電波 第25話
「兵器?」
拓哉は眉をひそめた。
さすがにその言葉は突飛に聞こえた。
克己は肩をすくめる。
「あくまで可能性の話だ」
そう言いながら、資料を机へ置いた。
「表向きは医療技術や通信技術の研究として開発されることもある」
「だが技術そのものは軍事利用できる」
「昔からそういう話はある」
室内の男たちも頷いていた。
「脳へ直接信号を送る研究」
「感覚操作技術」
「心理誘導システム」
「全部、理論上は存在する」
綾乃が聞けば笑い飛ばしそうな内容ばかりだった。
しかし拓哉は真面目な顔で聞いている。
その時だった。
克己が突然話を止めた。
「ん?」
彼は入口の方へ顔を向ける。
何かに気付いたようだった。
「どうした?」
拓哉が訊く。
克己は無言のまま入口へ歩き出した。
数歩進む。
そしてドアノブを回した。
ガチャ――
ドアが開く。
「きゃっ!」
小さな悲鳴。
そこにいたのは綾乃だった。
盗み聞きをしていたところを見事に発見されたのである。
綾乃は顔を引きつらせた。
「え、えっと・・・」
室内が静まり返る。
数人の男たちの視線が一斉に集まる。
克己は腕を組んだ。
そして振り返る。
「これはどういう事だい?」
その声は穏やかだったが、どこか面白がっている。
「我々のことは君だけの秘密だったはずだが?」
拓哉は深いため息を吐いた。
そしてドアの前で固まっている綾乃を見る。
「お前・・・」
綾乃は視線を逸らした。
「・・・はい」
「付いて来たのか?」
綾乃は慌てて反論する。
「ち、違います!」
「たまたま同じビルに!」
「たまたま最上階まで来て!」
「たまたまドアの前に!」
室内から笑い声が上がった。
「それを尾行って言うんだよ」
誰かが呟く。
綾乃の顔が真っ赤になる。
拓哉は額を押さえた。
「お前なぁ・・・」
「だって怪しかったんです!」
綾乃は開き直った。
「急に一人でどこか行くし!」
「何も説明しないし!」
「私、一応相棒ですよね!?」
その言葉に室内が少し静かになる。
拓哉も一瞬だけ言葉を失った。
相棒。
まだ一日目だ。
だが綾乃は本気でそう思っているらしい。
克己はそんな二人を見比べると、小さく笑った。
「なるほど」
「君が噂の新人か」
綾乃は首を傾げた。
「噂?」
「火宮拓哉に押し付けられた不運な新人捜査官」
室内が再び笑いに包まれる。
「ちょっと!」
綾乃が抗議する。
克己は笑いながら手を差し出した。
「克己だ」
「一応、火宮の協力者をやっている」
「よろしく、神崎綾乃刑事」
綾乃は戸惑いながらも握手を交わした。
その様子を見ながら拓哉は再びため息を吐く。
もう追い返すのは無理だ。
そう悟ったのだった。
そしてその瞬間。
机の上に置かれていた実夏の携帯電話の画面が、誰も触れていないのに再び点灯した。
《OBSERVATION ACTIVE》
その文字を見た瞬間。
室内の笑い声が消えた。
事件は、まだ終わっていなかった。




