人たち、本当に信用できるんですか?」
拓哉は少し考えた。
そして肩をすくめる。
「さあな」
綾乃は思わず立ち止まった。
「さあなって……」
「協力者なんですよね?」
「そうだ」
「だったら信用してるんじゃ……」
拓哉は苦笑した。
「信用と利用は別だ」
綾乃は言葉を失う。
拓哉は歩きながら続けた。
「連中は連中なりの目的で動いている」
「俺も俺の目的で動いている」
「だから都合が合う時だけ協力する」
夕陽が拓哉の横顔を照らす。
普段のだらしない雰囲気はどこにもなかった。
綾乃は初めて思う。
『この人……本当に何者なんだろう』
その時だった。
拓哉がポケットへ手を入れる。
実夏から預かった携帯電話だった。
無意識に取り出したその端末を見て、拓哉の表情が変わる。
「……なるほどな」
「え?」
綾乃が覗き込む。
画面は真っ暗だった。
だが拓哉は何かに気付いたらしい。
端末を裏返し、再びポケットへしまう。
「どうしたんです?」
「少し気になることがある」
拓哉は腕時計を見る。
午後六時を回っていた。
「科警研へ行く」
「科警研?」
綾乃が聞き返す。
「科学警察研究所だ」
「この端末を分解してもらう」
「もしかしたら普通の携帯電話じゃないかもしれない」
綾乃は目を丸くした。
「そんなことあるんですか?」
「分からん」
拓哉はあっさり答える。
「だから調べる」
それが彼のやり方だった。
決めつけない。
信じ込みもしない。
証拠を探す。
綾乃は小さくため息をつく。
今日だけで何度目か分からない。
「……私も行きます」
「好きにしろ」
「相変わらず素っ気ないですね」
「そうか?」
「そうです」
二人は並んで歩き出した。
やがて夕暮れの街の向こうに、巨大な研究施設の建物が見えてくる。
科学警察研究所。
そこには全国から集められた最先端の鑑識技術と研究設備がある。
だが二人はまだ知らない。
その研究所の中にも、この事件を知る人物がいることを。
そして同じ頃――。
都内某所。
薄暗い部屋。
一人の男がモニターを見つめていた。
鋭い眼差し。
整った顔立ち。
感情の見えない表情。
机の上には一枚の写真が置かれている。
そこに写っているのは――
火宮拓哉と神崎綾乃だった。
男は静かに写真へ視線を落とす。
そして小さく呟く。
「……動き始めたか」
部屋の時計が午後六時十三分を指していた。
男――御影は、無表情のままモニターを見つめ続けていた。




