第79話 平穏に終わらない観光
ジェシカさんの店を出た俺たちは、パニーニの屋台に向かった。
「今日も並んでいるな」
「そうだね。今日もちゃんと並ぼう」
「そうだな。だが、取り敢えず声を掛けたほうが良いと思うぞ」
「そうかな?」
「昨日、並ばなくてもいいと言ってくれていただろう」
そうなんだよね。
「うん」
「声かけて、並ぶと伝えればいい。取り敢えず俺が並んでおくから行ってこい」
「わかった」
「行くか」
話を聞いていたエドガーは、屋台に近づき先頭の人が注文数を言ったところで、屋台の横に滑り込む。
「おや、坊や。今日も来てくれたのかい」
「うん。盛況だね」
「坊やのおかげだよ。ありがとうね。今日も個数いるのかい?」
「できれば欲しいけど、状況見て考えるよ。それと、ちゃんと並ばせてもらうからね」
「でもね。それじゃ、申し訳ないじゃないか」
「ん~、並んで待ってる人に悪いし、何より気持ちよく食べたい」
「あはは、じゃ並んで気持ちよく食べとくれ。ありがとうね」
「うん。じゃ後でね」
「あいよ」
お姉さんは、嬉しそうに笑ってくれた。
リックと合流する。
列の最後だった。
「リックありがとう」
「ああ、問題ない。話してよかったろ?」
「うん」
「しかし、この時間から並ぶとはね」
「美味しい証拠だよ」
「まぁな」
「エドガーは並ぶのが苦手だからな」
リックが笑いながら言う。
「誰だって並ぶのは嫌だろう」
「ふふ。まぁそうだね」
話しているうちに後ろにも列ができた。
すると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「わぁ~、けっこう並んでいるよ、ルナ」
「本当ね。日を改める?」
「ダメ、せっかく来たんだし、日を改めたら当分来られないから並ぼう」
「そうね。お得意さんが美味しいって教えてくれたから、食べたほうが良いわね」
「そうだよ。それにいい匂いだよ」
「ステラ、最後尾ここみたいよ」
「は~い、楽しみだね」
「ええ」
俺たち三人は顔を見合わせる。
「双月の二人だね」
「そうだな」
リックも頷いた。
「エドガー、あの二人に…」
「ルナさんとステラさんですよね!」
ものすごい勢いで、前の方から最後尾に走っていった少年が大きな声で二人に話しかけた。
思わず俺は言葉を飲み込んだ。
「うん、そうだよ」
ステラさんがルナを背にして答える。
「俺たち前で並んでいるんで、一緒に並びましょう」
俺たちは顔を見合わせ、頷く。
同じ気持ちだ。
「昨日の冒険者の一人だな」
リックが小声でぼそっと言う。
「昨日の冒険者って、リックになにか言われて逃げた人達?」
「ああ、あの連中か」
「本当に冒険者なの? 俺達に気づかないなんて」
「ふっ、んん」
リックが咳払いをして笑いを堪えた。
でも顔が怖くなっているから、タイミング悪くリックの横を通ったおじさんがびっくりしていたよ。
「ありがとう、せっかくだけど遠慮するわ。声を掛けてくれてありがとう」
「そんな事言わずに、一緒に並びましょう」
「気持ちだけもらっておくわ、ごめんなさい」
「遠慮しないでください。ね、ルナさん、行きましょう」
ルナは大人しいので強引に行けると思ったのか?
哀れだな。
《 パシッ 》
ルナに伸ばした男の手は、ステラに払われる。
「イテ! ひどいな~、せっかく奢ってやるって誘ってやっているのに」
冒険者の青年が苛ついて、声が大きくなる。
すると前方から、声がきこえた。
「なあ、あれまずくないか?」
「ビルを止めたほうが……」
「どうやって? 俺等が殴られるぞ」
「でも……」
話に聞いていたのは俺だけじゃなかった。
「やっぱりか……」
リックが溜め息を付く。
ちょっと首を傾げて、続きを要求する。
「昨日もあの少年だけが、突っかかってきたんだ。後の3人は、申し訳なさそうにしていたからな。一番気の弱そうな青年は頭を下げてから去っていった」
「そうなんだ。3人でパーティ組めばいいのにね」
「まぁ、色々あるんだろ? ——仕方ないな。リック」
何を思ったのか、エドガーは俺をリックに任せる。
「ちょっと、行ってくる」
エドガーは三人の青年の所に向かい、両腕で三人をガバっと抱え込んだ。
青年たちは固まってされるがまま、困惑している。
だが、少し経つと真剣な眼差しでエドガーを見つめる。
エドガーが話し終えたのか彼らから腕を離す。
すると三人は神妙に頷き、エドガーに頭を下げた。
エドガーは、そんな青年たちの頭を順に軽く撫で、その後背中を押す。
「行ってこい」
青年たちは頷き合って、ステラと言い合っている青年、ビルの所へ駆け出した。
その青年たちの背を見ながら戻ってくるエドガー。
「上手くいくと良いな」
リックがエドガーに声をかける。
「そうだな」
エドガーも応えながら、ビルに声をかけている青年たちを見つめる。
「大丈夫、上手くいくように動いてくれるよ」
「ん?」
「誰が?」
リックとエドガーが不思議そうに聞いてくる。
あれ? 気づいていたんじゃないの?
