第71話 自由な散策
気がついたら次の日だった。
日が高い……。
何時ぐらいだろう?
昨夜は食堂で夕飯を食べて……。
——寝落ちした!?
「まじか~。柄にもなく緊張していたのか?」
俺はベッドから起きあがる。
「腹減ったな、着替えて食堂へ行こう」
エドガーとリックは部屋にいなかった。
俺は準備を済ませ、部屋を出ようとした。
「あ……。部屋の鍵持ってない」
仕方ない。
収納からサンドイッチと飲み物を出す。
「本当に収納は便利だな」
一人でのんびり食事するの、久しぶりだな。
「少し整理するか……」
じいさんのおかげで、公爵様との話はスムーズに進んだ。
伯爵家のことは、このまま順調に行けば一週間以内に片が付きそうだ。
「ローウェンさん、仕事早そうだし」
抜かりもなさそうで、頼りになる。
「ただ……、呪いの石についての背景はどこまで分かるだろう」
呪いの石の鑑定に、公爵家の捜査の情報漏れ、姿が変わる魔道具。
「俺にできることはあるだろうか」
今考えても仕方ないか。
三日後、公爵家に移動して状況を聞いてからだな。
「後は——黒の呪いの石だな」
今はじいさんの結界のおかげで収納できている。
証拠として持っているが……。
「そもそも。見せられないよな……」
それにしても、レオに対しての呪いが強すぎないか?
ペンダントに、黒の呪い。
「子供だから殺すだけなら簡単だろうに」
それこそ、ダリルを使ってもいい。
食事に毒を混ぜることも出来たはずだ。
簡単な方法を選ばず呪いね……。
「レオ……ではなく、親か。サラサではないな、父親だな」
レオの父親……ね。
何者だ?
あのペンダントの裏に書かれた文字。
じいさんにも見えず俺にだけ読めた。
「あれは……」
ガチャ。
「お、レオ起きたか」
「エドガーに、リック、おはよう」
「ああ、おはよう」
俺の思考は二人が戻ったことで途切れた。
「悪い、朝食もらってきたが……」
「気にしなくていいよ。持ってきてくれてありがとう」
「ああ、シチューとパンだ」
「シチュー食べたい」
「ああ。ほら」
エドガーはテーブルの上にシチューの皿を置いてくれる。
パンは収納にしまう。
「どうして食堂に来なかったんだ?」
「行こうと思ったんだけど、鍵がなかったから」
エドガーとリックは顔を見合わせる。
「どうしたの?」
「いや、レオなら結界を張れば良かったんじゃないか?」
「あ……」
忘れていた……。
その手があったか。
「ハハ、思いつかなかったみたいだな」
エドガーが笑う。
「レオは、変なところで抜けているよな」
若干呆れつつ苦笑いのリック。
「起きたばかりで寝ぼけたのかも」
俺は手つかずのサンドイッチは収納に入れて、シチューを飲むことにした。
「美味しい」
「翼亭のシチューは美味いからな」
エドガーは俺の頭をなでる。
ちょ、スープ飲んでいるんだけど。
「ああ。レオ、今日はどうする?」
リックは、エドガーに賛同しながら今日の予定を聞いてきた。
「王都の市場を見て、その後は双月に行きたい」
「なら、昼は食べ歩きがいいな」
「そうだな」
エドガーは楽しそうだ。
リックもすんなり同意した。
「いいの?」
「ああ、問題ない」
「癪だが、ノエルも力を貸してくれたらしい」
「そこは素直に感謝しろよ」
そっぽを向くエドガー。
「会えたらお礼を言わないとだね」
「必要ない」
「大人としてありえないよ」
「……」
「レオの言うとおりだな」
ぶすっと不機嫌な様子のエドガー。
「なんで、そんなに嫌いなの? なにかされたの?」
何も言わないエドガー。
「ノエルは何もしてないぞ。エドガーが一方的に嫌っているんだ」
ええ~。
エドガーをじっと見る。
「仕方ないだろ、なんか気に触るんだよ」
「同族嫌悪だな。ただノエルは女性を躱すのが上手いんだよ。こいつは徹底的に避けるだけなんだけどな」
「なるほど」
「うるせー」
エドガーが子供だ。
逆にノエルさんに会ってみたくなるな。
「エドガー、レオがノエルに興味を待ったぞ」
「な!? なんでそうなる?」
「そこまで嫌う人なら、どんな感じの人か気になるじゃん」
「会わなくていい!」
俺とリックは目を合わせて笑いあった。
その後、俺たちは庶民の服装に着替えて街に出かけた。
市場に着くと、たくさんの人で賑わっていた。
エドガーに抱えられて、キョロキョロ周りを見る。
