第78話 念願の手袋
俺はエドガーに色々と聞きながら防具を見ていた。
「レオなら、魔法特化になるから、軽いほうが良い。それに……防御力高いからな。
最低限で肩、胸、肘、膝当てでいいだろ」
「確かに、身軽なほうが動きやすいね。剣を使えた場合はどうなるの?」
「使えても、魔法も使えるなら同じでいい」
「なるほど、革の種類もある?」
「あるにはあるが、通常は防御力が高いものや、物理、魔法防御などの魔法付与がされたものになっていく。だが、レオの場合どれも不要だろう」
「え? なら、何を選べばいいの?」
「軽さ、手触り、見た目でいいと思うぞ」
解せぬ。
なんかこう、機能や能力に応じて選んでいく楽しみがない。
選べても使えないけどな。
「贅沢だぞ」
考えていると、そう言って頬を突かれる。
それもそうか。
「そうだね。外套やマントとかはどうなの?」
「活動範囲で必要なら用意する感じだな。初心者は夜に活動はしないからな」
「なるほど」
「後は、レオみたいな場合は必要だけどな」
「俺?」
「顔を隠す必要があるだろう?」
そうでした。
「できるのか!?」
リックの興奮した声が聞こえた。
俺とエドガーは、顔を見合わせリックの所へ行く。
「見つかったか?」
「……どうなんだ?」
「あはは、できるって言っているじゃないですか」
「何ができるの?」
話が見えない。
俺にも教えてください。
「ん? ああ、そうだな。レオは知らないからな」
リックはベストの内ポケットから、片方だけの手袋を取り出した。
それを俺に見せてくれる。
「かなり傷んでいるね」
どれだけ使い込んだのかボロボロで、なんとか手袋と分かるぐらいだ。
「1回使っただけなんだ」
「え!? 1回でこんなになるの?」
「見せてもらってもいいですか?」
ジェシカさんが声を掛けてきた。
「ああ、この状態になる」
手袋を見て、あんぐりと口を開けるジェシカさん。
「これは……また、ひどいですね」
「魔法を使うたびに、手袋を変える必要があり連続で魔法が使えないんだ」
「連続で使う気かよ」
速攻でエドガーが突っ込む。
どんな魔法なの?
気になる。
「必要だろう。魔物の氾濫の時に使えれば、すごく楽だ」
「それは……、そうだな」
「そうだろう。全員俺の後ろで待機すればいい。後片付けはしてもらうがな」
「リックの魔法って?」
「ああ、俺は氷属性なんだ。最大の武器が広範囲魔法で、俺が目視できる敵を瞬時に凍らせられる。ただ、後からその場所に来たものは、凍らないがな」
「……見えている敵を全部? しかも瞬時?」
「そうだ。手袋が俺の魔法に耐えられれば連続で使える。素手だと、自分も魔法の冷気に当てられて裂傷になるんだ」
「氷属性。……広範囲魔法。——白銀の大剣!!」
ジェシカさんが叫ぶ。
リックは喉を鳴らし咳き込む。
——白銀の大剣は、リックの二つ名だ。
「あ、すみません」
「ごほっ、気にしなくていい。だが、その名で呼ぶのは遠慮して欲しい」
「はい。もちろんです」
いい笑顔で答えるジェシカさん。
「でも、お礼を言わせてください。私の弟と妹を助けていただき、ありがとうございました」
ジェシカさんは、勢いよく頭を下げた。
「頭を上げてくれ、ジェシカさんの弟と妹を助けられたなら良かった。だが、私は騎士なので、民を守るのは当然なことだ。だが、お礼の言葉は受け取ろう」
爽やかな笑顔で答えるリック。
嬉しそうだな、目元が柔らかい。
「はい! では、お礼に良い物を作りますね」
「本当にできるのか?」
「あはは、今までずいぶんと苦労されたんですね。どこで購入されたかは知りませんが、一緒にしないでください。もう、私が作る手袋以外は使えなくしてあげます!」
