第74話 セドリックの思惑
翼亭に帰る途中で、リックは果物を買って奥さんが過ごしている家に向かった。
奥さんは今、実家の男爵家にいるそうだ。
男爵家への手土産も買っていた。
リックと分かれて、翼亭に帰ってきた俺とエドガー。
荷物を置いてエドガーは、アークさんと話してくると言って部屋を出た。
イザベラさん……頑張って。
アークさんなら問題ないだろう。
俺は市場を歩いて埃っぽいから風呂だ。
「は~、やっぱ日本人には風呂だよな~」
俺は湯船に浸かり、首を風呂の縁に乗せて足を伸ばして力を抜く。
「市場はやっぱり面白かったな。それに、パニーニもどき美味かった」
あれはサイコーだった。
自家製トマトソース、売ってくれないかな?
「もう一度食いたいな。明日寄れるか聞いてみるか」
思い出すだけで腹が減ってくる。
「でも、市場にはなかったな」
食材の名前が違っても、ほぼ同じ。
だから、あるかと思って探した。
「なかった……。ご飯が食べたい」
ご飯に味噌汁が無性に食べたいんだよ。
「公爵様に聞いてみようかな?」
知らなくても、調べてもらえるかも知れない。
「もう一度、食べたいな」
ん~。
じいさんに聞いてみるかな。
「市場、次は一人にしてくれないだろうな……」
エドガーがかなり心配していたようで、リックにチクリと刺された。
そういえば、世話になった少年。
「あ、あれ? 少年の名前聞いてない?」
まじか。
「そんなにテンション上がっていたのか俺?」
すごく助かったよな。
面倒見のいい少年だったな。
「もう、会えないだろうな」
いい思い出になったな。
「……」
天井を見つめる。
ザバッと勢いよく風呂から出る。
「お腹すいたし、ケーキ食べよう」
俺は暗い気持ちを振り払うように、一度水で顔を洗った。
着替えて部屋に戻ると、エドガーが剣を手入れしていた。
「ゆっくり出来たか?」
「うん。エドガーも先に入ってきたら?」
「ああ、そうだな」
「エドガー、先にチョコレートケーキを食べてもいい?」
瞬きして、優しい笑顔を見せるエドガー。
「レオに買ったケーキだ、気にせず食べたい時に食べればいい」
「ありがとう」
俺の頭を優しくなでて、風呂場へ入っていった。
俺は早速、ナッツの入ったチョコレートケーキを収納から取り出す。
飲み物はコーヒーが飲みたい。
「コーヒーないんだよな~」
紅茶は飲むことがなかったからな。
美味いけど、やっぱコーヒーだよな。
「水でいいか」
実は紅茶に飽きてきたんだよな。
「見た目も美味しそうだよな」
シンプルな見た目だが、日本のケーキと遜色ない。
味も好みだ。
一口食べる。
「ん~、美味い。チョコクリームに香ばしいナッツが合う」
俺はエドガーがお風呂から出てくるまで、ゆっくりと味わった。
「ふ~、さっぱりした」
そう言ってエドガーがお風呂から出てきた。
俺はもぐもぐしながら、エドガーを見た。
「レオ、そのケーキ何個目だ?」
「……」
俺は笑ってごまかす。
3個目のケーキです。
最後の一口を食べる。
「はぁ、夕飯どうするんだ?」
「あ~、ごめん。今日も部屋でスープとパンだけでお願いします」
「まったく、明日の朝は食堂で食べろよ」
「どうして? 俺は部屋がいいな」
「イザベラさんが、レオを連れて来いってうるさいんだが……」
「エドガー、頑張って。俺が部屋で食べたいって言ってるって、言えばいいんじゃない?」
「まぁな」
「エドガー、アークさんに伝えるか、アークさんがいる時に伝えればいいよ」
エドガーは無言で俺を見て頷く。
「そうしよう。ああ、リックだが今日は泊まってくるそうだ。明日の朝に合流する」
「それは良かった。せっかく久しぶりに奥さんと会うんだから」
「そうだな」
「レオ、今日は早く寝ろよ。結構疲れているだろ」
「うん。そうする」
そう意外と疲れていた。
「エドガー、明日帰ってきたらリックと三人で果物のケーキ一緒に食べよう」
「レオが食べたい時に食べていいぞ?」
「俺が二人と一緒に食べたいの」
「そうか」
俺のところに来て頭をなでる。
「今から楽しみだ」
そう言って、ふわっと笑った。
エドガーがイケメンすぎて眩しい。
その後、俺はエドガーに市場であったことを話したり、エドガーたちが俺を見失った後のことを聞いて過ごした。
パニーニもどきにはエドガーも食いつき、明日行けることになった。
そして、時間になりエドガーは夕食を取りに食堂へ行った。
無事、アークさんからイザベラさんへ伝えてもらえたようだ。
エドガーと二人ゆっくり部屋で夕食を取った。
その時は公爵家の騎士団の話を聞いて楽しんだ。
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なんかいい匂いがする。
お腹が空いたな。
「ん~~~」
「ハハ、よく寝ていたな。おはよう、レオ」
「……おはよう、エドガー」
ぼ~として答えると、エドガーが俺のベッドにやって来て座った。
「まだ寝ぼけているな」
「ん~」
「起きれるか?」
頭を優しくなでるエドガー。
「スープ、冷めるぞ?」
それはいかん。
「起きる」
「ハハ、レオは食いしん坊だな」
「違う、美味しい物を、一番美味しい時に食べたいだけ」
「そうか? 昨日ケーキ何個食べたんだ?」
う、っと言葉に詰まる。
俺はベッドから飛び起きる。
「顔洗ってくる」
そう言って洗面所に向かう。
後ろからエドガーの笑い声が聞こえた。
翼亭の朝食に舌鼓をうち、下に降りていくとリックが待っていた。
「おはよう、リック」
「おはよう。よく眠れたか?」
「夕飯食べて寝落ちして、そのまま朝食の時間までぐっすり寝ていたな」
エドガーが俺の頬を突きながら言う。
むっとする俺を見て、リックが吹き出した。
「クハハ、そうか。ぐっすり眠れたなら良かった」
「リックこそ、昨夜は奥さんを甘やかしてきたの」
ピタッと止まるリック。
いい笑顔で俺を見る。
「いひゃい」
気付いたら、リックに頬を引っ張られていた。
「何だこれは、すごく柔らかいな」
リックは俺の頬を引っ張りながら感心する。
痛いって!
