第77話 異世界の店舗へ
次の日、出かける時にイザベラさんが、キラキラした瞳でにこやかに送り出してくれた。
「くっ、分かりやすいなイザベラさん」
リックが笑いを堪えながら言う。
「イザベラは単純なんだよ」
エドガーはちょっと呆れ気味だ。
「あはは、アークさんはそこが可愛いのかもね」
「あれがか?」
エドガーが冗談だろ? という感じで聞いてくる。
「ある意味、イザベラさん素直でしょ」
「……素直、なのか?」
リックが考え込んじゃった。
「うまいこと言うな、レオ。そうとも言えるかもな。俺は遠慮するが、リックあんまり考えるな。イザベラなんだし」
「それも、そうだな」
二人の中のイザベラさんは、かなり残念な人になっているね。
俺もだけどね。
「そんなことより、武器を見に行こう」
「ああ、俺らの行きつけの店でいいか?」
「そこも行きたいけど、冒険者の人達が行くお店も見たい」
俺の視線を受けて、ぐっと目を閉じてだまり込むエドガー。
プルプルと小刻みに震えて、カッと目を開いた。
「どこでも連れてってやるからな。行きたいところ言え」
満面の笑みでエドガーから答えが返ってきた。
俺はまた、レオの顔の破壊力を忘れていた。
「無意識だろうが、エドガーの扱い上手いな」
肩を震わせ小声で言うリック。
何のことか分からず首を傾げる。
「くっ、もう少し自分の容姿の破壊力を知ったほうが良い」
俺は、ポンっと手のひらを拳で叩く。
「なるほど」
「ぷっ、はは、あははは」
我慢の限界だったのかリックが笑い出した。
「どうした?」
エドガーが怪訝な顔をしてリックに問いかける。
リックは何でもないと手を振って答える。
笑いを堪えて話せないようだ。
その様子を見たエドガーは肩をすぼめる。
「ここからだと、先に冒険者が行く武器屋のほうが近いな」
「あ、ああ。そちらから行こう」
リックは咳払いをして答えた。
笑い上戸だよね、リック。
「レオ、着いたぞ」
看板に剣と盾の絵が描いてあった。
エドガーが扉を開けて中に入る。
降ろしてとお願いしたが、ここは駄目と言われた。
確かにここは危ないね。
これが普通なのかも知れないが、ケースに入ってない。
刃物が無造作に置かれている。
入口近くには、樽に大量に剣が入っている
「これ、剣は傷まないの?」
「ん? ああ、これは粗悪品で安物なんだ」
「え? 売れるの?」
「冒険者になりたての、資金がない者たちへの救済だ」
「初心者が狩る獲物なら、この剣で十分なんだ」
「へぇ~」
剣は色々な長さや形がある。
ナイフは刃の形も異なり面白い。
気になったのが、奥にあるもの凄く大きな盾だ。
「エドガー、あの大きな盾使うの? 持ち運ぶのも大変そうだよ?」
「問題ない、レオも身体強化すれば持て……」
言葉を途中で切って、俺と盾を見比べる。
「持てないな。盾のが大きいな」
「クク、背丈が足りればレオも持てる」
リックが笑いながら指摘する。
「身体強化をずっとしてなきゃ駄目だよね?」
「ハハハ、坊主。これは魔道具でもあるんだ」
突然、大きな声で笑われて驚く。
振り返ると、筋肉盛々でツルピカの大きな男性が立っていた。
「久しぶりだな。しばらく見なかったが、終わったのか?」
「ガイ、元気そうだな。まだ継続中だ」
リックが気さくに答える。
「相変わらず声がでかいな。レオが驚いただろ?」
エドガーが文句を言う。
「驚かせたか? 悪いな坊主」
「大丈夫だよ」
ニコッと笑う。
「……」
ガイさんが驚きの顔で固まる。
思わず首を傾げる。
「……泣かないのか?」
ガイさんが恐る恐る聞いてくる。
え?
泣く?