首を傾げつつ伝える。
「ルナさん。こっちを見ながらステラさんに後ろから合図して、上手く長引かせてくれてたと思うよ」
「……」
「……」
無言になる二人。
二人で視線を交わし同時に肩をすぼめた。
「レオ、騎士団に入る気ないか?」
「嫌だ。自由が良い」
「速攻で振られたな、副団長」
「まったくだ」
二人で笑い合う。
あ、動きそう。
エドガーとリックに合図を送り、三人で見守る。
ルナさんと視線があった。
良い笑顔を返してくれる。
青年たち三人が、ビルに声を掛けた。
それにイラついたビルが怒鳴った。
「なんだよ、お前ら!」
「お二人が迷惑されているだろ?」
「ああ!?」
「や、やめよう。ビル」
「うるせー! 俺がいないと何もできないくせに!」
一番気弱そうな青年が、突き飛ばされて転ぶ。
「大丈夫?」
ルナさんが転んだ青年に駆け寄る。
それを見たビルは叫ぶ。
「ルト! テメーわざとだな! ルナさんの気を引きやがって!」
逆ギレだな。
ルトさんに掴みかかろうとしたビルを、後ろから羽交い締めにして止めるもう一人の青年。
「な!? チャド?」
「やめろって」
ビルはチャドの腹に、おもいっきり肘を入れた。
「ぐっ」
短いうめき声を上げて、チャドさんは膝を付く。
「は、ノロマが」
その勢いのまま、ルトに一歩踏み出した所へ、もう一人の青年がルトさんをかばうように二人の間に入る。
「なんだ? キース、文句があるのか? ならパーティからでてけ!」
そのまま、キースさんへ殴りかかるが、伸ばした腕を掴まれ、その勢いを利用され地面に叩きつけられた。
「がっ!」
合気道みたいだな。
それを見ていたチャドさんとルトが、目を見開き驚きの表情をした。
ふ~ん、実力を隠していたのか。
何でもない顔でビルを見下ろすキース。
そして、首を傾げた。
「おい?」
ビルに声をかけるが、反応がない。
「あら、気絶しちゃったみたいね」
落ち着いたルナさんの声が響いた。
「あらら~、吠えるやつは、やっぱり弱いね~」
「ステラ、言葉遣い」
「は~い。ねぇ、君。キースだっけ? 強いじゃん」
ステラがキースに近づき、顔をのぞきながら声を掛けると、一歩引いた。
「なんで離れるかな?」
ステラが不機嫌そうに言う。
「あ、あの。キースは女性が苦手なんです」
大人しい青年ルトがキースをかばう。
「そうなの? ごめんね」
そう言いながらステラさんは一歩下がった。
そんなステラさんを意外そうに見るキース。
「あ、こっちです」
ルナさんが、人混みに向けて手を上げる。
周りに人が集まっていたので、人を掻き分けてやってきたのは衛兵だ。
「ルナさんとステラさんではないですか、一体何があったのですか?」
衛兵は現場の状況を確認して、事情を聞くためにルナのいる場所に移動する。
突然、ビルが起き上がり隠していたのか、ナイフで斬りかかる。
ステラさんは、つまらなさそうな顔をして、ナイフを持っていた手首を掴んだ。
次の瞬間には、男は前のめりになりうずくまり、動かなくなった。
「つまらないな~、これで終わりなの? 準備運動にもならないじゃん」
そう言って肩をすぼめた。
男としては同情するが、自業自得だな。
しかし、ステラさん躊躇ないな。
そこに追加で衛兵がやってきた。
ルナと話していた衛兵が指示を出して、気絶したビルを運んでいく。
「エドガー」
リックは俺をエドガーに預ける。
「ここは俺のほうがいいだろ? 行ってくる」
リックはルナと衛兵に近づき声をかけた。
話し始めて、衛兵の姿勢が良くなったのには笑った。
その後、キース、ルト、チャドも話に加わる。
俺とエドガーは、いつの間にか屋台の順番が回ってきていた。
エドガーは俺達の分の他に、ルナとステラ、青年3人分も一緒に購入した。
衛兵と話が終わった。
にこやかにしているルナとステラ。
青年三人はホッとしている表情だ。
その後、エドガーからのパニーニの差し入れに皆が喜んだ。
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次回更新10/31(土)20時です。