「いひゃい」
ペシペシとリックの腕を叩いて抗議する。
「あ、悪い」
ヒリヒリする。
エドガーが俺の頬を見る。
「リック、強く掴みすぎだ。赤くなっている」
「すまん。力加減に気をつける」
真面目に答えるな!
また、引っ張る気なのか!?
頬を擦りながら抗議する。
その視線を受けて、苦笑いするリック。
「悪かった」
ポンと優しく俺の頭に手のひらをのせる。
イケメンずるいと思う。
「移動しよう、予定は?」
端的に言うリック。
エドガーが今日の予定を話す。
その中でリックもパニーニもどきに食いついた。
うんうん。
パニーニもどきに勝てる者はない。
双月に着くと先客は老夫婦だけで、すぐケーキを選ぶことが出来た。
購入したのは、結局全種類だ。
俺が迷って決められずにいたら、エドガーが決めた。
ルナとステラには笑われた。
笑った二人の髪には、俺がプレゼントした髪飾りが付いていた。
早速、使ってもらえて嬉しいな。
お土産も購入して、シークレット・ローズに向かう。
セドリックさんのお店の名前、何度聞いてもおしゃれだね。
お店に入ると、前回と同じようにリネットさんが大きな猫を被り迎えてくれた。
今日はそのまま応接室に案内された。
応接室に入るとセドリックさんとオスカーさんが待っていた。
「レオ君、いらっしゃ~い。エドガー、リックもいらっしゃい」
「今日はよろしくお願いします」
「うふふ、かしこまらなくていいわよ~」
「さぁ、三人とも座って」
すると、側にいたメイドさんが机の上に布を置いた。
落ち着いたグリーンの色が数種類と白からクリーム色の数種類の布だ。
「この色合いで王城用の服を仕立てようと思っているの。どうかしら?」
「良いんじゃないか」
「ああ、そうだな。レオ、希望はあるか?」
エドガーが聞いてくる。
俺は服にこだわりはない。
「特にない。わからないし、エドガーお願い」
「まかせとけ」
嬉しそうに笑う。
エドガーに任せればよさそうだ。
イキイキしている。
チラッとリックを見ると、興味なさそうにしていた。
リック、俺と同類だね。
エドガーとセドリックさんで、生地や色が決まった。
「良いわね。これで仕立てるわ。あと、公爵家で着る服なんだけど、こんな感じでどうかしら?」
すると、オスカーさんが、衣装掛けを押してきた。
木製の衣装掛けに数着の服と布が掛かっている。
シンプルな白のブラウスと、サスペンダー付き膝下丈のズボンの色違いだ。
「レオ君の年齢なら、膝下丈のズボンでいいと思うの」
「ああ、それでいい。色も落ち着いているな」
「普段着用だからね。レオ君もこれでいいかしら?」
「うん」
多少ひらひらあるが、許容範囲だ。
「良かった。最後に公爵家に行く時に着る服にこれを用意したの」
衣装掛けの布をオスカーさんが取る。
そこには、薄いクリーム色をベースに、濃淡二色のブルーで大きなチェック柄が描かれた衣装があった。
ジャケットと膝下丈のズボンはチェックの布で、ブラウスはクリーム色だ。
うん。
レオなら似合いそうだ。
俺が着るのか、キツイなぁ~。
だが、俺の心の声は届かなかった。
「レオに似合うな。これでいい」
「良かったわ、レオ君、一度着てみてくれる?」
頷く。
オスカーさんと共に隣の部屋に行き着替える。
「とてもお似合いです」
オスカーさんが爽やかな笑顔で褒めてくれた。
「ありがとうございます」
この部屋に鏡がなく自分では見られない。
「レオ様、失礼します」
帽子を被せられた。
「同じ布であつらえたベレー帽になります」
「そうなんだ」
帽子まで、凄いなセドリックさん。
隣の部屋に帰ると、三者三様の表情だ。
セドリックさんとメイドさんは目をキラキラさせている。
クラリスさんも来ていてサムズアップされた。
気になるのは……。
エドガーが顔を背け、笑いを堪えている。
リックは額に手を乗せて、上を向いていた。
嫌な予感。
オスカーさんを見ると無表情だった。
「オスカーさん、鏡はどちらですか?」
ピクッと頬が動いたオスカーさんは、チラッとセドリックさんを見る。
セドリックさんは、盛大に首を振っていた。
「オスカーさん? 俺、お客ですよね?」
声を低くする。
「さようです。こちらにございます。」
大きな布で隠されていた鏡に映された俺を見て固まった。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新は10/14(水)20時です。




