電波 第16話
『ウソでしょ……』
綾乃は息を呑みながら、
現場検証をしている刑事たちを掻き分けるようにしてホームの端へ駆け寄った。
そこには数名の刑事に囲まれ、事情を聞かれている
一人の女子高生の姿があった。
綾乃は恐る恐る、その顔を確認する。
そして次の瞬間――
全身が凍りついた。
そこにいたのは、紛れもなく妹の実夏だった。
「実夏……!」
綾乃が声をかけると、
実夏はびくりと肩を震わせ、ゆっくりと顔を上げた。
その顔は血の気を失うほど青ざめ、
瞳には怯えの色が濃く浮かんでいる。
まるで、今なお何か恐ろしいものを見続けているかのようだった。
「お、お姉ちゃん……!」
今にも泣き出しそうな声を漏らした実夏は、
次の瞬間、綾乃の胸へ飛び込んできた。
その小さな身体は、かすかに震えていた。
「大丈夫……もう大丈夫だから」
綾乃は優しく実夏を抱きしめながら、
事情を聞いていた刑事たちへ新しい警察手帳を提示した。
「ここからは私が引き継ぎます」
刑事たちは一瞬顔を見合わせたが、
手帳を確認すると静かにその場を離れた。
綾乃は実夏の肩をそっと支えながら、
できるだけ穏やかな声で問いかける。
「実夏……何があったの?」
だが、実夏は答えない。
その視線は、
怯えたようにホームの上――
何もない夜空へと向けられていた。
その異様な様子を少し離れた場所から見つめていた拓哉が、
静かに歩み寄る。
そして実夏の表情を見た瞬間、眉をひそめた。
――ただ事故を目撃した者の顔ではない。
何か“説明のつかないもの”を見た者の顔だ。
拓哉は低い声で問いかけた。
「君は……何を見た?」
その声に、
実夏の肩がびくりと震える。
しばらく唇を震わせたあと、
彼女はようやく、か細い声を漏らした。
「……あの人……急に立ち止まって……」
綾乃と拓哉は黙って耳を傾ける。
「それで……
空を見上げたの」
実夏の瞳が、再び夜空へと向けられる。
「あの人……何かを聞いてるみたいに、
じっと耳を澄ませて……」
そこで彼女の声が震えた。
「それから、小さな声で……こう言ったの」
実夏は青ざめた唇を震わせながら、
ゆっくりと呟いた。
「――聞こえる……って」
ホームに、重い沈黙が落ちた。
その瞬間。
拓哉の表情がわずかに変わる。
「……まさか」
彼は誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。
その言葉を、
綾乃だけが聞き逃さなかった。




