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電波 第21話

 拓哉と綾乃は、とりあえず実夏から問題の携帯電話を預かると

 

 彼女が契約したという通信会社へ向かった。


 都心のオフィス街。


 高層ビルの谷間に、その会社はあった。


 ガラス張りの綺麗なオフィス。


 受付には最新機種のスマートフォンが並び、若い社員たちが忙しそうに行き交っている。


 怪しい雰囲気はまるでない。


 むしろ急成長中のIT企業といった印象だった。


「ここが・・・」


 綾乃はビルを見上げる。


 拓哉は何も言わず、自動ドアをくぐった。


 受付で身分を明かすと、ほどなくして営業係長を名乗る男が現れた。


 三十代後半。


 人当たりの良さそうな笑顔を浮かべている。


「警察の方ですか」


 男は名刺を差し出した。


「営業係長の相沢です」


「本日はどのようなご用件で?」


 拓哉は実夏から預かった携帯電話を机の上に置いた。


 相沢は携帯電話を見る。


「うちの製品ですが・・・何か問題でも?」


「少し聞きたいことがある」


 拓哉は穏やかな口調で言った。


「昨夜、都内の駅で死亡事故が発生した」


 相沢の笑顔は崩れない。


「ニュースで見ました」


「痛ましい事件ですね」


 拓哉は相手の目を見たまま続けた。


「事故の直前、ホームにいた人間の携帯電話が一斉に鳴ったそうだ」


「しかも最初に鳴ったのは、貴社の端末だったという証言がある」


 一瞬だけだった。


 相沢の瞳が揺れた。


 ほんの一瞬。


 本当に一瞬だけ。


 だが拓哉は見逃さなかった。


「それは興味深いですね」


 相沢はすぐに笑顔へ戻る。


「ですが、弊社にそのような報告は入っておりません」


「システム障害の記録もありません」


「そうか」


 拓哉は淡々と答える。


「ちなみに」


 相沢は逆に質問してきた。


「その事故と弊社に何か関係が?」


「まだ分からない」


 拓哉はそう言って立ち上がった。


「だから調べている」


 相沢は笑顔のまま頷いた。


 だがその額には、うっすらと汗が滲んでいた。


 会社を出た後。


 綾乃が訊く。


「何か分かったんですか?」


 拓哉はエレベーターの扉が閉まるのを待ってから答えた。


「嘘をついていた」


「え?」


「少なくとも、あの男は何かを知っている」


 綾乃は驚く。


「どうして分かるんです?」


 拓哉は少し考えてから言った。


「事故の話をした時じゃない」


「携帯電話が一斉に鳴った話をした時だ」


「一瞬だけ顔色が変わった」


 綾乃は思わず振り返る。


 エレベーターの扉は既に閉まっている。


「でも、それだけじゃ・・・」


 拓哉は預かった携帯電話を見つめる。


「十分だ」


 その時だった。


 携帯電話の画面が勝手に点灯した。


 二人は足を止める。


 黒い画面に白い文字が浮かび上がる。


 《接続確認》


 《観測対象:神崎実夏》


 《観測継続中》


 綾乃の顔から血の気が引いた。


「な・・・」


 だが次の瞬間。


 表示は消えた。


 まるで何事もなかったかのように。


 拓哉は無言で携帯電話をポケットへしまう。


 そして小さく呟いた。


「・・・やっぱり始まってる」


 その頃。


 ビル最上階の窓際では、相沢が二人の去っていく姿を見下ろしていた。


 そして静かに内線電話を取る。


「こちら相沢です」


 数秒の沈黙。


 やがて彼は低い声で言った。


「Mファイルが動きました」


「・・・はい」


「火宮拓哉も確認しています」


 電話の向こうから何か指示が飛ぶ。


 相沢の顔から笑みが消えた。


「了解しました」


 電話を切る。


 窓ガラスに映った自分の顔を見つめながら、彼は呟いた。


「十年前と同じか・・・」


 その視線の先には、遠ざかる拓哉たちの姿があった。

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