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電波 第13話

「Mファイルか……」


 


火宮拓哉は小さく呟いた。


 


エレベーター前の薄暗い廊下。


 


夕陽が差し込む窓際で、彼は手にしていた分厚い資料ファイルを綾乃へ差し出す。


 


「ほら」


 


綾乃は戸惑いながら受け取った。


 


ずしりと重い。


 


表紙には赤いラベル。


 


《M FILE CLASSIFIED》


 


その文字だけで、嫌な寒気が走る。


 


火宮は壁にもたれ、気だるそうに説明した。


 


「Mファイルってのは、怪奇事件を扱った極秘ファイルだ」


 


「通常捜査じゃ処理できない案件が全部ここへ回される」


 


「事故にも事件にも分類できない、“説明不能案件”の墓場ってとこ」


 


綾乃は資料へ視線を落とす。


 


そこには異様な写真が並んでいた。


 


踏切で消失した人影。


 


駅ホームの監視カメラにだけ映る黒いノイズ。


 


そして――


 


首のない被害者。


 


『か、怪奇事件……』


 


綾乃の身体が強張る。


 


警察学校でこんなものは習っていない。


 


刑事ドラマの世界でもない。


 


これは、もっと得体の知れない何かだ。


 


そんな綾乃を見て、火宮は少しだけ表情を和らげた。


 


「そんな顔するな」


 


「怪奇事件って言っても、全部が全部オカルトってわけじゃない」


 


「八割は人為的な偽装だ」


 


「残り二割が、本当にヤバい」


 


「二割もあるんですか!?」


 


綾乃は思わず声を上げた。


 


火宮は肩をすくめる。


 


「だから面倒なんだよ」


 


その時。


 


チン――


 


エレベーターが到着した。


 


だが二人が乗り込もうとした瞬間。


 


ピリリリリ……


 


突然、火宮の携帯電話が鳴り響いた。


 


綾乃は反射的に身をすくめる。


 


今朝から“電話の音”に対する恐怖が染みついていた。


 


だが火宮は顔色ひとつ変えない。


 


ポケットから端末を取り出し、画面を見る。


 


その瞬間。


 


彼の眠たげな目が僅かに細くなった。


 


「……珍しいな」


 


「誰からですか?」


 


綾乃が訊ねる。


 


火宮は答えず、通話ボタンを押した。


 


「俺だ」


 


スピーカー越しに、低い男の声が響く。


 


 


『火宮か』


 


 


雑音混じり。


 


だが明らかに生身の人間の声だった。


 


 


『新宿駅南口でまた発生した』


 


『三分前だ』


 


 


火宮の表情が険しくなる。


 


「被害は?」


 


 


『女子高生一名』


 


『ただし今回はまだ生きてる』


 


 


綾乃の鼓動が跳ねた。


 


女子高生。


 


嫌な予感が脳裏をよぎる。


 


火宮が低く訊ねる。


 


「名前は?」


 


一瞬の沈黙。


 


そして。


 


 


『神崎実夏』


 


 


綾乃の顔から血の気が引いた。


 


「っ!!」


 


資料が床へ落ちる。


 


バサッ――


 


「実夏……!?」


 


火宮が鋭く綾乃を見る。


 


「知り合いか」


 


「妹です!」


 


綾乃の声が震える。


 


呼吸が浅くなる。


 


今朝、新宿駅にいた。


 


あの異常着信を受けていた。


 


全部、繋がっていた。


 


火宮は即座に通話相手へ告げる。


 


「現場を封鎖しろ。誰も近づけるな」


 


『公安が先に来てる』


 


「……御影か」


 


『ああ』


 


火宮は舌打ちした。


 


通話を切る。


 


そして綾乃へ向き直った。


 


「行くぞ」


 


「で、でも……!」


 


「泣くのは助けてからにしろ」


 


冷たい言葉。


 


だがそこに迷いはない。


 


火宮はエレベーターへ乗り込み、閉ボタンを押した。


 


綾乃は震える手を握りしめる。


 


そして飛び乗った。


 


扉が閉まる。


 


下降を始めたその瞬間。


 


綾乃の携帯電話が震えた。


 


ブルッ――


 


恐る恐る画面を見る。


 


そこには。


 


 


《NEXT OBSERVATION : SHINJUKU》


 


 


そして続けて、血のように赤い文字が浮かぶ。


 


 


《SISTER ACQUIRED》


 


 


「……っ!!」


 


綾乃が息を呑んだ瞬間。


 


エレベーター内の照明が、一斉に消えた。


 


闇。


 


完全な暗闇。


 


そして、どこからともなく。


 


少女のすすり泣く声が聞こえた。

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