ふんすと、両手を腰に当て胸を張るジェシカさん。
胸はないけど……。
「レオ君、何かな?」
思わずビクついた俺。
女の勘は鋭い。
「う、うん。ジェシカさんが、すごい自信だから特別な作り方なのかな? って気になって」
「特別? 普通だと思うよ」
首を傾げるジェシカさん。
「じゃ、早速魔力を見させてもらいますね」
「魔力を見る?」
「はい、ちょっと魔道具を持ってきますね」
ジェシカさんは店の奥に入っていった。
「魔力を見て作るんだね。どんな魔道具なの?」
リックとエドガーに聞く。
二人は黙り込み、お互いを見た。
「知っているか?」
エドガーがリックに聞く。
「いや」
リックは首を振り、短く答える。
ジェシカさん、最初から普通じゃないみたいだよ。
「お待たせしました」
ジェシカさんは、直径15cmのガラスの球体が中央に挟まった道具を二つ、机に置いた。
取手はコの字になっていて、ガラスの球体は上と下の金属で挟まれている。
しかし、取手もかなり凝っていて、青みのある銀色をしていた。
「おい、これって……」
魔道具を見て、リックは絶句した。
「あ、待ってくださいね。一度お店を閉めますね。途中で人が来ると困るので」
そう言って、入口の鍵を閉めるジェシカさん。
「では、早速魔力を見ますね。この手袋、右手ですが魔法の出力は右手のみですか?」
「いや、奥義は両手で使う」
奥義なんだ!
見てみたいな。
「両手でどう使うか伺ってもいいですか?」
「問題ない。両手で剣を握り、剣は地に刺して使う」
「すると、両手で同時に剣に魔力を込めて、剣を通して地に魔力を放出するんですね」
「ああ、そうだ」
リックが感心したように頷く。
「2つ持ってきて正解でした。あ、剣の素材はオリハルコンですか?」
「そうだ、よく分かるな」
「仕事なんで、オリハルコンは魔力と相性いいですからね」
「それは、そうだが」
「1回で、あの手袋がボロボロになる魔力ですからね。答えは簡単です」
「なるほど」
ジェシカさんは話しながら、手袋をはめて球体と一緒に持ってきた箱を開けた。
そこから革袋を2つ取り出す。
球体をリックの腕の前になるように置いた。
そして、取手の外側の中央辺りに魔力を流した。
すると取手が伸びて、球体は上の金属にくっついて上にあがる。
20cmぐらいの高さが倍の高さになる。
ジェシカさんは1つ革袋を取り、上の金属部分を軽く叩いた。
すると金属の上部がパカっと開いた。
蓋があったのか。
そこから、革袋の中身を全て入れた。
中身は球体に落ち……なかった。
キラキラした小さな透明な石たちは、球体で浮遊していた。
「わぁ~、綺麗だね」
「そうでしょ」
「ジェシカさん、——これと同じ物をもう一つ使って調べるのか?」
「そうですよ~」
「まて、いや、いいんだが……」
言葉を濁すリック。
「リック、足りなかったら利息無しで貸してやる」
「すまん、助かる」
「あはは、大丈夫ですよ。たぶん」
「たぶんかよ」
リックが突っ込みを入れた。
珍しい、かなりテンパっているようだ。
「この透明な石、そんなに高価なの?」
「そうね、それなりの大きさならお屋敷が買えるかな。でも、これは欠片で使い物にならないから、安いよ」
「安くないだろ!」
「あははは、リックさんって、意外と面白い人なんですね。本当に大丈夫ですから」
笑いながらも、2つ目の球体の中にも、透明な石が入れられた。
心なしか顔色の悪いリックの肩を優しく叩くエドガー。
「はい。準備ができました。リックさん、こちらの金属の上に手のひらを乗せてください」
「——わかった」
覚悟を決めた……半分諦めかな?