ん~、歩きたいな。
「エドガー、降ろして。歩きたい」
「だが……」
エドガーは納得せず渋る。
「エドガー、問題ないだろう。自由に歩かせてやれ」
リックはエドガーをじっと見て話す。
その視線を受けて、しぶしぶ俺を降ろすエドガー。
心配そうな顔をするエドガー。
「エドガー、リック。もしも、はぐれたら中央の噴水に居るようにするよ。それなら探し回らなくてもいいでしょ?」
「なるほど、それはいいな」
「はぐれる前提か」
リックは感心し、エドガーは呆れた。
「今回は許してよ。自由に歩いてみたいんだ。ね?」
あざとく、上目遣いで首を傾げるおまけ付きだ。
ぐっと目頭に力が入るエドガー。
「仕方ないな。人に気を付けて歩くんだぞ」
「うん。ありがとう」
よっしゃ。
くるっと、エドガーに背を向けて、ガッツポーズをする。
「クク、足元に気を付けろよ。後、念のためこれを」
小さい巾着袋を渡してくれる。
お金だ。
「好きに使っていい。はぐれたときにも役に立つ」
お言葉に甘えよう。
「ありがとう。遠慮なくもらっとく」
そこから、俺は二人の心配を他所に自由に歩き回り、——はぐれた。
面白かったから、つい夢中になってしまった。
周りを見るも人が多く、俺の視線の高さでは二人は見つけられない。
「まぁ、いいか」
せっかくだ、一人で好きに見て回ろう。
最後かもしれないからな。
満喫しよう。
俺は出店を冷やかしていった。
目を引いたのは、魔石に魔道具だ。
魔道具は魔法でどうにかなりそうだ。
綺麗な色の魔石を一つ手に取る。
「坊っちゃん、そいつはお買い得だよ。その色の魔石は珍しいからな。今なら銀貨5枚だ。お買い得だよ!」
どうやら庶民を装っているが、いいとこの坊っちゃんと思われたようだ。
「この色珍しいの?」
「ああ、綺麗な若葉色だろ? 魔石は赤や青といった、濃い色が多いからな」
「ふ~ん」
魔石は色が濃いほうが良質だけどね。
エドガーの瞳に似てるなこの石。
「おっさん、嘘はだめだろ?」
「色が薄い魔石なんてねーよ。その石、魔力ほとんどないだろうが」
「坊主、魔石は色が濃いほうが良質なんだぞ」
店主はバツが悪そうな顔をする。
「こんなの銅貨5枚だろうが、子供にふっかけすぎだ」
「チッ、欲しいなら銅貨5枚置いていけ。商売の邪魔だ」
俺は巾着から銀貨1枚を出して渡した。
店主は釣り銭を面倒そうに用意する。
「お釣りはいらないよ」
「え?」
「は?」
店主と教えてくれた人の声が重なる。
「このお店これから大変そうだから。じゃ、これもらってくね」
俺は巾着にその魔石を入れるふりをして収納へしまった。
魔石のことを教えてくれた人に、お礼を言おうとして振り返った。
「え? 子供?」
「お前のが、子供だろうが」
そういった少年は、俺より少し上ぐらいの年齢に見える。
しかも、レオに負けず劣らずの美少年だ。
フードを目深に被っているから周りからは見えない。
俺は立ち上がり、場所を移動しようとして人にぶつかる。
「ごめんなさい」
「待て!」
少年はぶつかった男の腕を掴み捻じ伏せた。
「離せ、ガキが!」
「うるさいな、ガキから財布を擦ってんじゃねーよ。おっさん」
少年の手を振り払い、おっさんは舌打ちしてあっという間に消えた。
「え?」
俺は上着の内ポケットを確認する。
巾着がない。
嘘だろ?
「ほら、気を付けろよ。……無理か」
何だと?
「……」
無言で見つめる。
「あのな、隙だらけなんだよ」
どこが?
「周りを確認しない。金が入っている巾着の口を大きく広げる」
二の句が継げない。
安全の日本育ちなんだよ。
「お前一人じゃないよな? 保護者は?」
「……はぐれた」
「やっぱりか、保護者の特徴は?」
「はぐれたら、中央の噴水に居ることになってるから大丈夫」
「大丈夫ね。噴水へ行かずに、騙されてスリにあったと……」
思わず視線を逸らす。
「ったく、連れてってやる」
「え?」
ありがたいけど、もう少し散策したい。
返事に迷っていると、目線を合わせされ、軽くデコピンされた。
「散策も付き合ってやる。まだ見たいんだろ」
おお。
よく出来た少年だ。
「ありがとう!」
「なんか奢れよ」
「うん!」
「なら、行くぞ」
俺は少年の後ろを追って歩き出した。
いつもお読みいただきありがとうございます。
次回更新 10/3(土) 20時です。




