電波 第20話
実夏は自分の携帯電話をちらりと見た。
その瞬間、
「あっ……」
と小さく声を漏らす。
何かを思い出したような表情だった。
そして慌てるように携帯電話を胸元へ隠す。
綾乃は怪訝そうな顔をした。
「どうしたの?」
「べ、別に何でもないよ!」
実夏は不自然な笑顔を浮かべる。
だが姉の目は誤魔化せない。
「何か隠してるでしょ?」
「隠してないってば!」
実夏は視線を逸らした。
その反応を見ていた拓哉が静かに口を開く。
「その携帯か?」
実夏は肩を震わせた。
「え?」
「前から使っていた機種じゃないな」
実夏は観念したようにため息をつく。
「あー……」
「言ってなかったっけ?」
「少し前に友達と一緒に機種変更したの」
綾乃が驚く。
「機種変更?」
「うん」
実夏は手の中のスマートフォンを見つめた。
「友達が紹介してくれた会社なんだけど……」
「新しい通信会社らしくて」
「料金も安いし、最新機種も無料だったから」
綾乃は首を傾げた。
「そんな会社聞いたことないけど……」
「私も最初は知らなかったよ」
実夏は苦笑する。
「でもデータも全部移せたし」
「電話番号もそのまま使えるって言われて」
「特に不便はなかったから……」
そこまで聞いたところで、
拓哉の表情がわずかに変わった。
「会社名は?」
実夏は少し考えた。
「えっと……」
スマートフォンの画面を確認する。
そして答えた。
「確か――」
その時だった。
突然。
ブツッ――
駅長室のテレビが勝手に点いた。
全員が振り返る。
砂嵐。
画面いっぱいに広がるノイズ。
ザザザザザ――
音量が勝手に上がる。
駅長室に不快な雑音が響き渡った。
そして砂嵐の奥に、一瞬だけ文字が浮かぶ。
《MIRAGE NETWORK》
拓哉の目が鋭くなる。
「……!」
実夏が驚いた声を上げる。
「あっ!」
「それ!」
「その名前!」
綾乃が振り返る。
「え?」
実夏はテレビ画面を指差した。
「私が契約した会社……」
「ミラージュ・ネットワークだよ」
室内の空気が凍り付く。
拓哉だけがテレビ画面を見つめていた。
まるで、その名前を知っていたかのように。
そして誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
「……消えたはずだ」
綾乃が振り向く。
「何?」
しかし拓哉は答えない。
ただ険しい表情のまま、砂嵐の画面を見つめ続けていた。