キュッと口を結び、両手のひらをそれぞれの金属の上に乗せるリック。
「では、奥義を使うときと同じ魔力を放出してください」
「分かった。念のためジェシカさんも、エドガーたちのところに移動してくれ」
「問題ありません。それに見ている必要があるので、このままお願いします」
「そうか、はじめるぞ」
真剣な声で伝え、一度深呼吸をして目を閉じるリック。
次の瞬間、リックの両手から莫大な魔力が放出される。
その瞬間、球体が上の金属からも離れ、中間で浮き、くるくると回る。
中に入っていた透明な欠片たちも、球体の中で不規則に動き回る。
そして、透明から色づいて、アクアマリンのような透明な水色、黄緑、ピンク、どれも淡く透明な色に変化していく。
すごく幻想的な光景だ。
「綺麗……」
2つの球体がくるくる動き、その中で透明な石たちが舞って色づいていく。
「寒!」
見惚れていたら足元から冷気が漂ってきた。
「大丈夫か」
エドガーが慌てて俺を抱き上げる。
「うん。ありがとう」
リックが目を開ける。
「終了だ」
「お疲れ様でした。手を離していいですよ」
「ああ」
両手を離して、息を吐くリック。
リックが手を離すと、球体は動きを止めてゆっくりと、今度は下の金属に付いた。
それを、じっと観察するジェシカさん。
「……流石ですね。左右ほぼ同じ魔力の質と魔力量です」
「凄いの?」
「ええ、ここまで左右で一致しているのは初めて見るわ。きっと、この奥義は、ここまで極めたからこそ駆使できるのね」
ジェシカさんは尊敬の眼差しでリックを見ていた。
「リックさん、あなたの魔力の質は極めて練度が高く安定しています。ただ、こちら見てください」
ジェシカさんが球体の一部を指す。
「2つほど色が濃い欠片があるのが見えますか? あ、触らないでくださいね」
三人で覗き込む。
ジェシカさんの言った通り、左右の両方に濃いブルーとグレーの欠片が一つずつあった。
「俺の魔力に不純物があるのか?」
「不純物ではないので安心してください。そうですね、魔力の個性とでも言っておきますね。この個性があると、魔法が強力なんです」
にこやかに微笑むジェシカさん。
「そうか」
それを聞いてホッとするリック。
「リックさん、魔力を見た結果、制作に3週間ほどお時間がかかります」
「問題ない」
「ありがとうございます」
リックの返事を聞いて、ジェシカさんは紙に何かを書いてリックに渡す。
受け取ったリックは、目を見開き固まる。
「この値段、おかしいだろう。ちゃんと正規の金額を取ってくれ」
「正規の値段ですよ」
「しかし、この金額は安すぎる」
「本当に値引きはしていません。なぜその値段でお売りできるかは、秘密です」
「——本当だな?」
「もちろん。神殿に誓ってもいいですよ?」
溜め息をつきながら、頭を掻くリック。
「その必要はない。ジェシカさんを信じよう」
「あはは、ありがとうございます。それと、私に「さん」は不要です。ジェシカと呼んでください」
「わかった、ジェシカ。3週間後だな」
「はい! でも、その前に両手のサイズを測らせてください。手首はどうします?」
「手首もカバーしてもらえるか?」
「もちろんです」
そうして、採寸も終わり店を出る。
「ありがとうございました! 3週間後お待ちしていますね!」
ジェシカさんは入口で元気に見送ってくれた。
悪い、遅くなったな。
「ちょうど、昼食だな」
「うん。パニーニの屋台に行って、その後に冒険者が行くようなお店で昼食にして!」
エドガーとリックはそれを聞いて立ち止まる。
「冒険者が行く店に行きたいのか?」
エドガーが、本当に? という感じで聞いてくる。
「レオ、冒険者たちが行く店は不衛生な店が多いんだ」
「不衛生じゃないお店に連れてって!」
エドガーとリックが、困った顔をした。
次回更新10/28(水) 20時です。




