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電波 第23話

 拓哉は綾乃と別れた後、足早に繁華街を抜けていた。


 夕暮れのビル街。


 ネオンが灯り始める中、人混みを縫うように歩いていく。


 やがて辿り着いたのは、ビル街の外れに建つ古びた雑居ビルだった。


 外壁は色褪せ、看板らしい看板もない。


 知らなければ誰も気に留めないような建物だ。


 拓哉は迷うことなく中へ入る。


 その様子を少し離れた場所から見ていた綾乃は眉をひそめた。


『こんな場所に何の用があるの?』


 疑問を抱きながらも、彼女はそっと後を追う。


 エレベーターの表示を見る。


 数字は最上階で止まっていた。


 綾乃も別のエレベーターで上階へ向かった。


 その頃。


 拓哉は最上階の一室へ足を踏み入れていた。


 部屋の中は薄暗い。


 壁一面に並ぶモニター。


 複数のパソコン。


 無線機。


 通信機材。


 大型サーバー。


 そして数人の男たちが、それぞれの端末に向かって忙しそうに作業をしていた。


 まるで小さな情報分析センターだった。


「おっ?」


 一人の男が顔を上げる。


 短髪で三十代半ば。


 ラフなシャツ姿のその男は、拓哉を見るなり立ち上がった。


「これは珍しい人が来たな」


 男は笑いながら近付いてくる。


「火宮拓哉が自分から来るなんて、また厄介な事件か?」


 拓哉は無表情のまま答えた。


「克己」


「雑談しに来たわけじゃない」


 男――克己は肩をすくめた。


「相変わらず愛想がないね」


 周囲の男たちから笑いが漏れる。


 どうやら拓哉とは古い付き合いらしい。


 拓哉は上着のポケットから実夏の携帯電話を取り出し、机の上へ置いた。


「調べてほしい」


 克己の表情が少し真面目になる。


「通信履歴か?」


「それだけじゃない」


 拓哉は続けた。


「ミラージュ・ネットワーク」


 その名前が出た瞬間だった。


 部屋の空気が変わる。


 キーボードを叩いていた男たちの手が止まる。


 誰かが顔を見合わせた。


 克己も笑みを消している。


「……その名前をどこで聞いた?」


 拓哉は答えない。


 代わりに逆に問い返す。


「知ってるんだな?」


 克己は数秒黙り込んだ。


 そして小さく息を吐く。


「知ってるも何も……」


「その会社、三年前に潰れたはずだ」


 拓哉の目が細くなる。


「やっぱりな」


「だが妙なんだ」


 克己はモニターを操作しながら続ける。


「潰れたはずなのに、今も通信記録だけは残っている」


「まるで幽霊会社だ」


 その言葉に拓哉は無言になる。


 一方その頃。


 綾乃は最上階へ到着していた。


 静かに廊下を進む。


 そして部屋の扉の前まで辿り着く。


 中から聞こえてくる会話。


『ミラージュ・ネットワーク』


 その単語を聞いた瞬間、綾乃の足が止まった。


 そして彼女は知らない。


 この扉の向こうにいる者たちが、拓哉の極秘情報網であり、


 警察よりも先に怪事件の真相へ辿り着く者たちだということを。

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