「どうして?」
「だって、俺だぞ? なぁ」
ガイさんは、エドガーとリックを見る。
「レオは、怖がらないぞ」
ああ、そういうことか。
「ガイさん、怖くないですよ? たぶん、子供は大声と体の大きさに、びっくりして泣くだけだと思いますよ」
「そうなのか?」
「はい。今度、しゃがんで小声で話しかけてみてください」
「それだけでいいのか?」
「はい。でも、大事なことですからね」
念を押す。
「わ、わかった」
「もしかして、まだ娘に泣かれるのか?」
リックが気遣う感じに聞いた。
「……そうなんだよ」
それは悲しいね。
「じゃ、今日は甘いものでも買って、実践して見てください」
「お、おぅ。甘い物か」
「クッキーとかで良いんじゃないか」
エドガーが言う。
ガイさんは難しい顔をする。
「パンの甘いものならどうだ? 食事の代わりにもなるぞ?」
リックがアドバイスをする。
「確かに、それなら買っても大丈夫だな」
ぱっと顔を輝かせて言うガイさん。
「なんだ? 金に困っているわけでもないだろう?」
「いや、実は嫁さんが妊娠したんだよ。だから今は節約しているんだ」
ガイさんは頭を掻きながら、照れくさそうに言う。
おめでたじゃん。
「おめでとうございます」
「おぅ、ありがとうな、坊主。よし、特別にこの盾を近くで見せてやる」
「いいの?」
「ああ、もちろん二人もな」
「俺らはついでだろうが」
「まったくだ」
エドガーとリックは笑いながら言った。
ガイさんが、盾を持ち上げ俺たちの前に置いた。
《 ドン 》
すごい重量、床にヒビが入っているけどいいのかな。
ガイさんは気にしていないようだ。
「こっちを見てくれ」
手招きで盾の裏を指す。
三人でそちら側に行き裏側を見ると、盾の中央部分にそれなりの大きさの石がはめ込まれていた。
「魔石か、大きいな」
リックが言う。
「そうだろ、魔道具ってほど凝ってはないが、この魔石に持つ人間の魔力を流すと、盾に施された術が発動するんだ。やって見るか?」
「いいの?」
俺は魔石に手を伸ばすが、遠ざけられた。
「ちょっと、エドガー」
文句を言う。
「駄目だろ。余分な魔力を使うな」
あ……。
そうだった。
「少しなら大丈夫だと思う」
「ガイ、これは魔力どのぐらいいるんだ?」
「お前ら二人なら問題ないと思うが、坊主は無理だな。子供だと寝込む」
「だ、そうだ。レオ、これは駄目だ」
リックにも言われてしまった。
この二人は魔力が多い方だと聞いたからな。
残念だが、諦めよう。
「うん。分かった」
「えらいな、坊主」
ワシャワシャと俺の頭をなでるガイさん。
「どちらか試すか?」
「いや、止めておこう」
「俺も止めとく」
「そりゃ残念だ」
「見せてくれてありがとう」
「良いってことよ。他に見たいものあるか?」
「ううん。一通り見たから大丈夫」
「なら、次見に行くか?」
「何を見に行くんだ?」
「防具だよ」
「防具なら、いい店があるぞ」
「どこだ?」
ガイさんの言葉に食いついたのはリックだ。
「お前らは知らんだろう。この店の1本裏道に1年前できたんだ。レオが見たいんだろ? 子供用もあるからいいと思うぞ。店主は女性で若いが腕は確かだ、俺が保証する」
「お前が?」
リックが驚く。
「おうよ。行けば分かる」
「そこに行こう」
リックが歩き出す。
「裏道入ればすぐ店は分かる。俺の紹介だと言え、話が早いぞ」
「分かった」
「店主はジェシカだ」
リックはガイさんに片手を上げて応え、意気揚々と店をでた。
俺とエドガーはガイさんに挨拶して、リックの後を追った。
紹介された防具のお店はすぐに分かった。
「ここだな」
リック嬉しそうだね。
俺たちを待たずに店に入っていった。
エドガーと顔を見合わせて笑う。
「リックは、ずっと困っていることがあってな。いい店を探しているんだ」
「そうなんだ」
エドガーと話しながら、店に入る。
冒険者が来る店には思えないほど、綺麗に店内は整えられていた。
「これは、見やすいな」
エドガーが感心して言う。
リックは小物のところを見ていた。
「いらっしゃいませ~」
奥から元気よく出てきたのは、小柄な女性。
茶髪のボブで赤いリボンをカチューシャのように結んでいる。
「ガイの紹介できた」
「ガイさんの! ありがとうございます」
「子供の防具もあるって聞いたんだが」
「ありますよ。表に出してないだけで、見られます?」
「頼む」
「男の子用? 女の子用?」
「男だ」
「お待ちください」
元気が良いお姉さんだ。
「お待たせしました!」
早いな。
「こちらへどうぞ」
何も置いてなかった棚に並べてくれる。
「エドガー、降ろして」
「ああ、ここは大丈夫だな」
そう言って降ろしてくれる。
フード取っていいかな?
チラッとエドガーを見ると、頷いた。
フードを取って、ジェシカさんに話し掛ける。
「これ、触ってもいい?」
「いいですよ~。おや、可愛い顔しているね~。これはお兄さんも大変だね。あ、そうだ。ちょっと待ってて」
そう言って、奥に入っていった。
俺とエドガーは顔を見合わせる。
「初めて普通に対応された」
「だな、固まらなかったぞ」
「あははは。そっか、君ほど可愛いと女の人は固まるのね」
ジェシカさんが、あっけらかんと言った。
「はい、これ使って」
そう言って踏み台を置いてくれる。
「ありがとう」
「どういたしまして。毎回固まられるのも困るよね。私はないから、ゆっくり見てってね」
「うん」
俺が頷くと落ち着いたココア色の瞳が、温かい眼差しをくれた。
「何かあったら、気軽に声かけてね」
親しみを感じる笑顔を見せてリックの方へ向かった。
可愛らしい人だ。
そばかすが、チャームポイントになって少女のように見える。
ちょこちょこ動き回る姿も小動物のようで可愛らしい。
俺は防具を手に取り、エドガーの説明を聞きながら楽しんだ。
リックとジェシカさんは、話し込んでいた。
リックの探し物見つかるといいな。
いつもありがとうございます。
次回10/24(土) 20時更新です。




